かなり良い音がした。
パシンって、静かな宮殿によく響き渡った。
頬をひっぱたいたゴジータさんは、目に涙を溜める私を見てあたふたし始めた。
意味もなく叩くはずがない。
私がただ、わがままを言って甘えただけ。
「私はきっと、邪魔な存在になりますよ」
早くに家族と故郷を失い、カメハウスで過ごす毎日。
昔はまだ小さかったのもあるかもしれないが、たくさんの人に可愛がられていた。
けど今は、孤独を感じることがある。
カメハウスにはもちろん亀じいが居るけれど、クリリンさんと18号さん、マーロンちゃん家族の邪魔になっている気がして。
幼なじみの悟飯くんはビーデルさんと結婚。パンちゃんも生まれ、さらに学者だから私を相手する暇もない。
トランクスくんは社長、悟天くんは彼女に夢中。
みんなそれぞれの道を歩んでいて、だからただ、嫉妬してる。
でもね、独りは寂しいんだ。
「悪い、痛かった、よな?」
「違うんです……痛く、ないです……」
頬を撫でる手は、涙を拭った。
大丈夫と言っても、ゴジータさんは不安そうで。
でも本当に大丈夫。むしろ、嬉しい。
だれかに構ってほしい。
私を見てほしい。
だれのものでもない人が、私を。
ゴジータさんをこれ以上困らせるのは申し訳ないけれど、それでも私だけを見てほしかった。
「昔はみんなに必要とされていました。トランクスくんや悟天くんには両腕を引っ張られたり、意味もなく悟飯くんが隣に居ることもありました。でも今は……みんな、私から離れていくんです。ただ優越感に浸っているのはわかっています。チヤホヤされるのが好きだったのもわかっています。だけど気づいたら、誰もいないんですよ。私の居場所がないんです。邪魔な存在なんです」
こうなるんだったら、みんなと関わりたくなかった。
だけどその言葉だけは、声に出せずにいた。
言ってしまったら、何もかもが終わってしまいそうで。
それに私、今のみんなが嫌いなわけではないし、ただちょっと寂しさがパンクして、でも吐き出す場所がゴジータさんの前しかなくて。
「誰でも独りは怖いさ。オレだって、ジャネンバを倒す者として存在したんだ。だからジャネンバを倒した後は、存在の意味を無くした。けどナマエはオレを必要としてくれた。ありがとう」
腰と頭に手が伸びると、一気に2人の距離が縮まった。
決して細いとは言えない腕だけど、力加減が心地よくて安心する。
自身の存在を主張するかのように、2人静かに身を寄せ合った。
と言えばロマンチックに聞こえますが、私はそれどころではなく。
「んっ……」
ゴジータさんの腕に少し力が加わると、いよいよ距離間がゼロになる。
身長差で言うと丁度私の目線が胸板の真ん前で、でもほら、距離間ゼロって言ったじゃないですか。
しかもゴジータさんの上半身ってほぼ裸だから。
直接素肌に私の唇が当たる。
同時に鼻呼吸で息を吸い込みたいが、鼻息が荒くなりそうなため酸素を取り入れるのを止めた。
「色々と限界です!」
おかしな話しである。
人を求めたのは自分なのに、それを拒むのも自分だなんて。
ゴジータさんを突き飛ばし、とりあえず距離をとる。
そして逃げ出そうとしたときに思い出したのだ。
ここは神殿。私、空飛べない。
「あいきゃんとふらい」
「相変わらず後先考えずに行動するよな。ま、それがナマエらしいっちゃらしいけど」
溜め息混じりで呟くゴジータさんだけど、右手を差し出すと「お手をどうぞ、姫」なんて言うからさ、私は口をぽかんと開きっぱなしで。
そんな言葉どこで覚えたんだ! ってツッコミたかったけど、多分ベジータさんだろう。
愛娘のために読み聞かせをしているとブルマさんに聞いたし。
「ほら、オレでいられる時間はあと少しなんだ。降下中に解けたら間違いなくナマエを落とすぞ」
「それだけはご勘弁を!」
慌ててゴジータさんの手を握れば、何がどうなったかわからないけど気づけばお姫様抱っこになっていた。
ぼーっとゴジータさんを見つめていれば、ん? と傾げて目が合った。いつもならすぐに目を逸らすけど、ゴジータさんの瞳に私が映っていて、ただそれだけで全てが救われる気持ちになれた。
「ゴジータさん、本当にありがとうございました」
「ああ」
それは、ドロドロの感情をぶち撒けた、とある日の出来事。
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