女は男と違って器用である。
男なら、嫌なことがあれば嫌とその場ではっきり言うだろう。
けれども女は、嫌なことでもにこにこ笑顔がすぐに作れる。
それはとても自然なもので、仮面が外れるまではなかなか気づかないものだ。
いかなる時でも、笑顔を忘れずに。
* * * * *
「なぜあなたを呼び出したか、わかるよね?」
「私の彼氏が、お気に召さ」
「悟天くんはみんなのものよ!!」
私の通う学校には、いわゆるアイドル的存在のイケメンが存在している。
となるとファンも多く、そのイケメンはみんなのものと勝手に規則を作っているそうだ。
けれども仲間は全員女。
仲良くやっていけるはずがない。
裏で大層なイジメがあったという話を耳にした。
ある日、ファンであった子が、そのイケメンくんとお付き合いをしたそうだ。
となれば、他のファンの子たちが黙っているはずがない。
呼び出して集団リンチ。
徹底的に精神を潰すとか何とか。
理由は色々あるみたいだが、それがもう何件もあったそうだ。
女って、器用だから怖い。
「私は彼に告白をして付き合ってるの。告白する勇気も無い人間に、口出しさ」
「……自分の行いに、後悔するといいわ」
乾いた音が、静かな裏庭に響く。
女子たちの足音が遠くなると、私は静かに腰を下ろした。
もっと卑怯な手を使ってくると思ったけど、平手打ち程度なら平気。
全然……痛くない……
「女って、よくわからねえ」
はっきりと耳に届いた男の声。
だが辺りを見渡しても人影は見あたらず、木がガサガサと揺れると男が姿を表した。
どうやら、木から一部始終を見られていたらしい。
「女って怖いな」
「確かあなたは…」
「トランクス。お前が新しい悟天の彼女だろ?」
「今日で彼女、やめますけどね」
「あんなので負けるの?」
「私の役目は果たしました。これ以上、孫悟天くんを利用したくありませんから」
いくら『氷の王子』と呼ばれているクールな彼でも、親友を利用されていると聞いたら怒るだろう。
けれども彼は1つため息を吐くと、どこか遠くを見つめて話しだした。
「彼女ができてもすぐにフられる。しかもそれが毎回だから、不自然に感じた」
「………」
「何となく原因は想像できていたが、今回ではっきりさせたかったんだ」
「それで木の中に身を潜めていたんですね」
「あいつは……悟天は、良いヤツだから」
たった1日。ううん。悟天くんと一緒に過ごせた1日は、本当に楽しかった。
でもって想像以上に純粋で、優しい青年だったな。
「私、悟天くんが好きです。でも前に私の友達が悟天くんと付き合って……別にそれは良かったのですが、イジメに遭い、心に傷を負っちゃって」
「それで悟天に接触したのか。そういった裏のシステムがあるにも関わらず、あいつは彼女をつくる。だからキミは、悟天を疑ったんだろ?」
全てお見通し。否、彼が親友を心配した結果同じ答えに辿り着いた。そんな感じだろうか。
「悟天くんはこんな醜い現実を知らない。例え知っても、彼は優しいからどちらにもフォローを入れるでしょう。悟天くんの優しさは、長所であり短所でもありますから」
「全くその通りだよ。悟天は昔から何も変わってない」
「ナマエちゃーん!!」
満面な笑みで手を振りながらこちらに走ってくる悟天くんは、少し汗ばんでいた。私を探し、あちらこちら走ったと彼は言う。
「トランクスくんも一緒だったんだね」
「偶然に会った」
「そっか。じゃあナマエちゃん、一緒に帰ろ」
悟天くんの笑顔の後ろで、言うなら今だ。と、トランクスさんが目で訴えてきた。
確かに、これ以上だらだらと引きずるのはよくない。
深く深呼吸をして、少し明るく、笑ってみせた。
「あの悟天くん」
「ん?どうしたの?」
「……告白しといて、おかしな話しだけど……ごめんなさい!悟天くんとは、恋人関係よりも友達関係として付き合いたいです!!」
みるみるうちに、悟天くんから笑顔が消えていく。
声も多少、震えていた。
「なんで……なんでナマエちゃんまで…」
「ごめんなさい」
「嫌だ…絶対嫌だ!ナマエちゃんだけは失いたくない、ナマエちゃんの事好きなのに!!」
「……ごめんなさい」
好きと言われて、心がぐらついた。
今すぐに私も好きですと、言いたかった。
イジメはまたその時考えればいい、だから……。
けどそれじゃ、イジメで苦しんだ友達に申し訳ない。
それに、これで悟天くんとの関係が全て無くなるんじゃないし、気持ちを我慢すれば丸く収まる話しなんだ。
「ありがとう。凄く幸せでした。友達に戻っても、またよろしくね」
女は器用。いかなる状況でも、笑顔をつくることができる。
「待ってよ……まだ話しは終わってないよナマエちゃん!」
「悟天!………今は落ち着け」
「離してよトランクスくん!!」
「お前がちゃんと周りのことを片付けたら、また彼女に想いを伝えろ。焦らずとも、時間はたっぷりある」
2人に背を向けて歩き出す。
そして私はすぐさま仮面を外し、静かに涙を流した。
好きなくせに馬鹿みたい
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title:確かに恋だった