時間の余裕ができ、久々にトランクスと会う約束ができて、家中を走り回ったり、ぴょんぴょん跳ねるぐらい嬉しかった。
買い物とか、スポーツしたりとか、貴重な一日をどう過ごそうかとわくわくしていた昨日。
結局予定は組み立てずに朝がやってきて、眩しい太陽、もこもこの雲を眺め一言「……丘に行きたい」第一声がそれだった。
トランクスは復興の手伝いとかで重労働の毎日。
私はトランクスと一緒に居られるだけで幸せだから、少しでも疲れが取れればなって思ったの。
クッション代わりの草は心地よく、周りの花が癒やしの香りでリラックスできる。
隣同士で座ったり、寝っ転がったりではなく、背中と背中をくっつけて休んでいた。
「ぐたー」
「課題終わったのか?あと重い」
「もちろん昨日終わらせたよ。それに身長が伸びれば体重も増えるんだから」
「反比例じゃ意味ないがな」
グサリと刺さった見えない矢を自力で抜き、もう一度トランクスの背に体重を乗せる。
するとバランスを崩した拍子に、持ってきた小説に影を落とし文字が読みづらくなったらしい。
そこまで体重を預けてないのに、失礼な人だ。
「……ナマエ」
「ん?」
「ありがとう」
「どーいたまして」
何のお礼かは正直分からず、けどあまりに優しく、心がくすぐったくなる声で言うのだから、照れ隠しに平然とした返事をしておいた。
それと、背中合わせで良かったよ。
「今から生まれてくる子供たちは、今を平和だと感じてくれるのかな?」
あの地獄だった毎日が嘘だったかのように、綺麗な都が当たり前の景色となっている。
あれがただの悪夢だったと、記憶から消していく人も少なくはないだろう。
私が生きているのは、ブルマさんの力があって、過去の戦士の協力があって、トランクスが戦ってくれたからだ。
しかしトランクスのおかげでイマがある事は誰も知らず、トランクス本人の計らいで、人造人間は自然消滅した事になっている。
この世界に頼りのドラゴンボールはない。
ならば頼れる戦士も必要ない。
ひとつに頼るのではなく、みんなで平和を作っていきたいから。
トランクスがそう願うのならば、それに私も協力する。
「案外、あの世の方が平和だったり」
「ナマエ」
「ごめんごめん」
今の言葉は、死ぬ方がマシ的なニュアンスと捉えられたらしく、さっきと違って少し強張った声で私の名前を呼んだ。
平和って人それぞれだから、答えに辿り着くのはずーっと先だと思うし、一生辿り着かないかもしれない。
だって、トランクスが私以外の女の子と親しげにしてたら、私にとってそれは平和じゃなくなる。
それぐらい私は……
「……好き、なんだよ」
「急にどうした?」
「振り向けば、小声でも好きってトランクスに届くよね」
「…………」
「でも背中合わせなら、たくさん声出さないと声が届かない」
両手で好きの大きさを表現するとき、いっぱい両手を広げて手の平を向かい合わせる。
ううん、違う。
そんなんじゃ足りない。
私は手の甲を合わせて表すの。
まるで私たちが背中合わせに座っている今みたいに。
「地球は丸いよ。まんまる。だからこの先には……」
「ほんとだ、ナマエが居る」
「ひゃっ!ト、トランクス!?」
なんだか久しぶりに見るトランクスの顔がすぐそこにあり、いつの間にか体重を預けていた背中がなくなった事により、そのまま寝転がってしまった。
余裕たっぷりの笑みを浮かばせるトランクスが言うには、まっすぐ進んだその先に私が居た……らしい。
一瞬で地球をひとっ飛びとかナニソレスゴーイ。
「で、オレに届けたい言葉があるんだろ」
髪の毛をそっと耳に掻き上げた際に、くすぐったくてぴくりと動くとトランクスはまた笑った。
とても恥ずかしく、さっきまでの威勢は完全に迷子となってしまう。
しかしこの状況もかなりのもので、覚悟を決めて好きのすを言い出したときに、トランクスの人差し指が私の唇に当てられた。
言わせておきながら、ちょっと待ってとストップをさせるように。
「オレの平和には、ナマエが居なきゃ成り立たないんだ。この先にナマエが居るだけで、オレは頑張れるから」
つまり、私が居なきゃダメなのか。
勘違いだったら恥ずかしいし、深い意味はないのかもしれない。
けど顔がにやけてしまうのは、嘘でも嬉しく感じてしまうわけで。
優しい口づけの後に、風がぶわっと吹いた。
舞い上がる花々は美しく、彼と共に笑う。
平和だなぁって。
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