ダメな私でごめんなさい

「メリークリスマス!はっはっはっ」


謎の黒い物体を前に、さすがのオレもビビった。
神的速さでドアを閉め鍵を掛ける。

ポケットに入れてある携帯で日付を確認した後、頭を抱えてずるずると腰を下ろした。

ドアを叩く音が頭にガンガン響く。まるで太鼓ゲームの連打状態になれば、いよいよオレは諦めてドアを開けたのだ。


「なんだよ」

半ギレのご挨拶(アポなしで祝日の朝っぱらから来るのが悪い)をし、黒い物体を睨みつける。
しかし攻撃力は下がることなく、むしろめんどくさいテンションで絡んできやがった。

さっさと帰らせもう一眠りするために、両手を上げて降参のポーズを見せる。
ムダなやり取りを避け、用件を済ませる作戦だ。「よい子のバーダックさんにプレゼントフォーユー!有り難く受け取りやがれ」


ちなみに今日はクリスマスじゃなければ、シーズンでもない。
確かに寒い日もまだ続くが、今は新たな新生活が始まる準備期間という、まぁ社会人には関係ない時期だ。


しかしこの黒い物体はサンタ服(黒く汚れた隙間から微かに見える赤い色から予測)を身に包み、メリークリスマスのかけ声と共にオレの家に何かを放り投げた。

あくびが出るほど眠かったが、これに関しては眠気が吹っ飛ぶ程の威力がある。


……だからクリスマスチョイスなのだろうと、一人納得してしまった。


「メリークリスマス!メリークリスマス!」

「いい加減にしろよクソガキ」


両頬を抓ってやり、ようやく会話ができる状態になる。

黒い物体……ナマエは、2年前隣に越してきた現役大学生。
初めての一人暮らしらしく、不安を抱えながらも一生懸命な姿を見て少しぐらいは助けてやろう、そう思った過去のオレを殴りたい。



見た目は真面目そうな普通の女だが、蓋を開けてみれば驚きのオンパレード。

ゴミを溜めるは服は散らかしっぱなしのゴミ屋敷。

水道、ガス、電気をギリギリまでケチり、ピンチになるとオレの家に押し掛ける。

テレビも無いためオレの家に押し掛ける。

食事はバイト先の賄いで済ませるため、限界が近づけばオレの家に押し掛ける。

着いていけないのに、女子会的なテンションでオレの家に押し掛ける。

ゴミ屋敷のためオレの家に押し掛ける。



そして今回は、数ヶ月(何年?)振りかに掃除をしたらしいが、今朝のゴミ回収を寝過ごしたそうだ。
結果オレの家にゴミを放り投げ……。



「男性恐怖症になる程精神的ダメージ与えてやろうか?」

「あひゃふひゃへ」


なぜこんなにもナマエはオレに甘え、オレが我慢してるかと言うと、オレの両親の命の恩人の娘がナマエだそうだ。

もちろんナマエ本人はそれを知らないし、オレを都合の良い男としか見ていないだろう。

ほんといい迷惑な話だ。オヤジらがどうにかすることなのに、そもそもナマエは他人だぞ。なぜオレが面倒を見ている。


いい加減手を離してやれば、真っ赤になった頬を撫でながらナマエはこう言った。

「掃除中、懐かしい物がたくさん出てきて。気づいたら朝方で、そしたら寝過ごしました」

「ゴミをベッド代わりに使うんだな。良いクッションになるだろ。なんなら、ナマエがゴミ袋に入っちまえ」

「なっ、私をゴミだと言いたいのですか?!怒りますよ!」

「怒りたいのはオレの方だ」


怒鳴るより、落ち着いた声の方が迫力あるだろう。
親指で指すそこには、散らかった部屋と散乱するゴミ袋。
これを見たナマエは反省したのか、赤い帽子を取り肩を落とした。



「……………」



意外にも言葉はなく、ただ沈黙が流れる。
素直に謝るか、軽い謝罪か。
てっきり後者が来るだろうと構えていたが、ただただ沈黙が流れるだけ。
しかし、ある意味賢い選択だったのかもしれない。
こうなれば沈黙を破るのは間違いなくオレになるのだからな。



「…………すぅー…」

「このクソ女」



立ったまま寝れることに拍手してやるよ。
だがこれ以上笑って許してやる訳にはいかねえんだ。

どうやって起こしてやろうか、今にも倒れそうに眠るナマエを見て、不意に笑ってしまった。
まだ若い歳の女が真っ黒になり、無防備で立ったまま眠る。

それに今に始まった話しでもないしな。むしろ日常茶飯事だ。

「……はっ!違うんですパトラッシュ!何だか私も疲れて、そしたらエンジェルたちが!!」

「そこまで付き合ってやんねえよ。行くぞナマエ」

「行くって……どちらへ?」

「銭湯。まずは綺麗さっぱり洗い流す。話はそれからだ」



二人分の風呂セットと、ジャージが入った袋を肩に下げて家を出た。
ペタペタとサンダルの音を鳴らすのは、残念ながらナマエだ。


「オレには荷が重い。早く男をつくるんだな。なんなら紹介してやるよ」

「えー、じゃあバーダックさんが結婚したら焦ることにします。でもバーダックさん以外に、私を受け入れてくれる人居るのかな?バーダックさんと私が同い年だったら、間違いなくゲッツしたいです。若くなってください」

「だったらナマエが老けるんだな。そしたらプロポーズに応えてやるさ」

「意地悪ですね」


何を理由にナマエの面倒を見ているのかは、オレ自身でもわからなくなっている。

けど今言えることは、もう少しぐらいマシな人間になってくれ。
本当に頼む。



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