とろけるような熱をきみと




現パロ

ガラス製の蓋からぽこりぽこりと気泡が立っては消えていく様を眺め、鍋が煮える音を聞いてそろそろかとふきんを取った。今年は冷夏だったとは言え、やはり季節が変わると、あの頃は暑かったのだなァと実感する。いくつもの台風が立て続けにやって来ては通過した途端、一気に季節が変わった。
1DKの小さな部屋は、廊下にキッチンが面しているため、玄関からは風が吹き込み、火を扱っていようとも身をすくめてしまう。両手に持ったふきんで鍋の取っ手を掴み、部屋へ足を踏み入れる。そこにゾロの姿はなく、ひとまずカセットコンロへ鍋を置いてから、こたつの盛り上がっている箇所を狙い、わざと足で踏みつけた。
「いてェ……」
弱弱しく聞こえてきた声に苦笑を零し、飯だ、起きろ、と軽く足蹴にする。寒ィ寒ィと声を上げつつ、鍋の蓋を開けた。てきぱきと支度を済ませ、サンジもこたつへ足を踏み入れる。そのときに触れたゾロの足を通り越し、背中を蹴れば、いい加減にしろてめェと、またしても弱弱しい声が聞こえてきた。
「こっちの台詞だ、クソマリモ! てめェ飯抜きにすんぞ!」
小言を零しながらも発泡酒の缶を開ける。プシュ、と空気が抜けた音が小さな部屋の中に響いた瞬間、やっともぞもぞとこたつ布団が動き出した。中から顔を出したゾロの頬は、熱気のためか少し赤く染まっている。
「おりゃ」
「うわっ、冷てェ! ふざけんな!」
冷えた手をゾロの首元へ当てれば、慌てたようにやっと起き上がった。テーブルの中央でぐつぐつと煮える鍋を見て、美味そうだな、とゾロは口端を上げる。
足元からじわじわ身体の芯まで温まっていくのを感じ、こたつ最高だなと呟けば、ゾロも一生出られる気がしねェと頷いた。足と足を自然と触れ合わせ、ビールを注いだグラスをゾロの前に置いてやる。鍋もよそってやり、ゾロは律儀に手を合わせていただきますと声を上げた。サンジも手を合わせ、豆腐を冷まそうと息を吹きかける。
「美味ェな、鍋」
「二人じゃなかなかやらねェもんなァ。やっぱルフィたちも誘えばよかったか」
「別におれたちだけでいいだろ」
「お、おう」
ゾロ自身、特に理由もなくそう言ったのだろうが、サンジは頬に熱がこもるのを感じた。気づかれる前になんとか熱を引かせようと考えた挙句、焦って白滝を口へ入れれば、あまりの熱さに噎せてしまった。大丈夫かよ、そう言いながらティッシュの箱を差し出してくれたゾロに、きゅんと胸が高鳴る。逆効果だったと、サンジもビールを呷った。
一緒に住まねェか、ここしばらく、ずっと言い淀んでいる言葉が喉元を出かけたが、寸でのところでぴりりと喉にくる炭酸と共に飲み込んだ。こたつを買ったのだって、実はゾロを家へ呼ぶ口実だった。きっとゾロは口実なんて必要ねェだろと言うのだろうが、飯を作ってやるだとか、面白いDVDを借りただとか、そんな口実を作らないとゾロを家に呼ぶことさえできない。我ながら不甲斐ないとは思うが、こんな風に、しかも男を、好きになったのは初めてなのだ。同棲をしようなどと、一体どんな口実を作ればいいのか。全く見当がつかず、なかなか言い出せずにいる。
二人でも案外食べきることができるようで、鍋はすっかり空になった。腹を抱え、ゾロはまた床へと身を預けてしまう。サンジは後片付けをしながら、ちらとゾロへ視線を向けた。後ろ髪を引かれつつも、まとめた食器と鍋を手に、こたつを後にする。温かい場所を出た瞬間寒さに身をすくめ、キッチンへ向かった。洗い物はお湯を使えるため幾分マシだが、早くこたつに戻りてェと、すごいスピードでそれらを済ませていく。
部屋へ戻り、蓑虫のような状態のゾロをむりやり端へ追いやると、せまいテーブルの下へ潜り込んだ。ゾロは狭ェと文句を言うが、そこから出る気は到底なさそうだった。
「おめェ今日どうすんの。泊ってくか?」
「あー…そうすっかな」
サンジもごろんと床へ横になり、正面からゾロを抱きしめた。男二人が小さいこたつへ同じ場所から潜り込めば、身動きが取れないほど窮屈になる。足を絡ませると、ゾロが億劫そうに瞼を開けた。目が合った瞬間、サンジはゾロへ唇を寄せる。音を立てて触れるだけのキスを繰り返し、抱きしめる腕にはもっと力を込めた。一生離したくねェな、そう思う。
「てめェ暑苦しいぞ」
「うわー、可愛くねェ」
背中から厚手のパーカーを捲りあげ、そのまま手を忍び込ませた。少し汗ばんでいるその背に掌を這わせると、ゾロの身体がぴくりと震える。
「っ、手冷てェ、やめろ」
「なァ、二人であったかくなることしようぜ、ゾロ」
何か文句を言おうとしたであろうゾロの口を塞ぎ、舌をすべりこませた。こういうときでさえ、何か口実を作ろうとする自身に呆れてしまう。背中から腹へ手を滑らせ、更に上らせていく。しかし結局は、ある一点を指で引っ掻いた瞬間、声を上げたゾロの愛おしさに、口実など考えている暇を失くした。

(20141115 拍手文)


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