この緑豊かな村に栄える色鮮やかな花たち。
雨上がりに架かる虹。
夜になれば月が輝き、満天の星空が光を注ぐ。
美しい。美しすぎる。
何よりも美しいよ我が村長!
私は美しい!!
「ついに頭が逝っちまったか?」
「ぎやぁぁあ!」
「…お前みたいのが美しけりゃ、部屋に出るゴキブリも美しくなるだろ」
「つまりあれですか、私はゴキブリと同レベだと言いたいのですか?ん?」
「何でお前が村長なんだろ」
「ため息を吐くな!」
手違いでこの村の村長になって早数ヶ月。
色々な方に囲まれ、私は強く生きています。
たまーにアホな事をするけど、その時は私がここに来たときからずっと居た、村民のバーダックって人が突っ込んでくれる。
目つき悪いし、頬に傷があるけど、面倒見のいい兄貴分なのです。
他の奴らはね……うん、紹介したくない。我が村の恥。
「よぉナマエ。土産の花だ。受け取れ」
「ターレス…」
「美しい花は美しい人にこそ相応しい。お前みたいなやつがな」
さっそく現れました。
私が一番苦手とするタイプ。
ナルシスト系のターレスです。
こいつ、言うことが一々鳥肌ものだからさ、ある意味天才だよ。
それでもターレスから赤バラを受け取ってしまうのは、そういう設定だからです。
とその時、バーダックが割り込み大声で叫びました。
「それオレん家の花じゃねえか!!」
「んだよ、居たのかバーダック」
ぷんぷん怒るバーダックに対し、どや顔で「拾ったんだ」と胸を張るターレス。
じゃあもしかして、今までターレスが持ってきたのがそうだとすると、我が家の周りの花たちは……言われてみれば、バーダックの家の周りが日に日に寂しくなってた気がする……
「ねぇバーダック、良かったら金のバラ、持っていってよ」
「ちょっ、待てよナマエ!唯一オレへのプレゼントは偽物の名画とか、ゴミとかそんなんなのによ!!」
「だってさ、金のバラができたのはバーダックから赤いバラをもらったわけだし」
「…いいのか?前に金バラ盗まれたって言ってただろ」
「いやいや。日頃の感謝を込めてですよ。受け取ってくだせえ」
「…おう。サンキュー」
* * * * *
「めでタイ!」
「すげぇなナマエ!」
海岸で釣りをしていると、悟空がパチパチと手を叩いた。
彼もまた、ちょっと面倒な村民です。
「あの、悟空…さん?」
「オラさ、今物凄くタイが欲しいんだ。でもよ、オラは釣りよも素潜りの方が得意だし…でもタイは釣れねえ」
「つまりタイが欲しい…と?」
「いいんか?!」
眩しい。彼の瞳が眩しい!!
魚が釣れた姿を悟空に見られると毎回攻め寄せられて、お花をふわふわ飛ばすんですよ!
お礼のお返しをもらう度に後悔するのにさ、やっぱり叶わないよその瞳!
「いつか自分で釣ってくださいね」
「ははっ、サンキューナマエ。んじゃお返しだ」
ポケットからタイを取り出し、それを悟空へ渡す。
そして悟空はポケットに仕舞うと、お返し用の靴を私に渡した。
「じゃあなナマエ村長ー」
今すぐにでもタイを食べたいのか、駆け足で去っていく悟空の背を見つめ、私はもらった靴に履き替える……けど、お決まりのため息を吐く羽目に。
「なんでスリッパ?」
「よぉナマエ、釣れてるか?……ってお前、トイレのスリッパ履いたまま家を出たのか?」
偶然にも哀れな姿をバーダックに見られてしまい、物凄く恥ずかしかった。
当然言い訳をするがそんなのは聞き入れてくれず、何だか悔しい。
「覚えてろよー!!!」
苦しい時、悲しい時は我慢しなくていいのよ。
だってあなたは、女の子だから。
ははの手紙が心に染みる。
今日も私は、頑張ってます。
―おまけ―
「いやぁぁああターレスが増えたぁぁああ!!」
「おいおい冗談よせよナマエ。お前のターレスはたった1人だぜ」
「ざけんな。こんな野郎と一緒にされちゃ反吐が出る」
「オラ素潜り頑張ったからよ、カニがいっぺえ穫れたぞ!」
バカンス帰りの黒く焼けた蟹頭たちとすれ違い、私は勢いに任せてスリッパで叩いた。
“スパコーン”
と響く音は、鬼ごっこの始まりの合図でもあるのです。
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