初恋7



 家までの道程を無言で歩いたが、その時間を、珍しく気まずく感じることはなかった。それ以前に、考えることが多すぎたせいもある。期待と、それを裏切られることへの恐怖とが、一緒くたになって、サンジの脳を支配した。十年もの間、拗らせ続けてきた初恋へ、今やっと終止符を打とうとしている。
 途中、姿を消したチョッパーは、きっと家の前で待っているのだろうと思っていたが、予想に反して、たぬきの姿は見当たらない。これからゾロとどうなるかは、完全にサンジ次第だということだ。これほどまでチョッパーに助けられておいて、まだその救いを請おうとしている。サンジは、そんな己のケツを心中で蹴り上げた。
 家に入れば、変わらず靴箱へ置かれている、写真の中のくいなが目にとまった。その瞬間、ゾロには愛する人がいるのだということを、否応なしに思い起こされる。すっと、頭が冷えた感覚がした。勝手に浮き立ち、忘れていた。だが、ゾロにもう、好きだと告げてしまったのだ。ここまできては、引き返すこともできない。ゾロへ想いを寄せていることを、はたして、くいなはどう感じているのだろう。案外、笑って許してくれるような気もした。会ったこともない相手だというのに、サンジには、その考えが妙にしっくりとくる。だが、所詮自身を正当化しているだけに過ぎなかった。もう知ることのできない相手の気持ちを勝手に推し量るとは、ずいぶん身勝手だ。




「あのさ、聞きてェことが、あるんだけど……」
 食事も終えて一息ついたとき、サンジは煙草の煙を深く吸い込み、意を決してゾロへ問いかけた。サンジが言葉を発するたび、白煙が宙へ浮かび上がる。胸を押し潰すようなサンジの決意などつゆ知らず、ゾロは首を傾げ、いつものように、サンジの言葉の続きを待っていてくれる。
 開け放たれた障子の先へ視線をやり、線香の香りが煙草の匂いに紛れていく様を感じ取った。心臓が、押し潰されそうなほど、痛みを伴う。そんな感覚を気に止めぬよう、まっすぐに仏壇を見つめた。そこには、サンジの作った飯が佇んでいる。空気に触れた米が乾きはじめ、いつしか艶をなくしていた。
「……くいなさんのこと、なんでもいいから教えてくれねェか」
「知りてェのか、んなこと」
「知りてェ。ゾロの口から、聞きてェんだ」
 サンジは胡座を掻いた足元へ視線を落とし、ゾロの反応を待った。辛い、ゾロの過去を、わざわざ掘り返させることに罪悪感を覚えるが、きちんと聞いておきたかった。それが、サンジにできる精一杯のことなのだ。ゾロの気持ちを軽くしてやりたいだとか、そんなことを思うほどの驕りも今はない。ただ、なんでもいいから、くいなのことを知りたいと思った。所謂、サンジ自身のけじめのためだ。
 しかし、そのことを口にするまでに、サンジの中ではとてつもない葛藤があった。老人の言葉が、サンジの肩に重圧をかける。けして、ゾロを救いたいだなんて思わなかった。サンジが関与する問題ではない。だが、思い出すのは、あのとき一瞬だけ顔を歪めた、ゾロの表情だ。
「別に、たいして話すことなんざねェぞ」
 老人から聞いた話と同じことを、ゾロの口から聞き、サンジは相槌を打つことすらせず、ただ聞き入っていた。老人の話よりも幾分詳しく、ゾロは苦笑しながら、くいなに敗れ続けた日々のことを語った。十年前のサンジと同じ歳の頃、道場破りに行った先で、くいなと初めて出会ったのだという。最終的にくいなに勝つことができたのか、ゾロが話すことはなかった。だが、いずれはゾロが追いつく日がくる。きっと、くいなもそのことに気がついていたはずだ。
 男と女では、そもそも潜在的な能力が違うのだ。大人に近づくにつれ、その差は顕著に現れる。だからこそサンジも、女性は庇護するものだと思っている。いつかは分からないが、ゾロもそのことに気づかされたに違いない。サンジは何も言及せず、新しい煙草に火をつける。ゾロもちょうど、ビールに手を伸ばしていた。プルタブに指を引っかけたことで、爪が当たり、鈍い金属音がする。それから、どこか間抜けな空気の抜ける音が聞こえ、サンジはゾロの指先から視線を逸らした。
 くいなの話をするゾロの表情は、やはり、いつもと何ら変わりなかった。懐かしむ気持ちも、悲しみも、愛情も、そこからは何一つ感じ取れない。
「ゾロは、くいなさんのどこに惚れたんだ」
「あァ?」
 ゾロは、ぎょっとしたような顔をして、視線を巡らせたあと、がしがしと頭を掻いた。やっと表情が変わったことに、サンジはどこかで安堵する。この仮面を剥ぎ取ってやりたいと、あのとき感じた思いは、そんなゾロの表情にあてられ、ますます膨らんでいった。
 ゾロは、この手の話題がどうも苦手らしく、顔をしかめながら口ごもっている。その様子を顕著に感じ取るも、サンジは引かず、追求し続けた。これは、ただの好奇心によるものだ。そう見せかけることは、造作もないことだった。ただでさえ、ゾロはサンジのことをガキ扱いしている。
「んなの、いちいち覚えてねェ」
「そんなわけねェだろうが」
「そういうてめェはどうなんだよ。浮いた話ぐらいあんだろ」
 ゾロからの問いかけに、サンジは苦笑を零した。話題を逸らせるため、咄嗟に出た言葉だということは分かっていたが、そんなことにもいちいち傷ついてしまう。これほどまで、柔な心を持っていた自覚はない。どちらかと言えば、子どもの頃から気が強く、負けん気も強かった。だが、ゾロのこととなると、どうにもダメらしい。
 あの告白は、ゾロの心にはまるで届いていなかったのだと、思い知らされた。十年間、忘れたことはなかったと、そう告げたはずだ。サンジの初恋の相手はゾロだ。その想いは、今だって微塵も変わらない。それどころか、日々、重みを増している。結局、告白をしたところで、何も変わらなかった。サンジは渇いた笑みを零し、最後に一つ教えろと、ゾロを睨みつけた。断らせる気は、まるでない、強い口調だった。
「くいなさんへの想いは、今も変わらねェか」
 ゾロは、すぐには答えなかった。サンジはじっと耐えて、ゾロの言葉を待ち続ける。即答できるようであれば、すぐにでも身を引くつもりだった。ゾロのことは忘れて、明日の朝には、予定通りこの村を出て行く。だが、ゾロは無表情で視線を落とし、しばらくして迷いのないその目で、サンジのことを射抜いた。時間に換算すれば、きっとたいしたことはない。一分や二分程度であろうが、その間ゾロはきっと、くいなのことを想起し続けたのだ。
「そんな、簡単に変わる気持ちじゃねェ」
 さっきまでの照れは微塵も見せず、ゾロはさらりと告げた。そのことで想いの丈を知り、サンジはほっとする。ここで、分からねェとでも言われたら、ゾロに幻滅していたところだ。何も考えず、即答されたとしても、答えは同じだった。そんな無神経な相手だとは、初めから思っていない。無意識に勝ち戦を仕掛けていたことに気づくが、どうせサンジにも、ゾロのことを好きじゃなくなる日など、生涯訪れない。ゾロの変わらぬ答えを前にしようとも、不思議と悲哀は生まれなかった。サンジもやはり、何度聞かれても、悩み抜いたとしても、ゾロを好きだと答えるだろう。
「さっきの答えだけどさ。おれは、ゾロが好きだ」
 神社でも言ったから、知ってると思うけどよ。そう念を押して、ゾロの表情を窺った。今度こそ、言葉にも詰まらずに済んだ。
 蛍光灯の紐が、頭上で不規則に揺れている。互いの顔を隠していた暗闇も、今は人工的な光によって照らされていた。そんな灯りの中で、ゾロは深々と眉を寄せ、困ったように俯いている。ほんのり、ゾロの日に焼けた肌が、紅潮したのが見て取れる。サンジは胸の高鳴りを取り戻し、どうすることもできず、同じように俯いた。
 このあと、どう行動したらいいのか、まるで分からなかった。女性相手であれば、手を握り、抱きしめ、キスをするだろう。この反応ならば、きっと嫌がらない。そう思える自負と経験はあったが、相手がゾロになった途端、童貞だった頃のように怖じ気づき、葛藤のあまり、思うように身体が動かせなくなる。
 子どもの頃、大好きだったチョッパーマンは、世界中どこにでもいるヒーローたちのように、勇敢だとはけして言えなかった。強大な敵を前にいつも怖気づき、弱音を吐いても、必ず最後には、なけなしの勇気を振り絞って勝利していた。サンジはそのとき、チョッパーマンのようになりたいと、強く願ったはずだ。
「よく、分かんねェ」
 切なげな声を上げたゾロの反応に、サンジはきつく拳を握った。顔を上げれば、たまらず、ゾロ、と声が出る。ゾロの言う「分かんねェ」とは、サンジがゾロを好きなことへか、はたまた、自分の気持ちに対するものなのか。また、懲りもせず、期待の波が押し寄せてきた。ここで逃げることは、サンジにはできなかった。今度は、トナカイのチョッパーマンではなく、たぬきの姿が脳裏をよぎる。もう、怖気づくのはやめだ。依然として、なけなしの勇気がふって湧いてくるわけではなかったが、それでも、逃げまいと必死だった。
「おれは、くいなのことが好きだ」
「……うん」
「でも、お前がおれといるのが辛いって言ったとき、どうしようもなく……」
 言葉の続きを待つが、ゾロはそのまま口を閉ざしてしまった。サンジもなんと言ったらいいのか分からず、押し黙る。なぜか、村にいる間、忙しなく聞こえていた鈴虫や蛙の鳴き声は、今日に限って聞こえてこなかった。村は奇妙なほど静寂に包まれ、まるで、サンジとゾロだけ、この世界に取り残されたかのような錯覚に陥る。
 様々なことが、サンジの記憶を呼び覚まして回った。初めてこの村に来たときのこと、ゾロの髪よりも幾分濃い、緑色に包まれた村の様相、神社から見下ろす景色。じいさんの笑顔や、棺の中で穏やかに眠るその顔。村の人々、うるさい虫の鳴き声、チョッパー、写真の中のくいな。それに、ゾロの姿。サンジはゆっくりと瞼を閉じ、その光景を胸に焼きつけた。そのとき、なけなしの勇気が突如、忙しなく巡る心の内で、姿を現す。
「なァ、そっち、行ってもいいか。ゾロ」
「……ああ」
 指に挟んでいた煙草を、空き缶へ押しつけ揉み消した。緊張を隠せない足取りで、日に焼けた畳の上を這う。ゾロの隣へ腰を下ろせば、意識するのも忘れ、指先が触れ合うほどの距離に座ってしまった。失敗した。そう一考した途端、全身が張り詰める感覚があった。
 そんなサンジを尻目に、ゾロはあまり口をつけていないビールの缶を、テーブルへ下ろした。鈍い金属音と共に、アルミの中でビールが波打つ音が聞こえてくる。それは自然と、サンジに海を思い起こさせた。全身に漲る緊張が、急速に萎んでいく。サンジが育った場所から、絶え間なく、聞こえてくる音だ。ゾロは、あの潮騒も、磯の香りも、真っ青で何もない、空と混ざる地平線さえ、知らないのだろう。サンジが、この村に来るまで、緑の美しさを知らなかったのと同じように、海に関しての認識は、幼児と大差ないのだ。
「ゾロがくいなさんのことを好きじゃなくなることなんて、全く望んでねェよ。返事を急かすつもりもない」
「お前は、それでいいのか」
「ゾロの話聞いてて思ったんだけどよ、おれもきっと、くいなさんのこと好きになると思う。すっげェ魅力的な人だし、それに美人だし。くいなさんへの想いを失うゾロなんか、見たくもねェ」
 まァ、返事が気にならないって言ったら、嘘になるけどよ。サンジは眉を下げ、苦笑を零す。ゾロは少しだけ口を開いたが、結局何も言わないまま、サンジから顔を背けた。その反応をどう受け取ったらいいのか、サンジは畳の上に置かれた、角の丸くなった煙草の箱を見遣った。再び、チョッパーの顔が浮かぶ。十年ぶりにゾロの家を訪れた際、チョッパーは、物珍しそうに煙草の箱で遊んでいた。サンジは顔を上げて、きつく眉を寄せる。深く息を吸って、一度肺を巡ったそれを、細く長く吐き出していく。
 ゾロが、くいなのことを好きだということは、充分すぎるほど理解した。返事はもう、もらったも同然だった。だからといって、諦めるつもりもない。最後に一つくらい、わがままを言っても許されるだろう。
「一度でいいから、おれの名前、呼んでみてくれねェか。ゾロ」
「なっ……」
 ゾロの腕を引き、こちらを向くように促した。ゾロに触れた掌が、相も変わらず熱を持つ。チビナスじゃなくって、おれだってもう、一人の男だ。サンジが熱の孕んだ声で、まっすぐゾロを見遣れば、ゾロは息を呑んだ。ゾロの家に来てからは、一度もチビナスと呼ばれていないことには気がついていた。ゾロの反応の一つ一つが、まるでパズルのワンピースかのように、次々と空白だらけの場所へ嵌っていく。
 サンジの中で、完成図は、もう見えていた。ゾロの腕も、燃えるように熱い。きっと、気のせいではないだろう。サンジは唾液が供給されず、渇いた喉でゾロの名を呼び、応えを急かした。ゾロは深々と、眉間にしわを湛え、真一文字に結んでいた唇をそっと緩める。
「サ、ンジ」
 意を決したように、ゾロはサンジの名を呼んだ。それだけで、信じられないほど、胸が高鳴る。三月二日に生まれたからサンジという、安直な名前をつけたゼフに感謝するほどだ。サンジという自分の名が、これほど甘く、胸にのしかかるとは思ってもみなかった。
 だが、ゾロの反応を見て、その喜びはすぐ、新たに打ち寄せられた波によって、掻き消されてしまった。真っ赤になった顔を片腕で覆いながら、ゾロは離せと、サンジが掴んだままだった腕を振り解こうとする。かちりと音を立てて、最後のピースが嵌り、サンジは何度も、ゾロの名を呼んだ。絶対に離すまいと、その手に力を込める。
「答え、出た?」
「わ、分かんねェ……!」
「本当に、分かんねェの」
 ゾロが言葉に詰まった隙に、顔を隠す腕へ手を伸ばした。手首を掴み、むりやり顔から引き剥がすと、身を乗り出して、ゾロの澄んだ眸を覗き込む。なァ、そう言って、もう一度問いかければ、隠し切れないゾロへの想いが、その声音から滲み出ていた。サンジから逃避するよう、ぎゅっと目を閉じたゾロの唇へ、サンジは引き寄せられるように口づける。ちゅ、と音を立てて、すぐに離れると、ゾロがおそるおそるといったふうに目を開いた。
 ついに視線を絡ませた瞬間、今度はどちらからともなく、唇へ噛みつきあった。まるで誘い込むようにして、薄く開かれた唇の隙間へ舌を滑り込ませると、性急に呼吸を奪う。今までのキスとは違い、ゾロもサンジの舌に応えてくれる。年齢や経験の差もあるのだろうが、今までに感じたことがないほど、ゾロとのキスは気持ちよかった。おれがゾロを気持ちよくさせてェのに、そんな口惜しさを覚えるが、ゾロのキスの上手さに、サンジもすぐ夢中になった。
 貪るようにひたすらゾロの舌を追いかけていれば、ゾロの身体へ全体重を押しつける形になる。両腕を捕われたままのゾロは、堪えきれず、畳の上へ倒れ込んでしまった。サンジは慌てて上体を起こし、悪ィと呟いて、唇を拭う。唾液の糸が切れ、手の甲を濡らした。すると、ゾロは気まずげに、いや、と言ったきり、目を伏せてしまった。その表情がひどく扇情的で、サンジは下半身へ熱が集中するのに気づき、後ろ髪を引かれる思いで身を引いた。
 そのとき、ゾロの腹に走る痛々しい傷跡が、捲れあがったシャツの裾から顔を出しているのが目にとまった。サンジは、それを認めると同時、ほとんど無意識で手を伸ばし、傷跡を指先でなぞる。突然のことに驚いたのか、ゾロの身体がぴくりと跳ね上がった。
「見ても、いいか……?」
 ゾロは目を見張り、見て楽しいもんじゃねェぞと、怪訝そうな顔をした。サンジは頷き、それでも見たいと、ゾロの返事を待つこともせず、傷をなぞる指先と一緒に、手の甲で少しずつシャツを捲り上げていった。徐々に露わになっていくその傷は、ゾロの身体を真っ二つに引き裂いているようだ。サンジは悲痛に顔を歪め、他の皮膚より盛り上がったそこを、ひたすら指先で辿っていった。
 サンジが指を動かすたび、ゾロは息を漏らし、身体を震わせる。痛みとは、また違った感覚なのだと、ゾロの反応から感じ取っていた。鎖骨の下まで指先が辿りついたとき、そのままゾロの胸へ、掌を押しつけた。ゾロの鼓動が、皮膚や肉を通して、直に伝わってくる。サンジと同じように、ゾロの心臓も高まっていた。
 ゾロが言ったとおり、見て楽しいものではない。それは承知の上だったはずが、想像以上にサンジの胸を苦しめた。この傷を見ただけで、加害者であるトラックの運転手に対し、とてつもない怒りが湧く。左目と、大切な人まで奪われたゾロの心の傷は、サンジには、とてもじゃないが計り知れない。平気だったはずがないのだ。老人の言葉の数々が忙しくなく駆け巡り、サンジは露わになったゾロの腹を濡らした。傷の上へ、次々と小さな水の粒が落ちていく。
「だから、なんでお前が泣くんだよ」
 ゾロは眉を寄せ、その表情とは裏腹に、声を上げて笑った。久しぶりにゾロの笑顔を見た気がした。しかし、サンジが好きな、その顔ではない。涙を止める手立てもなく、サンジはゾロの身体を濡らすそれを、舌を出して舐めとった。ゾロは、慌ててサンジの頭を掴み、引き剥がそうとするが、サンジはそんな抵抗をものともせず、ゾロの傷跡に舌を這わせた。
「てめ、いい、加減に……うあっ、」
「ここ、気持ちいいの?」
「あっ! ばっ、やめ、ろ……!」
 胸に舌を這わせた瞬間、ゾロが上げた甘い声に、どうしようもなく気分が高揚した。胸元へ顔を埋めたまま視線を上げ、問いかけてから、胸の尖りを口に含む。その瞬間、ゾロの身体が大きく震え、また喘ぎにも似た声が上がった。もっと聞きたいと、舌先でそれを転がす。吸ったり、歯を立てたりしていると、ゾロの抵抗がぴたりと止んだ。顔を上げれば、ゾロは両腕で顔を覆ってしまっていた。サンジの腹には、勃ち上がったゾロのものが当たっている。ちゃんと、感じてくれているのだと分かり、喜びに胸を詰まらせた。
 サンジはまた、それを口に含むと、もう片方の尖りを指で摘まんだ。その瞬間、耐え切れずといった、ゾロの弱々しい吐息が漏れてくる。頭がくらくらした。初めて女の子を抱いたときでさえ、こんな、我を忘れてしまいそうなほどの興奮は、感じたことがなかった。
「ゾロ、好き。すっげェ好き」
 一生言うことはないと思っていた言葉を、こうして言えることが、こんなにも幸せなことだったとは、考えてもみなかった。告げるたび、ゾロのことをまた好きになる。いつだって、これ以上好きになることはないと思っていた。しかし、想いに上限などないのだと実感させられる。これからも、もっともっと、ゾロを好きになっていくのだろう。
 ついにゾロが、うるせェと掠れた声で悪態をついた。それと同時、サンジのシャツの襟を力任せに掴むと、唇に噛みついてくる。ゾロからキスをされたという事実に、サンジの頭の芯がかっと熱を持ち、とうとう止まらなくなった。
 恋人同士のスキンシップのように、ひたすら唇を啄ばみ、次第に舌を絡めあわせた。互いに息を荒げ、サンジはゾロのベルトへ、隙を見て手を伸ばす。余裕などあるはずもなく、忙しなくバックルを外し、チャックを下げた。今まで、何度も想像していた。同性だということへ、抵抗など、今更感じるはずもない。ゾロの性器へ手を伸ばすと、亀頭と竿の括れに触れ、ゆっくりと上下に擦り上げた。すると、サンジを追い立てていたゾロの舌の動きが止まり、仕返しとばかり、ゾロの口内へ舌を這わせる。その間も手の動きは止めず、ゾロはくぐもった声を上げ続けた。
 何度も、何度も、柔らかく甘い唇を吸う。サンジは上体を起こすと、ゾロの足からボトムを引き抜いた。足の間に身体を割り込ませ、もう一度、ゾロへキスをする。首筋に、鎖骨に、胸に、臍に、ひたすら唇を落としていき、顎先へ触れた性器を咥えた。袋を指先で弄びながら、口を窄め、顔を上下に動かす。あ、あ、と絶え間なく聞こえるゾロの甘い声が、サンジの脳をじんと痺れさせた。ゾロ以外のことは頭から締め出され、五感の全てが、ゾロでいっぱいになる。
 ゾロのものが一層形を大きくさせたとき、口を離し、その顔を覗き込んだ。頬を上気させ、眉を寄せたゾロは、膜の張った目で、恨めしそうにサンジを睨みつけてくる。そんな表情も、可愛くて仕方がないのだ。サンジは思わず笑みを零し、飽くことなくゾロの唇へ吸いつくと、目尻に溜まる水滴へ、舌を這わせた。片方の膝裏に手を滑り込ませ、身体を反転させる。ゾロは、少し戸惑ったような態度を見せたが、抵抗はしなかった。ゾロの腹に手を回し、腰を上げるよう促すと、サンジはまた、性器へ手を伸ばした。
「あっ、も、やめろ、あ、あっ」
「全部、全部……出しちまえよ、ゾロ」
 サンジの言葉の意味を、ゾロが理解したのかは分からない。ゾロは苦しそうに、何度も畳の上を、短い爪で引っ掻いた。痛いぐらいに、性器を擦り上げる。腰が下がりそうになり、膝を震わせ、喘ぐゾロの姿は、想像していたよりもずっとエロかった。痛みさえ覚える自身の性器を少しでも楽にさせたくて、サンジはジーンズを寛げる。
 ゾロの双丘を割り開き、その奥の窄みへ舌を這わせた。ゾロの背がびくりとしなり、信じられないと言いたげに、サンジの顔を仰ぐ。舌先を尖らせ、サンジは、ゾロの中の敏感な場所へ抜き挿しを繰り返した。ゾロが呻くと、ぽとりと、汗ともつかない雫が、日に焼けたイグサの色を変色させる。その雫は、すぐに絶え間なく流れはじめた。
 呻きとも喘ぎともつかない声を、ゾロは上げ続ける。サンジは、そんなゾロの姿から視線を逸らし、何も気がついていないふうを装い、愛撫を続けた。
 このまま、ゾロの中のものが、全て溢れ出してしまえばいい。おれには、ゾロを救うことなどできない。だが、少しでも、その心を解かすきっかけになればいいと、涙を流すゾロの背へ唇を落とした。


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