目の行き場に困るとはこういう事か。意識をしなくても目線は当然のように、それへと行ってしまう。
 ジュードはあからさまに頬を赤く染めて、それをみないように俯いているし、ローエンも誤魔化すように髭をさすりながら遠くを眺めている。アルヴィンも視線を外しているが、どうしても見てしまい、赤くなる顔を隠すように手で口元を覆った。
 どうしてこんな事になってしまったのかと記憶を遡れば、全て同じ答えに辿り着く。これもそれも全て、油断していた皆の責任だ。

 それは今から数十分前。街へと目指す道のりで、いつものように休憩がてら食事をとっていた。今日のメニューはマーボーカレーで、一行はそれをいつものように食べていたのだが、そこで油断していた。
 もう数え切れないほど食事をしたので、流石に慣れたと思っていたのだが、それもただの杞憂だったらしく。べっとりとマーボーカレーを胸の谷間から服の下まで付けたミラが、それを気にする事無く完食していた。
 そう、つまりマーボーカレーを零してしまったのだ。その衝撃の場面に唖然としていたパーティーの中で、レイアが一番始めに声を上げた。タオルで拭いても綺麗に落ちる訳も無く、それでもマーボーカレーのこびり付いた服をずっと着ている訳にもいかず。
 丁度、今あるコスチュームが水着しかなかった為、急遽ミラのみ水着姿に着替える事になり、今に至る。

 思い出すだけで頭が痛くなる。それは未だにきちんと食事を取れないミラに対してではなく、そんな彼女を可愛いと思い水着姿に欲情を隠せない自分に対して、だ。
 レイアとエリーゼは近場の泉でミラの服を洗っている。すぐに終わるから待ってて、とレイアに言われてから数分。溜め息しか出てきてくれず、いつもの余裕が全く保てない。
 いつもより肌を隠す布が少なく、いつ揺れる胸がはみ出すか分からないという妙な心配ばかりが積もっていく。そわそわと落ち着かない周りと同じように、冷静でいられない自分が情けない。
 なんて、そんな事を考えていても実際は、例えジュードやローエンの視線だったとしても今の彼女の姿に視線を向ける事に苛立ちが生まれてしまうという、自分勝手な嫉妬心。もう一度ミラへと視線を向ければ、風に揺れる髪と腰の布に理性が壊れてしまいそう。
 ──俺って、ちっせぇな。
 アルヴィンはそっと足を動かしてミラの側へと立ち止まれば、彼女が顔を向けるより先に、その肩に自分の上着を掛けた。

「アルヴィン……?」
「精霊様の主だとしても、ミラ様も風邪ぐらい引くだろ?」
「ふふっ、気遣いというものだな? ありがとう、嬉しいよ」

 素直に喜ぶ彼女から目を逸らしたのは、本当は気遣いなんて優しいものではなく、自己満足な嫉妬からの行動だったからか。その真意は自分でも分からないが、それでも分かる事はただ彼女が愛しいと思ってしまうという事だけ。
 アルヴィンの上着をぎゅっと握り、深く羽織る姿に胸がきつく締め付けられる。彼女を殺す為にずっと彼女を見ていて、いつの間にかそれが殺意でなく好意に変わってしまった。いつかこの気持ちを殺してしまわないといけない日がくる、それまでにこの気持ちに終止符を打てるのだろうか。
 頭の中でそんな事を考えていれば、先ほどまでゆっくりとしていたミラの声が突然響いた。

「アルヴィン、危ない!」
 腰にある剣をスルリと鞘から抜く姿と、背中から聞こえる魔物の鳴き声に、後ろを振り向こうとしたが途中でその動きが硬直した。
 アルヴィンの後ろにいる魔物に剣を突き刺し、そしていつものように蹴りを入れようとしたのか、思いっきり足を振り上げた彼女に、思わず声を上げてしまった。

「……って、ミラ足上げんな!」
「え?」

 きちんと隠しきれていない布が開け、綺麗な太ももと水着のパンツが目に入ったのだ。それに目を逸らす事ができなかった自分も自分だが、後ろの魔物の存在なんて忘れて一気に頬の熱が上昇する。
 そんな時、聞き覚えのある詠唱の声と共に禍々しい闇の精霊術が魔物を襲った。振り返れば、断末魔を上げて崩れる魔物の先に、エリーゼとレイアの姿が目に入る。間一髪とは、この事。どうやら服を洗い終わって戻ってきたらしい。
 彼女達はそのままアルヴィンの前へと立ち止まれば、苛立ちを含んだ表情でそっと微笑んだ。

「アルヴィン君、ちょっと良いかな?」
「最低です」
「なんで俺だけなんだ!」




これは不可抗力だと主張します




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水着コスチュームのまま、闘ってる時も構わず足蹴りするミラ様が素敵すぎる。




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