告白を断れなかった

私にはファッションセンスがなく、というかファッションに興味が湧かない人間だ。
年頃の女の子なんだから、周りの目を気にしなくちゃいけないかもしれないけど、常に私は愛用のジャージを着ている。

なのにさ、クラスの子たちは下着にも気を遣ってるみたい。勝負下着?って言うらしく、私にはよくわからないや。


「みーずたーまちゃん!」

「……………」

「ちょっとなんで逃げるのさ!!」


私がジャージを好む理由。
一番は走りやすいからよね。なんたって私、陸上部のエースだもん。
そんで、絶賛追いかけてくる男の子は同じクラスの孫悟天くん。
彼の運動神経は上だけど、私ほどではない。
だからほら、見る見るうちに悟天くんが見えなくなる。
「ここまでくればいいかな」

少し息を整えて、走ってきた校庭を見回す。
遠くからでも十分目立つくせっ毛は見当たらないっと。


「……戻るか」

「水玉ちゃん見ぃーっけ!」

「うひゃぁ!!」


木から急に姿を表した悟天くんに驚き、つい尻餅をついてしまったのは仕方のないことだ。
けれど、彼はいつの間に木の中へ?全く気配を感じなかった。

「部活中でしょ?こんなところで油売ってていいの?」

「だれのせいですか」

「だって水玉ちゃんが逃げるから」


突然追いかけてくる悟天くんが悪い。だなんて、上目遣いで甘えてくる彼には言えなかった。なるほど、あの手この手で女を落としているのか。


「だいたい、私にはちゃんとした名前があるんだけど」

「そりゃもちろん知ってるよ。でも、水玉ちゃんは水玉ちゃんだもん」

「だから、その水玉ちゃんをやめろって言ってるの」


なぜ私の事をそう呼ぶのか。
あれは、遡ること(といっても1年半前)入学式の日。
さすがの私でも、式典や行事の際は制服を着ている。
着慣れないスカートだったけど、遅刻寸前の私には気にしていられなかったのよね。
それで、持ち前の脚力で走ったり飛び越えたりしてたら、たまたま男の子2人の前でスカートが捲れちゃったの。
それが悟天くんとの出会い(もう1人は先輩だった)となり、その時の水玉模様が印象強かったってわけ。それ以降、私のあだ名は“水玉ちゃん”となり、スカートという物がトラウマになったのよね。


「思い出しただけでムカムカする」
「思い出しただけでムラムラする」








「そんなに見つめないでよ」

「睨んでんの!!!」




ほんとにもう、悟天くんと居ると疲れるわ。
それに、そろそろ帰んないとさすがに怒られそう。



「じゃあ悟天くん、私部活に戻るね」

「……今度からは名前で呼ぶよ」

「なんか、今更って感じだけどぜひ水玉ちゃんを卒業したいです」

「その代わり、ボクの彼女になったらね」

「はい?」

「本名で呼ぶのは、ボクが特別にしてるって証拠だから」

「でも彼女になるのはちょっと」

「じゃあ競走しようか」



悟天くんが指差すのは、陸上部が使うゴール地点だった。
ここからだと約150mってとこかな。


「ボクが勝ったら、その時点で水玉ちゃんとカップルね」


悟天くんは確かに運動神経が良い。
でも、私ほどじゃない。
エースのプライド、そして己のプライドのために、この勝負を引き受けた。


「じゃあいくよ。…………よーい、どん!!」



納得のいく、気持ちの良いスタートダッシュだった。
本来なら悟天くんに分があるのだけど、すでに視界の片隅に彼はいる。



当然の勝利。



そう確信した、時だった。





物静かに、風を切る音が耳に響く。

そして気づいた時には、彼はもうゴール地点で笑顔を見せていた。



「水玉ちゃん、ボクに差をつけられて今ゴール!」

自己ベスト並の走りだったのに、私は負けたのだ。
ゴールが悟天くんの胸の中になってしまい、そのまま彼は小さくこう言った。


「本当のボクは、かなり凄いんだよ」



つまり今まで、手を抜いていたと言うことらしい。





「でも勝負は勝負だから。今日からまたよろしくね」




勝負に負けたのは悔しいけど、悟天くんに名前を呼ばれるのは悪くない。と、素直に私は負けを認めたのだった。

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