飛べない鳥 (海賊 ゾロ誕) 足を踏み外した。そう認識したときにはもう遅く、身体は宙へ投げ出される。たった十数段の階段を転げ落ちる間、一瞬のことのはずなのに、妙に周囲の景色が網膜に焼きついた。 ロビンが愛情を注ぎ育てている花壇の花々、同じように大切にされているみかんの木に実る、まるまるとした果実。 甲板に後頭部を打ちつけるまで、ずいぶんと時間が経過したような錯覚に陥る。闇夜に隠されているはずの色とりどりの花の色彩さえ、ゾロの視界には映ったような気がした。 ぬおっ、と危機感のない悲鳴を上げて、ゾロは甲板へ身を預ける。すぐに起き上がる気にもなれず、夜空にぽっかりと浮かぶ月を望んだ。ちかちかと脳膜を刺激し、打ちつけた箇所の鈍痛と相俟って、目を開けていられない。 微かに指先を動かせば、落ちた衝撃によって甲板に散らばった、刀の一本に触れた。瞬間、ゾロの脳の裏の裏側に、くいなの姿が蘇る。目を瞬かせようとも、その映像は振り払えない。 ゾロと同じように、くいなは足を踏み外す。しかし、それ以上に長く急な階段の上でその身体は何度も跳ね、節々を古びた木材に打ちつけたのち、頭部から床に落ちる。奇妙な音がゾロの鼓膜に直接響いた。それは、およそ人間の身体からは出るはずのない、何かがひしゃげた音だ。 ゾロは眉頭にしわを寄せ、その映像を振り払おうと首を振った。映像と呼ぶよりは、まるで今、この身に降りかかる災難のようだ。 頭部からぬめった血液が甲板へ広がる感覚に、ゾロは身を起こした。薄汚れた目板に手を滑らせるが、掌には土埃が尖った感触を残すだけだ。頭部に触れても、瘤が出来ているのが確認できるだけで、出血などしていない。 それから、慌てて突き放した白塗りの刀を手繰り寄せた。おそるおそる鞘に触れたが、幻想を見ていたかのような、何も変わらぬ感覚に刀をしかと掴む。しっかりとした重みを持って、和道一文字はゾロの手にいつもどおり馴染んだ。 跨ったまま他の刀も手繰り寄せ、一本ずつ腰に帯刀していく。慣れた重心を取り戻し、緩慢に立ち上がった。 まず、なぜあそこへ登ろうと考えたのか、どうしても思い出せない。みかんの木にも花壇にも、用があるはずもない。 軽い頭痛を覚え、ゾロは立ち尽くしたまま額を押さえた。甲板に打ちつけたのは後頭部のはずだが、そのまた奥の、もっと奥の箇所が痛む。それも、くいなの映像が浮かんだ場所と同じような、そんな気さえした。 「あれ、ゾロ。お前どうかしたのか?」 ふいに船尾甲板へ姿を現したのはルフィだった。ゾロを見とめた瞬間、草履の底で慌しく音を鳴らせ、駆け寄ってくる。 「いや…、ちょっとこけた」 「あっはっは、まぬけだなァお前!」 否定しかけて、ゾロは事実の一部を告げた。それから、ルフィが腹を抱えて笑う姿を眺め、うるせェと悪態をつく。 確かに、まぬけなことこの上なかった。階段を踏み外し、甲板へ身を落としただけのことだ。それがくいなの死を連想する結果となっただけで、何もおかしなことはない。こんな苦痛も感じる必要などない。ねばついた汗が、みるみるうちにゾロの身から引いていくのを感じる。 「ナミがでっけェ音したから見てこいって言うからよ、ゾロがこけた音だったんだな」 「…そういうことだ」 「そんなに痛かったのか?」 ふいに笑うのを止め、ルフィはゾロの顔を覗き込んだ。 ルフィには、距離感というものがまるでない。周囲にも紛れることのない黒い眸が、目の前にきた瞬間、ゾロは咄嗟に視線を落とした。下手すれば鼻先が触れ合うほどの距離で、ゾロが押さえていた額へルフィが労わるよう掌を当てる。 「そこじゃねェ、打ったのは後ろだ」 「んん?」 ルフィはそのまま、ゾロのこめかみから後頭部まで髪を梳き、流れるような仕草で瘤を確認した。本当だ、そうルフィが歯を見せるのを、ゾロはなぜか苦々しい思いで眺めている。 ゾロの瘤を確認するよう、ルフィは周囲の頭皮を撫で回し、盛り上がったそこを指先でなぞった。ぐ、と強く瘤を押され、微かな痛みに顔をしかめる。 ルフィはゾロの瘤を弄びながら、明日着くという島のことを話し出した。先程、夕飯を食べる間際、ナミも言っていた。ルフィには目の前にある島へ向かわないという選択肢はなく、当然のことながら、船はそこへ向かっている。人が住んでいるかも、治安も気候も、海軍の存在さえ分からない。グランドラインとは、そういう場所だ。ルフィの冒険心はますます刺激される。 楽しみだなァ、笑うルフィに、ゾロも頷いた。 この不可解な感情から抜け出せるのなら、今はなんだってよかった。ゾロがしつらえた瘤から全身にかけて、神経を張り巡らされる感覚がした。そこから不安の種が一息に広がり、ゾロの心は動揺によって鐘を打ち鳴らしている。 ルフィの眸はそれらを見透かしているように見えた。底が見えない真っ暗闇は、その手のようにゾロを労わっているのか、楽しみ弄んでいるのか、計り知れない。ルフィの感情は分かり易いようで、たまに理解できなくなる。 「明日、二人で探検しよう」 「…二人で、か」 「おお、二人だ」 珍しいこともあるものだと、ゾロは目を見張った。そのとき、なんの前触れもなくルフィの唇が触れる。元より、少し顔を突き出せば届く距離だ。ゾロはそれを受け、大人しく瞼を閉じた。 ルフィの指先は未だ、若草色の髪を掻き分け、瘤を這っている。 「たくさんゾロを甘やかしてやるって、おれ決めたんだ」 「そりゃ今もか」 「そうだぞ! もちろん宴もぱーっとやるからな!」 安心しろ。続けたルフィは、また歯を見せて笑う。 ゾロには自分がルフィを甘やかしているようにしか認識できなかったが、これもルフィなりの甘やかし方らしい。 誕生日などというものに、ゾロは重要な価値を見出してはいない。だが、酒をたらふく飲めるということは素直に嬉しかった。こんなときぐらい、素直に甘やかされてみるのもいいだろう。 後頭部に回るルフィの腕を掴み、瘤からやっとのことで引き剥がした。ルフィは何も気に止めていないようで、明日のことを思い、上機嫌に笑っている。手持ち無沙汰な子どもが、何も考えず玩具を弄る感覚に似ているのだろう。 ゾロが少し身を屈めてルフィの唇へ噛みつけば、ルフィは照れたよう笑み崩れた。その表情にゾロは、やはり自分が甘やかしているように思えたのだった。 すでに目と鼻の先にあるひとつの島は、黒い影で満ち満ちていた。皆で甲板に並んで島を眺め、寄港する準備を整える。ルフィはお気に入りであるメリー号の船首に腰をかけ、うきうきとその背を期待に弾ませていた。 その黒い影の正体は、鳥の大群のようだ。岩礁に身を寄せ合い、その下の地面が影を潜めるほどの量だった。船が近づくにつれ、鳥たちは地面を小走りで進み、森の茂みへと身を隠してしまう。 飛べばいいじゃねェか、ゾロ以外の仲間も同じ疑問を浮かべたであろう瞬間に、ロビンがクイナね、と口を開いた。その瞬間、無意識にゾロの肩が跳ねる。 「飛べない鳥の一種なの。可愛いわ」 「鳥なのに飛べないのか? 変なやつらだなァ」 振り向いたルフィが素直に疑問を口にする。ロビンはそんなルフィに、珍しいことではないわと続けた。確認されているだけで、飛翔能力のない鳥類は四十種もあるらしい。 みるみるうちに数を減らすクイナの大群を、ゾロはなんの感慨もなく眺めていた。錨を下ろすのをナミに命じられ、ゾロは島から背を向ける。 船を見ただけで逃げ出してしまう鳥が大量に繁殖しているとなれば、おおよそ無人島なのだろう。ルフィで言うところの、冒険の匂いは何も感じられない。 錨を下ろせば、ゾロの視界の先にまで水飛沫が高く上がった。きらきらと暖かな気候の中で、煌びやかにその身を輝かせている。ゾロは鷹揚にそれを眺め、蒼く澄んだ海へ視線を落とした。 そのとき、ふいにルフィが船首を降りた。ゾロの元まで駆け寄ってくると、太陽にも負けぬ笑みを湛える。行くぞ、そうルフィに手を引かれ、ゾロが首を傾げたとき、ルフィも不思議そうに身体ごと首を傾げていた。 「約束しただろ?」 「ああ、探検か」 「そうだ! 早く行こう!」 本当に二人で行く気なのかと、ゾロは眉を上げる。島へ着くなり、ルフィは一人で勝手に飛び出してしまうか、ウソップやチョッパーを連ね、島を徘徊するのが常だった。二人で行動するなど、記憶の限りを尽くしてもゾロに思い当たるものはない。もしかすると、麦わらの一味が二人きりだった過去にはあったのかもしれない。だが、それもたいして長い期間ではなかった。 「お、鳥!」 ルフィが船上を旋回する鳥を見上げ、こいつは飛べるんだなと明るく声を上げる。ゾロもその言葉に釣られ、空を見上げた。陽光の眩しさに目を眇める。 その鳥は徐々に高度を低くし、見上げるルフィの麦わら帽子へと羽を休めた。ルフィがゾロの元へ顔を戻そうとも、鳥は飛び立つ気配を見せない。クイナとは違い、随分と警戒心のない鳥だ。頭上に乗ったものをルフィは大きな黒い眸で確認しようとしたが、視界には帽子のつばが映るだけだった。 なんだなんだ、頭へ感じる重みに戸惑うルフィを尻目に、ゾロはその鳥の足元へ指を差し出した。 鳥は躊躇なくゾロの指先へ移り、長く細いくちばしで器用に毛づくろいをしている。それをルフィの眼前に向ければ、途端にその顔は物珍しさに輝いた。 「おーいロビン、この鳥は飛べんのか?」 「ええ、その子は渡り鳥よ。自由気ままに暖かい島々を巡るの」 「へェ。お前、海賊みたいなことしてんだなァ」 「お、タシギじゃねェか」 リュックサックを片手にやってきたサンジは、ゾロの手元を覗き込むなりそう言った。タシギ? ゾロとルフィは共に首を傾げる。どうやらそれが、先程のクイナと同じく鳥の名だと思い至ったとき、サンジは弁当が入っているというリュックサックをルフィに手渡した。 「食うとすこぶる美味ェんだぜ」 「食えんのかこいつ!」 危険を察したのか、ルフィが声を上げた瞬間、鳥は慌てたように飛び立っていってしまった。ルフィは残念そうに唇を尖らせながらも、大人しくリュックサックを背負う。その中の弁当も、きっと二人分が用意されている。 島へ降りたのはルフィとゾロの二人だけだった。やはりそこに真新しいものなど何もなく、目の前には広大な自然が広がっている。 ルフィが言う良さげな枝をゾロも持たされ、ただ島の中を歩いていた。そこかしこでクイナを見かけたが、サンジ曰く、食材としても重宝されるタシギという鳥はなかなか見つからない。どうやらルフィの頭の中は今、鶏肉を食うということでいっぱいになっているようだ。 「なァゾロ、こいつも食えんのかな」 「アホ、ここで食糧探すのは止めとけ」 その場にしゃがみ込んで茂みの中のクイナを指したルフィに、ゾロは苦々しい思いで顔をしかめた。不満げな声を上げたルフィの腕を掴み、その場を立ち去る。鳥は逃げることもせず、丸々とした目でゾロのことを射抜いていた。 くいなと同じ名の鳥を食うのはさすがに気が引ける。コウシロウは、飛べない鳥の名をなぜ娘につけようと思ったのか。自由気ままに飛び回るタシギの名をつけていたら、運命は変わっていたのかもしれない。 雑草を掻き分け、道もない森を彷徨い歩く。珍しく静かに後を着いてきているルフィを、ゾロが振り返ったそのとき、頬を染めてだらけきった顔を見とめた。面食らい、握ったままになっていた手を離したが、途中その手はルフィに捕らわれて指を絡め取られてしまう。 「ん、こっちのがいいな!」 「お前な…今日はおれのこと甘やかすんじゃなかったか」 「甘やかしてるぞ!」 「これ、甘やかされてんのか?」 「当たり前だろ」 変なやつだな〜と首を傾げるルフィは、至って自然にゾロの手を握ったまま、隣へ並び歩き出す。やっぱり、甘やかしているのはおれの方だろう。ゾロは思いながら、それでもルフィの手を握り返す。 存外、ゾロの手よりも、ルフィの手の方が大きい。何もかも掴み取ってみせる手だ。温いルフィの体温が、ゾロの掌を伝わり、伝染していく。それはじわじわと全身を巡り、徐々に頬にまでその熱は到達した。 羞恥に駆られ始めた頃、高くそびえ立つ壁のようなものに行き当たった。苔むしたそれは、初め山かとも思ったが、どうやら巨大な石造らしい。冒険心を擽られたルフィは、真緑色の階段を見つけた途端、ゾロの手をいとも簡単に離してみせた。どうやら以前は人の住む島だったようだ。空島でも似たような建造物をよく見かけた。 ルフィは苔や雑草で覆われた階段を躊躇なく上り始める。ゾロもそれに続き、ルフィから伝わった体温が爪先から徐々に引いていくのを一人感じていた。拳を握り、見上げるほど長く急な階段を悠々と進んでいく。足場はいいとは言えないが、ルフィは踊るように駆けていった。背中のリュックサックが揺れるのを緩慢に眺めたのち、ゾロは背後を振り返る。もうすぐ木々のてっぺんを越えるほど、地面は遥か下にあった。確かに、ここから転落すれば死ぬのかもしれない。 「早くしろよ、ゾロ! てっぺんで海賊弁当食うんだぞ!」 ゾロに確認を取ることもせず、何もかも勝手に決めてしまうルフィだが、ゾロもルフィの決めることに異論はない。大人しく後を着いていき、もうすぐ辿り着くてっぺんを思った。 確かに腹も減ってきていた。見晴らしのいいこの場所で、飯を食うのもいいだろう。階段はあと数歩で終わる。 ゾロの前を歩くルフィは、その先で何かを見つけたようで、歓声を上げてゾロを振り返った。その目は見るからにきらきらと輝いている。 「鳥! すっげェ大群!」 「…鳥?」 遅れててっぺんに辿り着いたゾロは、そこを覆い尽くすクイナの大群に目を見張った。飛べない鳥が、どうやってここを登り切ったのか。まさか、見上げるほど高い階段を上ってきたわけでもあるまい。 クイナは突然現れたゾロとルフィの姿に驚き、逃げ場を探すようその場で足踏みをしている。逃げ惑う仲間に押され、突き飛ばされている者もいた。 ルフィは、おもしれェなこいつら! と腹を抱えて笑っている。確かに、逃げ惑うその様は滑稽だ。 ここで弁当を食うにも、一面クイナに覆われた場所では、二人で立っているのもやっとだった。それに、飛び立つことのできない鳥は、こうして見慣れない人間の姿に戸惑うばかりで、逃げることも叶わない。 そのとき、逃げ惑う仲間たちに押され、きょろきょろと辺りを見渡すことしかできずにいた一羽のクイナが、群れから押し出された。為す術もなく、その鳥は高くそびえ立つ石造から身を投げ出す。ゾロとルフィが階段の前に立ち尽くしているため、そこにはもう宙しか残されていない。 落ちたクイナを助けようと咄嗟にゾロが腕を伸ばしたとき、苔に足が取られ、その場から滑り落ちた。ゾロ! と慌てた声を上げたルフィが腕を伸ばすが、それを掴むこともできず、ゾロの身体は重力に伴い、遥か下の地面へまっしぐらに落ちていく。身体が風の抵抗を受け、腎腑が浮き上がる感覚に包まれる。 先程上ったばかりの階段がすぐ脇に見えた。その瞬間、くいなの姿が脳裏に浮かぶ。いくら常人より丈夫とは言え、この高さの階段を転げ落ちていけば、ゾロも死ぬだろう。このまま地面に叩きつけられたとて、やはり同じことだ。 そのとき、腰にぐるぐるとルフィの腕が巻きつき、浮遊感が止んだ。何もない場所で宙ぶらりんになりながら、安堵した表情を浮かべているルフィの顔を見上げる。太陽を背に立ち尽くすルフィの姿は眩しく、たまらずゾロは目を眇める。 ルフィがもう一方の手を伸ばすより先に、ゾロと共に落下していたクイナが、覚束ない動作で翼を広げた。一度それを一振りし、鳥は重力に逆らい宙を浮く。そのまま翼をはためかせ、真っ青な空へ飛び立つクイナの姿を、ゾロは茫洋に眺めていた。その間に、ルフィの腕がみるみるうちに元ある場所へ戻っていく。一羽のクイナはもう、空の彼方へ消え、ゾロの視界には映らなくなった。 「なんだ、飛べるじゃねェか」 思わず呟くと同時に、ルフィの元へ辿り着いた身体は、腰に腕を回されたまま抱きとめられた。ゾロの眼前に映るのは、これでルフィだけになる。 「嬉しそうだな、ゾロ」 「…そういうおめェこそ、なんでそんなに嬉しそうなんだ」 にししっ、といつもの笑声を上げ、ルフィはゾロを抱えたまま身体を左右に揺らしている。ゾロの半歩後ろには、人の手によって作られたこの石造のような、物的なものは何もない。足を踏み外せば、簡単に空へ逆戻りだ。 「ゾロが嬉しいとおれも嬉しいんだ」 ルフィもまた、飛ぶことができないと言われている鳥が飛び立てたことを、喜んでいるのかと思っていた。だが、予想外の返答に、ゾロは目の前にあるルフィの顔をまじまじと見据える。歯を見せて笑うルフィと視線を絡めれば、すとんと、その意味が腑に落ちたような気がした。ゾロの胸のうちから冷えていた何かが熱を取り戻していく。 二人の足元には未だ、可能性を捨て、飛ぶことをしない鳥が蠢いている。 ゾロはルフィの背中に腕を回すと、その肩に顔をうずくめた。手に当たったリュックサックによって弁当の存在を思い出したが、ゾロを抱きしめるルフィの腕もより強くなる。今はもう少しこうしていたいと、ゾロはますますルフィへと近づくために足を半歩前へ踏み出した。もう、階段を踏み外すなんてことはない。 食べ物全般に目がないルフィも、弁当を食おうとは言い出さなかった。確かに甘やかされている。顔を上げればやはり、嬉しそうな笑みを浮かべるルフィがいるのだろう。そう思うと、ゾロはなかなか顔を上げることができなかった。 |