月明かりの照らす静寂な夜の風景。大人子供が平等に寝静まるこの時間帯、窓から吹き入る薄い風が頬を撫でる。眠れない訳ではないのだが、何故かふと目が覚めた。
 ゆっくり上半身を起こせば、数回頭を掻いて開きっぱなしの窓を、ぼーっと眺める。昼間は依頼をこなしたり、魔物との戦闘で疲れきっていたので、まだ寝たりない頭はきちんと働いてくれない。
 隣にある二つベッドでは、まだ寝息を立てて幸せそうに眠っているジュードとローエン。自分ももう一度寝ようと、アルヴィンは大きく欠伸をしてベッドに横になった。眠たくて仕方のない体は、動かす事も億劫になる程。それでも目を瞑れば、頭の中にはミラの姿が映っていた。
 早く寝ないと明日の戦闘に支障をきたしてしまうかもしれないというのに、どうしても頭の中を離れてくれない。"おやすみ、アルヴィン"そう言った彼女の言葉が脳裏に焼き付き、その時の柔らかな笑顔が胸の奧を締め付ける。
 ──俺らしくねぇな。
 頭の中で舌打ち、早く寝てしまおうと布団を大きく被り直した。


 「って、何してんだ俺は」
 目の前には、布団を口元まで被り無防備にも眠っているミラの姿。
 先程眠ろうとしたアルヴィンは、脳内に染み付いたミラが気になって気になって仕方がなかったので、重たい体に鞭打ち女部屋に忍び込んだのだ。ミラだけでなく、レイアやエリーゼも一緒のこの部屋で、三人が起きないように息を潜める。
 顔を見るだけだ、そうしたらもう寝よう。そんな事を頭の中で決意し、そっとミラの寝顔を伺う。意志の強い瞳は瞼によって閉ざされ、小さな寝息を立てて息をする度に布団を上下に動かしている。
 そっと目を隠す前髪を払えば、ふわりと彼女の寝息が手のひらに掛かった。それだけで心臓が一気に跳ねて、煩くなる心音に一度だけ目を閉じた。前髪を払う手でそのまま彼女の頬をなぞれば、滑らかな肌が心地よい。
 もっと顔を見たくて、口元まで被っている布団をそっと捲った。薄く閉じた唇が現れ、思わず生唾を飲み込む。顔を見るだけだと決めていたのだが、それだけでは足りなくて。頬に触れる指先を滑らせ、手のひらで覆うように包み込んだ。
 ──お願いだから起きてくれるなよ。
 月明かりで伸びた二人の陰が、そっと重なった。柔らかな彼女の唇は心地良くて、思わず舌を入れそうになって慌てて唇を離した。触れるだけの数秒間だったが、顔を赤らめるには十分の時間で。
 アルヴィンは腕で顔を隠すように覆い、逃げるように女部屋を後にした。




月明かりに全てを隠して




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この後、興奮して結局眠れなかったアルヴィンと、実は起きていて恥ずかしがるミラ様な展開だと思います。
ありきたりな展開、万歳!





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