問題児にも色々な種類があると思う。
オレは他の生徒と比べて職員室に行く機会が多く(委員長の仕事のため)そこで問題児を見かける。
見るからに喧嘩っ早そうな問題児。
(オレは平和主義だ)
ちょっとした所でやんちゃする問題児。
(そこまでオレはガキじゃねえ)
校則を破り、自由に自分を魅せる女子生徒。
(視界に入る肌や下着が目障り)
そして稀に、人に迷惑をかけない問題児が存在する。
「おい」
「…………あ、旧委員長」
一日中降り続く雨。
学校帰りの、暗い道でも雨は降り続いている。
目の前に立つ女子生徒こそが、その稀な問題児だった。
見た目は至って普通。人は見掛けによらないと言うが、悪さややんちゃするような顔ではない。
クラス内ではおとなしく、流れに逆らうことなくただ身を任せていた。口数も少ねえし、影が薄い。
だがオレから見れば、浮いてると言うより、自ら距離を置いてる印象だった。
そして今は、雨の中傘を差さずに歩いている。
それは別に不思議に思うことはないが、傘の先を肩に乗せているだ。
傘があるのに、傘を差さない。
こいつこそがちょっとした問題児、ナマエである。
「風邪引くぞ」
「傘を差すのがめんどくさいんです。なぜですかね?」
「オレが知るか」
決して大きいとは言えないが、自分の傘にナマエを入れてやる。
いくら気分とは言えほったらかしにはできず、お人好しなんだろうな、オレって。
「旧委員長は今も委員長?」
「まぁな」
「ほぉ。あの緊張感溢れるクラス会議を行ってるんですか。私、けっこう好きでしたよ。旧委員長、怒ると怖いですしね。ビクビクするみんなを見るのが私の楽しみでした」
「性格悪いな」
「青春ごっこが嫌いなだけです」
「今日はよく喋るな」
「基本は喋ります。本性を見せないだけですよ」
「なるほど」
学生時代の思い出を作ってるやつらに“青春ごっこ”と一言で片づけてしまうのがナマエらしい。
団体行動が苦手なナマエだから、距離を置いたんだろう。
納得できるような、できないような。
「でも、去年は楽しかったですよ。旧委員長のおかげです」
「バーダックな。いい加減覚えろ」
「そうそう、ゴボウでした」
覚える気なさそうな返事にため息が出た。
クラスが変わったためナマエを気にかけることはできず、今も浮いてんだろうと横顔を見て、もう一度ため息をつく。
そもそも、なぜオレがナマエを気にしているかが疑問なのだけど、まぁいいか。
「私、こっちだから」
「ちゃんと傘差せよ。家帰ったら風呂に入ること。それまではこれ貸すから拭いとけ」
「旧委員長、お母さんみたい」
「せめてお父さんにしてくれ」
タオルを押しつけて、ナマエの傘を開き手に握らせる。
ここまで面倒見るのは本当に不思議なことで、けど嫌じゃないのは確かだった。
歩き出す背中を見送ると、何かを思い出したかのようにナマエは振り向く。
めったに見れない笑顔で、ナマエはこう言った。
「今年の体育祭、赤いバンダナするんだ!バーダックとお揃いだけど、負けないから!全てはアイスのために!」
宣戦布告なセリフだが、ナマエがやる気になっただけ十分成長したと言えるだろう。
そういやウチのクラス、イメージカラーはまだ決めてねえや。
「体育祭…か」
ふと空を見上げると、雨は止んで太陽の光が差し出した。
傘をたたみ、最後に一度振り返る。
傘を差し続けるナマエは、やっぱり手の掛かる問題児だ。
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