覇王樹



(海賊 不思議なサボテンが子どもの頃のルフィに変化する話)
2015年に発行した本の再録です



 黄土色の砂埃が舞い上がる。歩みを進めるたび、乾いた砂の中へ足が沈み込む感覚があった。懐かしいその感触から、ルフィの脳裏には一国の王女の存在が浮かぶ。水色の長い髪を靡かせ、満面の笑みを浮かべるその姿を想起し、たまらずロ元を緩める。懐かしいなァと、隣を歩くゾロへ声をかけた。
 草履の足元は、砂に塗れてどうにも歩きづらい。足裏にも入り込んだ砂のせいで、地面を踏みしめるたび足が滑る。その上、汗で固まった砂がさらに鬱陶しさを増していた。上陸前、靴を貸そうかと尋ねてくれたウソップの申し出を断ってしまったことを、多少なりとも後悔する。だが、これは『おれのポリスー』なのだから仕方がない。慎重に砂上を踏みしめながら、ルフィは先を行く。
 言葉足らずの一言でも伝わったのであろう。同じようにビビを想起し、口角を上げて頷いたゾロは、砂埃から逃れようとしてかマントのフードを深く被り直した。
「元気だといいわね、王女さん」
「いや、なんつーか、おめーが言うな!」
 ロビンの言葉にすかさず突っ込みを入れたウソップは、身体に複数の手を生やされるなり、悲鳴を上げて謝罪の言葉を口にしている。ロビンはあの頃、ビビを苦しめていたクロコダイル側の人間だった。そんなことはすっかり忘れていた上、ルフィにとって大層どうでもいいことではあったが、思い起こしてみれば、どこか感慨深いものがある。仲間になった当初こそ、微笑を浮かべることはあれ、こんな風にウソップをからかって笑うロビンの顔は見ることがなかった。ししし、と笑声を零した瞬間、隣の男に力強く背を叩かれる。
「気ィ抜いてっと、足元掬われるぞ」
 よろけた拍子にずれてしまった麦わら帽子を元の位置へ戻しつつ、しかと前を見据えているゾロへ向けて、ルフィはおう! と声を張り上げた。気合を入れ直すため、ぴんと背筋を伸ばす。
 島の偵察を決めるくじで、見事先端が赤く塗られた紙縒りを引いたのは、パンクハザードへ上陸したときと全く同じメンバーだった。ウソップは、いつもの島に入ってはいけない病を発症させ、サンジへ紙縒りを押しつけようとしていたが、最終的には船から蹴り出されていた。今のところ、ウソップが杞憂しているような、大事件が起こる気配はない。島は平和そのものであり、初めのうちは久方ぶりの砂漠へ高揚していたルフィだったが、そろそろ退屈し始めていたところだ。欠伸を噛み殺し、目的の場所へと、ただまっすぐ歩を進める。
 ルフィがこうして大人しくしていられるのは、島の一角から発せられる、とてつもなく強大な気を感じ取っているからだった。ゾロがルフィを正したのも、この異様な雰囲気を感じ取っているからに違いない。今まで、どんな強敵と戦おうと、感じたことのない。それは、全く別次元の存在感だった。サンジが島への上陸を拒否したのも、見聞色の覇気が効きすぎるためだろう。船にいるだけで気持ちが悪いと、それでも人数分の海賊弁当を弁えながら顔を顰めていた。
「なんかよ、人、じゃァねェみたいだな」
「さっき言っていた、妙な気のこと?」
 ロビンに向けて首肯し、ルフィは周囲へ神経を張り巡らせた。脳内にぼんやりと浮かぶのは、細長く、妙な形をした何かだ。ここまで顕著に存在を主張しているものは、普段であれば、もっとはっきりと姿かたちが分かるはずだった。ゾロも同じものが見えるようで、考え込むよう首を傾げている。
「危険そうなものなの?」
「んん! それがよく分かんねェんだよなァ」
「ゾ、ゾロくん、君も分からないのかい? おれ、このままじゃ砂の大地で干からびてしまう病が……!」
「敵意こそ感じねェが、なんつーか、それに感情自体あるのか微妙なところだな」
 チョッパーが不在のメンバーの中には、誰一人ウソップの心配をする者がおらず、ロビンは無言で水筒を差し出している。ウソップはがっくりと肩を落とし、自棄を起こしたのか、受け取った水筒から、がぶがぶと水を飲み始めた。
 この島はアラバスタと違い、砂漠地帯では珍しい泉がそこかしこにあった。住み心地はよさそうだが、もう何百年も昔から人は住んでいない。その理由を、隣接している島の住民から聞いたばかりだった。地上の様子を窺うため、空から降り立った神が、休息の地としている場所であり、島自体に神秘的な力が宿っていると言い伝えられている。
 そんな神の大地を汚すのは言語道断とばかり、政府から直々に立ち入りが禁止されているようだが、ルフィは今更、そんな規律を守るような男ではない。神にも、政府にも、散々喧嘩は売ってきたのだ。そもそも、覇王島という名を聞いた瞬間から、上陸しないという選択肢自体なかった。
「近ェな」
 鋭く視線を尖らせたゾロの声音に、ウソップが震え上がる。ロビンの背後へ回り、リュックの中へ水筒を返すついで、そのまま隠れることにしたようだ。女の背に隠れんな、そうゾロに咎められても、ウソップは一人言い訳を連ねるだけだった。
 見上げるほど高い砂の山を迂回する。すると、四人の視界へ飛び込んできたものは、巨大なサボテンであった。あまりにも予想外である気の正体に、全員がぽかんと口を開け呆けてしまう。優に十メートルはある青々としたサボテンは、大木並に太いその身を砂上から伸ばしている。全身を棘が纏い、茎から二本、まるで万歳をしているかのような腋芽が目立つ。
「そういえば、サボテンの別名は覇王樹よ」
 どうやら、神の加護を受けた神秘の正体は、これで間違いないようね。ロビンが興味深げに呟いた声を聞き、ウソップはやっと安心したようだ。ロビンの背から離れると、それにしてもでけェなと、サボテンの傍まで歩み寄り、目を丸くしている。
「なんだつまんねェー! サボテンじゃ戦えねェしよォ」
「あァ、本当にな」
「頼もしいな君たちは! それにしても、こいつのどっから、そんなすげェ気が出てんのかね」
 サボテンに触れようとしたウソップへ、ロビンがすかさず制止の声を上げた。触らない方がいいわ、そう言って頬へ掌を当てたロビンは、何かを考え込むようにしてから口を開いた。サボテンは植物の中でも、不思議な力が宿りやすいと言われていることから、嘘か真か、人間へ寄生したり、言葉を発したりすることがあるのだと、ロビンは神妙な面持ちで語り出す。どこからどう見ても、巨大なだけで、他のサボテンと大差ないように見えるが、ウソップは顔を青く染め、すっかり震え上がってしまっている。
 そんなロビンの話を右から左へ聞き流していたルフィは、好奇心のままサボテンの棘に触れた。ロビンが驚きの声を上げたときにはもう遅く、ルフィは棘が刺さり、血の出た指先をまじまじと眺め、別になんともねェぞと歯を見せて笑った。すると、ルフィから出た血液が滴り落ちるわけでもなく、少量ではあるが、サボテンの棘へと吸収されていく様子が見て取れた。おおっ、と声を上げたルフィの腕を、慌てたゾロの手が掴む。
 一体全体どんな仕組みか。突如サボテンが発光し、茎がみるみるうちに膨らんでいく。逃げる間もなく、それは空気を入れすぎた風船のように、パンッと小気味いい音を立てて破裂した。千切れた果肉が飛んでくるのを、ソロは一瞬のうちに刀を抜くと、次々と斬りつけていく。
「んのバカ! ロビンの話聞いてただろうが!」
「うはは、悪ィ悪ィ」
 ゾロからげんこつを浴びせられたが、構わずルフィは笑い続けた。ロビンとウソップは、諦めたよう、深々とため息を零している。サボテンはびっくり箱のようなもので、大いに驚かされた今、それ以上のことは起こりそうもないほどの静寂に包まれていた。それを裏付けるようにして、足元へ転がった果肉をつついてみるも、妙な気さえ感じることはない。
「なんだ! どこだここ!」
 そんなとき、サボテンが伸びていた箇所から、子どもの声が聞こえてきた。全員、視線をそこへ集中させれば、そこにはどこからどう見ても、小さくなったルフィの姿がある。
「あ! お前、それおれの帽子だろ! 返せ!」
 小さなルフィは、きょろきょろと辺りを見回したあと、何かを探すように頭部へ手をやった。それからルフィの頭上にある麦わら帽子を認めた瞬間、怒りを露わに牙を向いた。悪魔の実の能力まで健在なようで、勢いをつけて伸ばしてきた子どもの腕を、ゾロは掌でなんなく受け止めてみせる。
「これはおれの帽子だ!」
「嘘つけ! これはシャンクスからもらった大事なもんなんだっ、返せ!」
「おれだってシャンクスからもらったんだ!」
 ぎゃあぎゃあ騒ぎながら、喧嘩を始めた二人のルフィを、仲間たちは呆然と眺める他なかった。一番に動いたのはゾロで、ガキ相手に同レベルで喧嘩してんじゃねェと、ルフィの首根っこを掴む。何やら、面倒なことになったのは確かだ。ウソップは助けを求めるようロビンの顔を見上げたが、首を横に振られるだけだった。









「それで結局連れて帰ってきたわけ? 呆れた!」
「どういう原理かは分からないけど、もし過去のルフィだったとしたら、置いていくわけにもいかないでしょう?」
「それはそうだけど……なんであいつはこうも、厄介事を持ち込む天才なのよ」
 深々とため息を零したナミは、すっかりゾロに懐いてしまった小さなルフィを眺め、もう一度息をついた。出会いが早かろうが遅かろうが、どちらにせよ、ルフィはゾロヘ執着を見せるようになるのだと、知りたくもなかったことを実感させられる。ゾロもゾロで、くっついて回るルフィを邪険にすることなく、それどころか楽しげに笑っては頭を撫でてやっている。ナミは、マストのベンチに座り、頬を膨らませているルフィのことをちらりと見遣った。
「アンタね、自分に妬いてどうすんのよ」
「……だってゾロ、おれにはあんな優しくねェ」
 当たり前でしょ。ナミの言葉に、ルフィはますます拗ねたよう唇を尖らせた。ゾロも少しは気を使いなさいよ、そんな意味を込めて無言で睨みつける。ナミの意図をしっかりと察したのであろう。気づいたゾロが、ナミへ視線を向けてから気だるげに肩をすくめるも、ルフィを手招いた。ゾロに構ってもらえた瞬間、ぱあっと顔を輝かせて一目散に駆け寄る姿は、まるで飼い犬のようだ。
「なあ、お前は未来のおれなんだろ。ゾロから聞いたぞ」
「おう、多分な!」
 元来、人懐っこい性格の二人は、大喧嘩をしたあととは思えぬほどケロっとしていた。好奇心の赴くまま、あれもこれもと現在のことを聞く子どもの顔は、将来への期待に満ち溢れている。本当に海賊になれたんだなとか、仲間もいいやつらばっかりだとか、おれは海賊王になるぞなどと、ゾロの肩に乗りながら一気に捲し立てていた。そんなルフィの思いは、子どもの頃から何一つ変わっていない。少しずつだが、それらを実現し始めているところなのだ。
「おめェ、ガキの頃からなんも変わってねェんだな」
「なんだと、ゾロだって変わってねェくせに!」
「知らねェだろ。適当言ってんな」
 からかいと呆れを含んだ声音で言ったゾロへ向けて、ルフィは知らねェけど絶対そうだ! と自信満々な返答をする。子どもの頃から大剣豪を目指し、その夢に向かって鍛錬を積み重ねていたのであれば、ルフィとそう大差ないだろう。それに、根拠はなくとも、ゾロは絶対に子どもの頃から変わっていないという確信があった。見てみたいな、とルフィは思う。
「なァなァ、あのサボテンにゾロの血やったらよ、チビのゾロが出てくんのかな」
「アホ、不謹慎なこと言うな」
 さすがのルフィでも、これを言ったら怒られるかもしれないという意識はあったのだ。おおっぴらに言うのは憚られ、ゾロの耳元へ口を寄せて呟いた内容はぴしゃりと一蹴されてしまった。
「あーずるいぞ! おれもゾロと内緒話してェ〜!!」
「おいゾロ、ダメだぞ。いくら相手がおれでも許さねェからな!」
「面倒くせェやつらだな……」
 顔を歪め、深々とため息をついたゾロだったが、今は目の前にいるルフィのことを優先することにしたようだ。肩に乗って駄々を捏ねている子どもを見上げ、また今度な、と眉を下げて笑っている。見るからに拗ねてしまったルフィだったが、すぐにぱあっと顔を輝かせ、ゾロの芝生のような頭へ顎を乗せた。
「まあいいや。帰ったらエースにしてもらうから」
 ぴくりと、ルフィの眉が知らず持ち上がった。突然静かになってしまったルフィを前に、子どものルフィは、不思議そうに首を傾げている。すると、ゾロに射抜くような視線を浴びせられたことで、ルフィはハッと我に返った。
「なァ、エースとサボはどうしてるんだ? 元気にやってんのかな」
 裏のない笑顔を向けられて、一瞬息が詰まる思いをした。あまり、将来のことを話すのはやめたほうがいい。未来が変わってしまう可能性もあると、ロビンから事前に忠告を受けていた。もし、ルフィがぽろっと口に出してしまったことによって、ゾロと出会う未来がなくなるのだと思えば、それらを口に出すことは憚られる。ルフィが普段使わぬ脳をフル回転させている間、ゾロは子どものルフィへ話しかけて、時間を稼いでくれているようだ。
「えっとな、エースもサボも、今は遠いとこにいてあんま会えねェけど、元気にしてると思うぞ!」
「っ、そっか! なあなあ、今のおれとあいつら、どっちが強いんだ?」
「うーん、やっぱあいつら、すっげェ強ェからなァ。でも、おれは負けねェぞ!」
 ルフィの言葉を受け、なんかおれかっけえ!! と子どものルフィは、両手を広げてはしゃいでいる。何も嘘は言っていない。考えに考えて発したものは、二年前と今の思い出を、ごちゃまぜにしたものだ。嘘が苦手なルフィが伝えられる精一杯のものがこれなのだった。
 これでよかったのだろうか、ルフィにはよく分からずにいたが、ゾロの表情を窺えば、眉を下げつつも、にかっと歯を見せて笑ってくれた。それから、すぐにぐちゃぐちゃと髪を掻きまわされる。えらいぞ、そう褒められているような気分になり、ルフィは嬉しさと、未だなくならない虚無感を前に、ゾロの胸に飛び込んだ。しがみつくようにして、広く筋肉質な背中へ腕を回す。ゾロに背を撫でてもらうだけで、その薄暗い感情は、再びルフィの胸の内へしまわれる感覚があった。





 胡坐を掻いた膝の上に、ゾロを跨らせる。ちょうど正面にきた胸元へ、じゅうと吸いついてやれば、ゾロは背を逸らした。快感から咄嗟に逃れようとしての行為なのだろうが、これでは自ら胸を突き出して、もっととねだっているように見えてしまう。そんな姿を前にルフィの欲は更に膨らんでいき、ゾロの胸の尖りを舌でつついたり、乳輪をぐるりと舐めたりしながら、息を荒げる。
「ゾロ、自分で挿れられるだろ」
「ん、」
 ゾロの尻たぶを両手で掴み、左右に広げてやると、ゾロも素直に腰を浮かせた。おもむろにルフィの性器を掴み、ゆっくりと腰を下ろしたゾロは、自ら双丘の奥にある窄まりへ、ぴたりとそれを押し当てる。馴染ませるようにして、何度か亀頭を尻に擦り合わせると、ルフィの性器はそれだけでぴくぴくと痙攣を繰り返した。もうすぐゾロと繋がることができるのだ。そう考えるだけで、ルフィはもう達してしまいそうなほどの快感に包まれる。
 ゾロが、ぐっと腰を下ろす。狭い入り口を押し広げ、徐々に温かい懐の中へ取り込まれていく。この瞬間が、なんとも言えぬ幸福感に包まれるのだ。奥まで辿りつくのを待ち、ゾロと繋がっていることを実感するため、何度か下からゾロの身体を突き上げる。そのたび、ゾロはあられもない声を上げ、ルフィの首に回す腕に力を込めた。
「なんかおめェ、今日ねちっこいな……」
「だって、あいつ、一日中ゾロから離れなかっただろ」
 ゾロの唇へ一度キスをして、腰を抱き直す。
「あいつもおめェだろうが、あっ、」
「そうだけど。でもゾロ、あいつとはキスも、エッチもできないんだぞ」
 分かってんのか、上目づかいでゾロを見遣り、ゾロの性器へ手を伸ばす。上下に扱いてやれば、ゾロはふるりと身震いした。甘い吐息を吐き出す唇を啄み、すぐに舌を差し入れる。それと同時、腰を揺さぶってやる。口も、性器も、深くまで繋がっている実感がどうしても必要だった。しつこく舌を絡めていると、耐えきれず漏れるゾロの喘ぎが、直接口内から伝わってくる。そのたびルフィは、あのサボテンのように光が溢れ、心臓が膨張していくような気がするのだ。
「ゾロが好きなのは、あいつじゃなくて、今のおれだろ」
「あっ、あ、んっ、当たり、前だろ……!」
 それまで軽く揺さぶるだけだったが、ルフィは加減もせず、ゾロの深いところ目がけて下から突き上げた。奥を無遠慮に何度も抉ってやるのが、ゾロはたまらないようだ。ルフィ、ルフィと、切ない声で名前を呼ばれるのが、ルフィにとってもたまらない気持ちにさせられる。
 サボテンから現れたルフィはといえば、やはり見たままの子どもで、早めの夕飯を食べて風呂に入ったらすぐ、ボンクの中で寝息を立てていた。これからずっと、子どものルフィがここへ留まることになったらどうするのか。仲間たちで話し合いはしたが、結局良い案が挙がることはなかった。


「うわっ、お前ら素っ裸で何やってんだ!?」
 二度三度精を吐き出して満足し、裸のまま抱き合ってキスをしたり、足を絡め合ったりして過ごしていたとき、ふいに梯子のほうから声が聞こえてきた。そこにいたのは小さなルフィで、二人は慌てて離れると、だらだらと汗を流して、そこかしこに散らばっていた服を纏った。
「お、おめェこそどうした。夜中だぞ」
「目覚めたから、コックの兄ちゃんに夜食作ってもらった。すっげェ美味かった! それと、船の中こっそり探検してたんだ」
 サンジの作ってくれた料理を思い出しているのだろう。だらだらと涎を溢れさせながら、両手で頬を覆ったルフィへほっとしたのも束の間、それでなんでお前らは裸だったんだ? と好奇の眼差しを向けられる。ゾロがうっと唸ったのを尻目に、ルフィは腰に手を当てて、得意げに胸を張った。
「おれとゾロはな、愛し合ってたんだ!」
「んのアホ!」
 ごつんと頭を叩かれて、ルフィは巨大なたんこぶのできた後頭部を押さえ、唇を尖らせた。何も、武装色の覇気まで使うことはあるまい。痛がるルフィを不思議そうに見遣る子どもは、自分に打撃は効かないのだと、すでに理解しているのだろう。ベンチから毛布を引きずり下ろし、展望室の床へ身を預けたゾロは、面倒ごとになる前にこの状況を放棄することに決めたようだ。そのまま、寝る体勢に入ってしまった。ルフィも慌てて、ゾロと一緒に毛布の中へと潜り込んだ。すると、ベンチの方向から視線が向けられていることに気がつき、毛布をめくると、お前も来いよ! と声を上げた。
 うれしげに飛び込んできた小さなルフィを真ん中にして、毛布を限界までひっぱると三人の身体をなんとか覆い隠す。なんか懐かしいなあ、そう声を上げ、次第にしゅんと肩を落とした子どもの髪を、ゾロが優しく撫でてやっている。
「おれな、本当は今日、嘘ついたんだ。エースとサボのこと聞いたけど、本当はもう……サボはいねェって、分かってんだ」
 唇を噛みしめて大きな瞳いっぱいに涙を溜めたルフィに、絶対に譲ることの無かった麦わら帽子を被せてやった。サボは生きてたんだぞ、すっげェ強くなって革命軍にいるんだ。そう教えてやりたかったが、ゾロが人差し指を唇の前に立てたのを見て、ルフィはぐっと息をのむ。麦わら帽子で顔を覆い、つばをきつく握りしめて静かに泣く子どもの頃の自分の姿は、見ていて気持ちのいいものではない。困ったように息をついたゾロは、鋭い視線を麦わら帽子へ向け、ふいに口を開いた。
「おい、ルフィ。よく聞け」
 一体、どちらに向けて放たれたのか、ルフィにも分からず、二人揃ってゾロの言葉へ耳を傾ける。
「海賊王を目指すのは、生半可なもんじゃねェぞ。これからもっと辛いことがあるかもしれねェ。それでもお前は、絶対にそれを乗り越えられる男だ」
 少なくとも、今のお前にはエースがいて、未来のお前には、おれたちがついてる。はっきりと、迷いのない声音で、ゾロはそう言った。きっと、これは二人に向けて言っているのだろうと、ルフィも確信する。口端を上げ、相変わらずゾロはかっこいいなァ、そう一人ごちた。たまらず腕を伸ばし、子どもの自分ごとゾロを抱きしめてやる。大の男二人に挟まれたルフィは、苦しい! と笑いを滲ませて元気な声を上げた。それから、なんかもう大丈夫みてェだと、満面の笑みでルフィのことを見上げた瞬間、腕の中からその感触が消え失せたのだ。
 跡形もなくいなくなった過去の子どもの姿は、夢だったのではないかと思うほど、呆気なくいなくなってしまった。なんだったんだ、そう言ってルフィの背へ腕を回したゾロに、首を傾げる他ない。
 いつだって、ルフィの背を叩いて、前を向かせてくれるのはゾロだった。どんなに辛いことがあっても、こうして海賊を続けていられるのは、心の支えになっている仲間たちのおかげなのだ。おめェも早く会えるといいな。心の中で、過去の自分に語りかけると、ルフィは緩やかな睡魔へ身を預けることに決めた。




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