「おかえり」
「…………」
「どうかしたの?」
「もう、22時過ぎだよ。どこ行ってたのとか、聞かないの?」
遅めの帰宅だったが、トランクスの返事はどこか素っ気ない。
別に、怒ってて冷たい。とかじゃなくて、なんて言ったらいいのかな?
彼女が行き先も伝えず遅くに帰ってきたから「どこ行ってたの?」「遅かったね」ぐらい言う権利はあるのにさ、
「ナマエさんはもう立派な大人なんですよ。それに22時なんて、オレがどうこう言う時間でもありませんし」
その優しさ。私を信じてくれるトランクスが……逆につらい。
トランクスは特別独占欲があるわけではないから“束縛”とは無縁らしく、私のプライベートには首を突っ込まない。
それはそれでありがたいのかもしれないが、やっぱり、寂しい。
と言っても、今日はただ亀じいのとこに行ってただけなんだけどね。
「おかえりなさい。今日は随分と大荷物ですね」
「へへっ。楽しいデートでつい」
「まったくあなたって人は」
あれからまた別の日。マーロンちゃんと買い物に行ったのだが、あえて“デート”と言ってみた。けどトランクスは私の話にただ笑うと、すぐ仕事に戻ってしまう。何度か話を振るが、もう少し待ってくださいと繰り返すだけ。
この時点で既に、私の体の中には汚い感情が渦巻いているのが分かった。
少しぐらい、気に掛け欲しいのに。仕事が忙しい事ぐらい分かってる。でも、ちょっとぐらい私の相手してよ。
「…やだっ…こんなに自分、女々しかったっけ…?」
トランクスの部屋を出たら、無意識に涙腺を緩めてしまったんだろう。止めようとしても、涙が止まらない。
迷惑を掛けないように、声を押し殺して自分の部屋に戻ろうとしたら、だれかに呼び止められた。
「どうしたのナマエちゃん?!トランクスくんに酷い事されたの!?」
「違っ…違う…」
「……場所、変えようか」
声を掛けてきたのは悟天くんで、きっとトランクスに用があったのだろうけど、泣いてる私に気を遣ってくれて外へと場所を移してもらった。
「落ち着いた?」
「……うん」
西の都から少し離れた場所。空は星がいっぱいで綺麗だ。
「それで、何かあったの?ナマエちゃんが泣いてたからよっぽどの事だと思うんだけど」
この優しさ。私を気に掛けてくれるこの優しさが、欲しかった。本当はトランクスがって言いたいけど、この優しさは悟天くんだからこそだと思う。
「トランクスが、あんまり私に構ってくれなくて…」
「仕事以外の時も?」
「心配してくれないの。私がどこに行こうが、興味ないのよ」
「ふぅん。じゃあさナマエちゃん。ボクが慰めてあげよっか」
えっ?と言う前に、身体が悟天くんに抱き寄せられた。
よしよしと撫でる悟天くんの手が、抱きしめる腕が、胸板が、人肌が恋しかった私にとってとても安心する。
だから心の中でごめん、と小さく呟いた。
* * * * *
「ナマエさん、ちょっといいですか?」
悟天くんと別れた後、少しスッキリした気持ちで戻ってきたらトランクスが部屋の前で立っていた。
表情はどこか、怒ってる?
「確かに仕事で構ってあげられる時間は少なかったです。だからオレは、ナマエさんがどこに行こうがだれかと居ようが構いませんでした。けどそれは、あくまでも“女性”と一緒だったからですよ。オレが居ないときに。しかも許可無しに男と2人っきりだなんて、許すわけにはいけませんね」
「なんでそれを……」
「オレがナマエさんの気を感じるのは、息を吸うのと同じぐらい簡単な事です」
角度を変えたキスが何度も降り注いだ。まるで、私を逃がさないように。
私は苦しくなり、トランクスの胸を押してみるがびくともしない。
そして、これ以上は本当にヤバいと思ったときやっとの事で解放された。
「トラっ…ンクス……」
肩をいっぱいいっぱい使って酸素を吸い込むが、そんな私を息ひとつ乱れていないトランクスが余裕な笑みで見下ろしてくる。
それでも、その整った顔立ちに胸がキュンとしてしまうから悔しい。
「いいですかナマエさん。オレはあなたが思ってるほどできた人間じゃないんです。今回に懲りて、二度とバカな真似をしないでください」
どうやら私の自慢の彼氏は、想像もできないほど独占欲の強い男だったらしい。
翌々考えてみれば、この人はベジータさんの血を引き、サイヤ人のエリートで、王子様なんだっけ。壮大すぎて、忘れたい設定ですよ。
「私はあなたが思ってる以上にトランクスの事大好きだからね」
「それぐらい知ってますよ。何年ナマエさんの事を見てきたと思ってるんですか」
甘いセリフをあまり囁かない人だけど、心の中は意外にもまだまだお子様らしい。
でもこの人に火を点けてしまったらそりゃもう大変なので、私が下からいくのが愛の形ってやつなです。
(1年前ぐらいかな?)
(……今夜は長年分の想いを、その身体に全部刻み込んであげます。寝れると思わないでください)
(そんなにも?!)
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