手袋は片方だけで




身体をぎゅっと包まれる感覚がして、薄らとだが意識が浮上しかけていた。包まれる力は徐々に強くなっていき、その温かさと心地良さに、ルフィの意識はまた夢の中へと誘われていく。そのとき、はっくしゅん! とすぐ近くで聞こえてきたその声に驚き、目を開けた。ずずっと鼻水を啜る音がしたと同時に、ぶるりと身体が震える。
ルフィの身体を包みこんでいたものの正体はゾロの腕だった。ゾロが震えているのに気がついた瞬間、あまりの寒さに声を上げる。慌てて足元でだまになっている毛布へ腕を伸ばした。ゾロの身体も一纏めに毛布で包み込み、ルフィもゾロの身体をぎゅっと抱きしめ返す。しかし、それでも寒さは紛れなかった。ゾロはまだ眠っているが、やはり寒いのだろう。ゾロからルフィへ抱きついてくることなど、なかなかあることではない。ルフィは顔を綻ばせるが、やはり寒さに負けて身を震わせた。
「ゾロー、可愛いなァ。でも寒ィ」
名残惜しく、ゾロをきつく抱きしめたあと、腕を伸ばしてそこかしこに散らばっている衣服を掻き集めた。ゾロの腕を退かし、服を着せてやると毛布でぐるぐる巻きにしてやる。とりあえず上着か何かを持ってきた方が良さそうだと飛び上がった。すると、展望室の窓一面が、白く染まっていることに気づく。通りで寒いはずだった。窓へ駆け寄り、下を覗き込むが何も見えない。雪が積っているのだろうと思えば、ルフィの心は躍った。
梯子を下り、外へ降り立った瞬間、寒さと凄まじい雪の量に声を上げる。顔に当たる吹雪が少し鬱陶しく、縄梯子を下りるのが面倒だったこともあり、ルフィはそのまま芝生甲板へ向けて飛び降りた。足がすっぽりと雪の中に埋もれ、ルフィのテンションは最高潮になる。
ひとまず上着が必要だと男部屋へ向かうが、扉を開けるのにもひと苦労した。ボンクで鼾を掻いているウソップを叩き起こし、チョッパーやフランキー、ブルックも起こして回る。雪だ雪だと騒ぎ立て、チョッパーは外を覗き込むなり、歓声を上げて目を輝かせた。しかし、寒さには敵わず、ウソップが見繕ってくれたオレンジ色のダッフルコートと手袋、真っ赤なニットの帽子を身につけていく。麦わら帽子は首へぶら下げ、マフラーだけは緑色を自分で選んだ。チョッパーは寒くもないはずなのに、ウソップに服を選んでもらってはしゃいでいる。すっかり暖かくなり、ゾロの分の防寒具を手にまた展望室へ向かった。
「ゾロ起きろ! 雪だぞ、雪!」
がくがくとゾロの肩を乱暴に揺さぶると、ふがっと鼻を鳴らし、思いきり顔をしかめてからゾロは目を覚ました。寒ィな、と身体を震わせたゾロへ、待ってましたと言わんばかりにルフィは満面の笑みを浮かべる。持ってきたコートと手袋を渡してやり、ゾロが着込んでいる間に赤いマフラーを巻いてやる。
「マフラーはおれが選んだんだぞ。おれがゾロの色で、お前がおれの色だ! いいだろ?」
「へェ、そりゃァいい。ありがとな、ルフィ」
ゾロに褒めてもらい、ルフィは得意げにうししと笑みを零した。立ちあがったゾロが刀を帯刀しつつ窓の外を眺め、こりゃすげェと声を上げている。そんなゾロの背中に飛びつき、ルフィは同じように窓の外へ視線をやった。
「こんだけ降ってると、かまくらが作れそうだな」
「かまぼこ? うまほーな名前」
「かまくらだ、アホ。小ェ雪の山を作って中をくり抜いてくんだよ。その中で餅焼いたり…まァ雪のテントってとこだな」
ゾロの説明をうんうんと聞き、餅という単語を聞いた途端、ルフィは目を燦燦と輝かせる。それ作ろう! かまぼこ! また間違った名前を口にするが、ゾロは呆れて苦笑を零すだけだった。
とにかくでかいのを作ろうと、甲板の上へ雪を積み上げていく。水分の多い雪は手袋を濡らし、防寒の意味をなさず、手を悴ませた。ルフィは手袋を外すと、気休めにしかならないが、手を擦り合わせ、はあと息を吹きかける。そうすると一瞬温まるのだが、すぐにまたじんじんと皮膚が痛む。雪の形を整えているゾロの元へ走り、手が痛ェと、ルフィはゾロに掌を向けた。ゾロは眉を上げたが、しょうがねェやつだなと、鼻頭を寒さのためか赤く染めて手袋を外した。ルフィの手を掴み、少しでも熱を送ろうと、同じように冷えて悴んだ手で懸命に擦る。はー、と息を吹きかけられれば、ゾロの息が白く色づいた。ルフィはその煙を大きな目で追いかけ、にししと笑う。
「やっぱゾロにやってもらうとあったけェ」
「なんだそれ」
ゾロも笑みを零し、あとちょっとだ、かまくらの中はあったけェぞ、とルフィから手を離した。まだ足りねェ。頬を膨らませるルフィだが、すぐにぱあっと顔を輝かせる。いいことを思いついた。ゾロの手を取り、指を交互に絡ませる。ゾロは突然のルフィの行動に驚いた様子で、まじまじと隣の男を見据えていた。
「片っぽだけでもあったかいほうがいいだろ」
「お前な…これじゃいつまで経ってもかまくらできねェぞ」
「大丈夫だ!」
その根拠はどっからくるんだよ、ぱっとルフィから目を逸らしたゾロは、深々とため息を吐いた。ゾロと二人ならば、不可能なんてないのだと、ルフィは知っている。それに、ゾロに触れていたかった。片方の手だけでも十分なぐらい、ゾロはルフィへ力を与えてくれるのだ。ゾロも結局は、繋いだ手にしっかりと力を込める。二人で顔を見合わせて、やるかと気合を入れ直すと、目の前の雪の山へ取りかかった。

(20141115 拍手文)


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