いい子にしてるから

※捏造あり




それは突然の出来事だった。

深い時間、気持ち良く酔いの回ったターレスは、いつも通り自宅のアパートへと戻る。

尻のポケットにある鍵を探り、何度か差すのをミスした後に鍵穴を回した。

けれど動きはスムーズで、ロックが外れた手応えがない。
恐る恐るドアノブを捻ると、不用心なことにドアは静かに開いたのだ。

アルコールが入っている今、今朝の鮮明な記憶など蘇るはずがない。

だが、鍵の閉め忘れは過去に幾度か起きている。

ターレスは特に気にすることなく、靴を脱ぎ捨て暗い部屋に上がったのだった。



「ふぎぃっ!」


変な感触と、変な声。
静かに後ろに下がると


「ふぎゃあっ!」

やはり、何かある。
謎の物体の上で足踏みを始めたターレス。そのリズムに合わせて奇声も重なり合った。


色黒なターレスであるが、どうやら腹も黒いらしい。


謎の物体……不法侵入の正体を暴く前に、方を付けたがるターレス。しかし聞き覚えのある声、さらに自分の名を呼ぶので仕方なく降り、携帯電話の光で彼女を照らしたのだった。


「オレの家で何してやがる」

「んちゃ!」


ゴツンと鈍い音が、玄関前で響き渡った。





「つまり、家出したんだな。クソガキ」

「頼れるバータック兄ちゃんとこ行ったら、子どもは入っちゃダメって言われた。ギネお姉ちゃん笑ってたよ」

「苦笑いだよそりや。彼女できたからって……くそっ」




ターレスは苛立ち、つい髪の毛を掻き乱した。
すると家出少女、ナマエは頭が痒いのだと思い込み、


「かいかい手伝う!」


一緒になって、ターレスの頭皮を掻いた。

ナマエは少し、天然なのだ。

一応バータックやターレスと同じ血が流れていると言うのに、天然なのだ。



「で、家出の理由は?」

「教えなーい!」

「だったら摘み出す」


ナマエは年の近いいとこ。
昔はやたらバータック兄ちゃんと言って付きまとい、ターレスは後ろからそれを見ていた。

今回の件も、バータックがダメだったから自分の所に来た。
ターレスは、ナマエにとってバータックの保険なのだとひしひしと伝わっていたのだ。



「言わなきゃ電話するからな」

「バナナ食べる?」


勝手に人様の冷蔵庫を漁るし、噛み合わない会話にキレかけるターレス。無理もない。天然も行き過ぎるとストレスの原因になるだろう。



「つーか、バナナなんか買ってねえぞ」

「バータック兄ちゃんが、ターレスの所に行くならバナナ5本やるって言ったから」

「宿よりもバナナかよ」



既にもぐもぐと食べ始めているナマエに対し、何度目かわからないため息を吐くターレス。

するとナマエ、そんな落ち込むターレスを元気付けさせる為に


「私のバナナ!……正確にはバータック兄ちゃんのバナナが食えぬのか?!」


食べかけのバナナを、強引にターレスの口へ突っ込んだ。

もちろん、そのままの意味。

ターレスの頭の中では若干血の気が引けていたが、ある意味ナマエとの間接キスに復活も早かった。






「とにかく、オレが怒られるのはごめんだね」



ぶっちゃけた話、理性が保てずナマエを襲う危険性が大なこの状況。
純粋なナマエは汚せない。
そんな気持ちは8割あるが、残りの2割は、自らの手で壊れていくナマエを見下ろしたいという下心。
こんな牙をちらつかせている中、一晩過ごすのは無理であった。


もちろんナマエは、こんなにも悩むターレスのことなど知る由もない。



「保険で頼むなんざ、虫がよすぎんだよ」


取り出した携帯電話はナマエの自宅へ発信しようとするが、それをナマエが止めた。


身長差がありターレスの手には届かない。
だからターレスの胸に飛び込み、ぎゅっと抱きしめたのだ。


「おま……」

「いい子になるから……私、いい子になるからっ」


そんなにも戻りたくないのだろうか。
声を張り、必死に訴える姿は初めてで、つい腕の力も抜ける。
ターレスは優しく頭を撫でてあげた。


「ナマエはいい子だよ」


と、子をあやす言葉を添えて。


しばらくすると、ナマエは語りだした。

詳しくは言わなかったが、学校で嫌なことがあったらしい。


とにかく甘える場所が欲しく、いとこの家を訪ねたそうだ。
ちなみに家出の理由は、ただ単に両親の前では甘えにくいとのこと。
それに、ターレスの家に着いた時点で連絡を済ませていたらしい。


「だからって、これは嫌がらせだよな」


シングルベッドに大人が2人。
さらに寒いと言って体が密着している状況。

いとこだとここまで心が許せるのか。
否、天然と、理性を保ち続ける苦労の結果がこうなっているだけだ。



「ターレスお兄ちゃん大好き!」

「成人したら食ってやるから覚悟しとけ」

「……ターレスのバナナ?」

「煽んなバカ」





人はいつか汚れる。

どうせ汚れるなら自分の手で汚したい。

いい子にならなくていいから。少しぐらい、悪い子でいいから。




決して手を出さないように、手を後ろで組んでいたターレス。
当然、痺れ等の痛みがあるのはわかりきっていたことである。


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