「なるほどこれは夢か。起きなさいナマエ。自分のためよ。起きなさい」
「夢の中で出会えるとは光栄だな。どうだ、続きはオレの胸のな」
「起きるのはお前だベジット」
真っ白な背景の世界に私たちは立っていた。
精神と時の部屋……それは絶対に無い。そんな恐ろしい場所に入ったら間違いなく私は死ぬから。
そもそも、ベジットさんとゴジータさんが同時に存在する時点で、夢であると確定する。
腰に手を当てながら、ワクワクしているのかご機嫌そうに笑うベジットさん。
夢の中でベジットさんに出会ったのがそんなに嫌なのか、腕を組み呆れ顔でため息を吐くゴジータさん。
起きろ起きろと往復ビンタ(夢だから痛くない)を繰り返す私。なんてカオスな状況なのだろう。
「夢とは言え、自分を傷つけるのはやめろ」
時間を動かしたのはゴジータさんでした。
ビンタを繰り返す私の両手を止めると、なぜかそのままてっぺんまで挙げた。お互いになぜか万歳した状態。
身長差もあってつい背伸びをしてしまう私は、嫌でもゴジータさんと目が合ってしまう。
いくら『悟空さん+ベジータさん』とは言っても、かっこいい事には違いない。
頬に熱が溜まるのがよくわかった。
「夢だからって容赦しねえぞゴジータ!」
「うわぁっ!」
自然とできた私たちの橋に、自ら入り込んだベジットさんに驚き体がよろめいた。
しかしさすがイケメン。
手を握っただけで支えてくれるとか乙女心を擽ります。
力ありすぎて逆に怖い気もするけど。
「ロンドン橋」
「へっ?」
急に落とされた橋は、ベジットさんの腰辺りを捉えた。
満足げに「貴様の負けだ」とドヤ顔を見せるゴジータさんにただただ驚かされる。
多分、『ロンドン橋落ちた〜』の歌を歌いながら遊ぶ、子供のゲームに違いないが、どこで歌を覚えたのだろうか。
「だいたいだな、ナマエ!」
「はいっ!」
ベジータさん部分を全面的に出したベジットさんが、私を見下す形で物申してきた。
お前はオレとゴジータ、どっちがタイプなんだ。と。
急に何を言い出すかと思えば、子供かっ!と心の中でツッコミを入れてしまう。
いつもなら止めに入るゴジータさんだけど、なぜか今は黙ったまま。
繋がれたままの手をチョップで離すと、もう一度問いかけてくる。
夢だし、うん。素直に答えよう。
「どちらもタイプだと思います。それぞれのかっこよさもありますし」
「強いて言うならば?!」
「………ゴジータさん、かな」
石化するベジットさんと、背を向けて小さくガッツポーズをするゴジータさん。
たかだか小娘ひとりの意見でそこまでリアクションをとらんでも……。
「どどどどこがいいんだあんなやつ!ほぼ半裸だぞ!いい歳したオッサンが半裸だぞ!」
「あうあう…」
目が回るぐらい肩を揺らされて、だけどベジットさんは涙を流していて、止まる気配がない。
「でもベジットしゃんは最強じゃにゃいですか」
「そうだった」
その言葉でやっと動きが止まるが、夢の中なのに酔ってきた。
フラフラする私を優しく支えてくれるのがゴジータさんで……こういったところですよベジットさん。
「公式がわけわかんないキャラを追加しているが、原作の最強はこのオレ、ベジット様だ!」
「公式だの原作だのその発言はNGですよ」
「そうも言ってられないんじゃねえの?」
「お前は公式キャラだが、まぁそう僻むなよゴジータ」
「スーパーサイヤ人ゴットは、原作だろ?」
確かに、原作かもしれない。
ゴジータさんの発言にうんうんと頷く私に納得いかないのか、口論を始めた。
「だがそれは一時的なものだろ。フュージョンもそう。けどオレは違う」
「ビルス様には勝てねえだろ。あの界王神のじっちゃんを封印しちまったんだし」
「もうその話しはやめましょうよ。ベジットさんは強い(見せ場なし)ゴジータさんは優しい(世界を救った)ってことなんですから」
「余計な情報が追加されてるんだが」
ベジットさんのツッコミは聞かなかったことにして、私はその場に座り瞼を閉じた。
ベジットさんとゴジータさんが、同時に存在することは現実世界じゃあり得ないこと。
だけど夢の世界だからこそ……違う。
「じゃ、現実世界でまたお会いしましょう。夢の続きはその時に」
大好きな人を独り占め。
私の夢だもん、ちょっとぐらい贅沢してもいいよね。
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