男とか女とか

「明日の仕事、オレとお前の2人らしいな」

「あぁ、今朝上から聞いたよ」

トレーニング室で明日のパートナーとなるバーダックと鉢合わせると、あえて私の隣のランニングマシーンを動かす彼。

私よりも一段階上のスピードに設定すると、こちらも負けじと対抗する。するとバーダックはスピードを上げ、私も上げる。
意地の張り合いというか、負けず嫌いは昔と変わらないらしい。


「…へへっ…少しは…やるようになったじゃねえか……だが、オレの勝ち…」

「…なにを根拠に…第一…オレは…、お前より先に…走ってたんだぜ…フィニッシュが同じなら、オレの勝ちだろ」

「へぇ。ならみっともねえ…勝利だな。息、乱れすぎだぜ」

「みっともねえのは…バーダックだろ。汗が尋常じゃねえ。だれだよお前」


トレーニングで競り合った次は、言葉の競り合い。
どちらも一歩も引くことなく続くから、周囲には呆れられる。
ちなみにランニングマシーンは自ら止めたのではなく、ランニングマシーンが私たちに負けたのだ。黒い煙がトレーニング室に広がる。同時に二台も壊してしまったのだから、それはもう上の人間もカンカンで。
明日の報酬カットで話はついた。


「明日の星、それなりにランクは高いらしい」

「マシーン代を引いても釣りが出る額だな」


はぁ、と2人のため息は、シャワーの音と共にかき消された。
限界を超える意地の張り合い。
良い着地なんてしたことがなく、必ず後悔をしてはため息を漏らす。
昔から同じで、進歩しようとしない私たち。
いい歳してまだまだ子供らしい。

「相変わらず早ぇな」

「そこだけは譲らねえ」

同時にシャワー室に入ったと言うのに、タオルを腰に巻いて出てきたバーダックに対し、私は軽装に着替え終わっていた。しかしまだ濡れている髪の毛を雑に乾かしていると、不意にバーダックが私の髪の毛をすくい上げ顔を寄せる。何を言い出すかと思ったら

「いい匂いする」

「……気持ち悪い」

「ナマエじゃねえよ。シャンプーの匂いだ」

「髪に合うのがそれしかなくってよ、サイヤ人の髪の毛も面倒くせえよな」


端から見たら、タオル一枚の男が男の髪の毛の匂いを嗅いでいるという、カオスな画になっていたのでバーダックを蹴飛ばしそこで別れた。
文句は明日聞けばいい。そう心の中で呟いて、少し速い鼓動を落ち着かせたのだった。



「そっちの様子は?」

「確かに、それなりに高い戦闘力を持つ野郎がゴロゴロ居やがる。ナマエの方は?」

「同じ状況。それより、女や子供が見あたらねえんだが、どっかに固まってんのかな?」

「さぁな。とりあえず離陸地点で合流するぞ」

「了解。迷子になるなよバー……」


そこでナマエとの通信は途絶えた。何度か応答を呼び掛けるが返事はない。たまたま電波の届かない所に居るか……それは有り得ない。例え違う星だろうが通信をキャッチできる高性能のスカウター。
ハッキングされたか、壊れたかのどちら。
自らのスカウターで気を捜そうとしても、似たような戦闘力が邪魔をしナマエを見つけだすのは困難。
一か八かで、多くの気が集まる場所へ向かうことにした。


* * * * *

「期待はしていなかったが、やはり男か」

「悪ぃな。そいつを返してもらわねえと困るんだよ」

予想通り、気の集まる場所にナマエは居やがった。
しかも情けねえことに、縄に縛られて捕まっていやがる。
本当、昔から手間のかかる野郎だ。

「…バーダッ…ク……?」

「この女は貴重な生け贄だ。さらに戦闘力が高いときた。簡単には手放せまい」

「ナマエが女?寝言は寝て言いな」

「惚けても無駄だ。この香はこの星の宝。女にしか効かなくてな、全てを吸い取り、私たち男のエネルギー源となるのさ」

「つまりテメェ等の高い戦闘力と、この星に女が居ない理由がよくわかった。けどな、オレとナマエは長ぇ付き合いなんだよ!オレと張り合えるその強さ、酒比べだってやった。見た目も中身も立派な男だろうが!」

「と、彼は言っているがね」

「……………」


間違ってるはずがない。
確かに男かと聞いたことはねえが、男に男?と聞くのも変な話だ。
今まで普通に流してきたことだし、もし本当に女なら……んなわけねえ。
性別間違われて平気でいられるやつなんざいない。


「友達…と言うより、ライバル。その関係が、バーダックと向き合えた」

「ふむ。まだ喋る力が残っていたか。流石は戦闘民族サイヤ人だ」

「男に間違われるのは覚悟してたよ。でもさ、女の私より、男の私の方が良いって……ずっと一緒に…男同士の方が楽しい。でもバーダックを騙し続けてて…言いたくても言えないよ…この関係を壊すのが、怖い…」

「バカ野郎」



つまりオレは、勘違いしていたらしい。
今思えば、確かに違和感はあったな。
ガキの頃ナマエと一瞬に風呂に入った。男にあるべきものがなかったナマエにオレは「そのうち生えるよ」とか言ったっけ。
男の割には細い身体。
メディカルマシーンに入るとき、治りが早くなると言うのに服を脱ごうとしなかった。
並んで浴びたシャワーは、オレが終えると既にナマエは着替え終わっている。

心地良い匂いのする髪の毛。
時々感じる、笑うと可愛い表情。


なんだ、ナマエはちゃんと、女じゃねえかよ。

「ナマエ、話は後だ。そこでもたついてんじゃねえよ」

「全部話すまでは、オレも男のままだもんな」


全身の縄を自らの力で解き、そのまま周囲の奴らに攻撃を始める。
オレもナマエの力を奪う香に近づき、力ずくで破壊した。
そして同時に空を見上げる。


今日も綺麗な、お月様だ。




* * * * *


「悪かった。嘘吐いてて」

「ナマエが男らしいのがいけねえ。見事に騙されたぜ」

荒れ地となったこの星には、オレ達2人以外には誰もいない。
できるだけいつも通りに、と気を遣っちまうのが逆に悪いのか、と言うより、はだけたサラシで目のやり場に困っていた。
そんな大層なもんでもねえくせに。でも、ナマエが女であるという、立派な証拠。


「胸がないのが原因だな。そりゃ誰でも間違える」

「男性器が生えると純粋に信じているバーダックくんですもんね。貧相な胸で顔を赤くするなんて、ずいぶんとウブな坊ちゃんですこと」

「んだと!」


いつもなら殴りかかる。
今だって殴りかかった。
なのにクスクス笑うナマエの顔が、不意に可愛いとか思ったりして…調子が狂うなくそっ


「カウンター」

「……お前なぁ」



顔面に当たるナマエの拳。

多分ナマエは、女というだけで境界線を引かれるが嫌だったのだろう。
事実、ナマエの正体を知ったオレは、以前のように接するのには躊躇いがある。
だが待て。確かに身体は女だが、中身は何一つ変わってねえんだ。オレがよく知る、男らしいナマエのまま。


「できれば、ライバルのままで仲良くしてください」

「やっぱりお前、男だろ」



今更関係をリセットするのはめんどくさい。
今まで通りは難しいが、これからは微調整すればいい。


ナマエが突き出す拳に、こつりとオレの拳をぶつけた。


とりあえず今は、ライバルのままで。

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