年頃の女の子

【ナマエは年頃の女の子なんだから―……】



そんな言葉をよく言われるようになった。確か、高校に入ってから何かと私の生活が変わったような気がするけど、それもその“年頃”というやつが関わっているからなのだろうか。

とまぁそんな疑問はさて置き。金曜日の授業も無事に終わり私は学校を出たのだが、昼間あんなにぽかぽかといい天気だったのが嘘みたいに降り出した雨。私は雨宿りもかねて玄関でぼーっとしていた。


「兄さんが言ったとおりだ」


後にザーッと降り出す空を見上げ、今朝の事を思い出す。そういや、ラディッツ兄さんが弟のカカロットに傘を持たせていたな。洗濯は早めに片付けて、買い物も早い内に行こうとか、相変わらず家庭的だなと思ってたら兄さんが用意してくれた折りたたみ傘をテーブルの上に置き忘れたんだ。こりゃ当分止みそうにないと溜め息を吐いていれば、後ろから私を呼ぶ声がしたので振り返ったが

「邪魔だ退け」


それが人に頼む態度かよと言いたくなるが、相手が悪かった。まさかこんなとこで出くわすとはな…。

「王子はいいですね。急に雨が降っても気にならないんだから」

「雨?あぁ、そういやナッパのやつが言っていたな」


こいつの名はベジータ。大学の先輩です。先輩は坊ちゃん育ちの野郎で、私みたいな一般人を見下すのが当たり前なんです。それなのに何故か人気者。まぁそのルックスといい頭の良さといい、ついたあだ名が王子だし。呼ぶ事に恥じらいがありますが、ぶっちゃけ呼ばれる方が恥ずかしいと思うので私は嫌がらせとしてベジータ先輩を王子と呼んでいます。因みにナッパって人は先輩の付き人らしいです。

「リムジン……間近で見るのは初めてだ…」


校門で止まっている長くてかっこいいリムジンを見て無意識に出た感想。そしたら王子は皮肉な言い方で「乗せてやろうか」と言ってきた。これは完全に嫌みですねわかります。
「私、チキン野郎ですから王子のファンと戦うのが怖いんです。リムジンを乗せてくれるのは、是非王子が居ない時でお願いします。んじゃ駅まで強行突破するのでこの辺で!」

私だってバカじゃないから気づいてましたよ。女子の殺気溢れた視線を。だから逃げるように駅まで走り切った。

王子が「可愛げの無い野郎だぜ」と言った言葉は、勿論私の耳には届いていない。

がたんごとんと電車の揺れに抵抗しながら吊革に捕まってはいるが、丁度帰宅ラッシュに雨がプラスされているので満員電車が半端ない。
こういった時は痴漢が多いから気をつけなさいとブルマさんに言われ「私の身体を触る人なんて居るわけがない」と笑いながら答えたら呆れられたっけ。


スケベジジイも居るんだから気をつけなさい。……か



ははっ。ブルマさんの言ったとおりだよ。


「あっ、あのっ」

「こりゃたまらんのぅ!」


電車での痴漢は、てっきりお尻を触られるもんだとばかり想像してました。でも、密着している事をいいように、顔を私の胸に埋めるこのおじいさんは……

「ぱふぱふじゃ」

「……っん…」


いくら痴漢だとは言え、自分以外の人間に胸を触られた事などないから初めての感覚に戸惑いが隠せなかった。でも今はこの状況から抜け出したい。後一駅だから我慢する事も出来るが、それを耐える自信もあまりない。そして時間が経つにつれて頭が働かなくなり、身体が小刻みに震えだした。結局、駅に着くまで耐えるかと諦めかけたのだが、その時、感じていた変な感触が消えた。恐る恐る閉じていた目を開いてみれば、サングラスが粉々になり伸びているおじいさんが私にもたれ掛かっている。何が起きたのかと思えば、スーツを着た金髪美人のお姉さんが私に話しかけてきた。

「すぐに手を上げてよかったのにさ。あんた年頃なんだろう?」


その言葉でハッと気づく。そうか、この人が助けてくれたのか。それと同時に、電車は最寄り駅に着いたらしくドアが開いた。


「ありがとうございました!」

ぺこりと頭を下げお礼をし電車を下りる。振り返りお姉さんに手を振れば

「じゃあね」

そう言って微笑んでくれた。しかもそれが、女の私ですらドキッとしてしまうほどの優しい笑顔を見せたのだった。

改札口を出てもう一度空を見上げた。雨は、それほど酷くない。バスに乗るのもありだが、傘が無い中あの長蛇の列に並ぶのは無鉄砲すぎるだろう。
私は鞄を探り、2つのチャリキーを取り出した。以前駐輪場に置いてた自転車が、ツーロックを心がけましょう的な紙が着いていて、それが気にくわなかった為鍵をするようになったのだ。

「どこだったっけ」

駐輪場に置かれた自転車たち。雨だから、乗って帰る人が少ないらしいが私の自転車は何処!?あっちかな?こっちかな?と心当たりのある場所を行ったり来たりしてれば、聞き慣れた声が私の名前を呼んだ。

「ナマエだろ?久しぶりだな」

「………ターレス?!久しぶり!!」


声からして、てっきりカカロットか父ちゃんかと思った。見た目だって似てるから…。むしろ双子ですと言ってもいいほどの容姿なのに、赤の他人てのが驚きだよ。

「えっと……中学卒業以来…だっけ?」

「お前は同窓会に顔を出さねえからな」


ははは。と笑い返せば苦笑いされた。ふぅん、でもターレスか。懐かしいねえ。

「それよりナマエ、自転車探してんのか?」

「えっ?知らぬ間に超能力とか身につけたの?」

バカにしたような言い方ではなく、ガチで聞いてしまった。そしたら、様子からして大体分かるって言われちゃったよ。

「どんなのだ?探してやるよ」

「本当!?助かります!」

普通のママチャリに『亀』って文字が入った山吹色のステッカーが貼ってはると特徴を伝えれば、ものの数分で私の自転車が見つかった。やっぱ頼りになるなターレスは。


「今度からちゃんと場所を覚えとけよ」

「いえっさー!」


自転車を見つけ出してくれたターレスに感謝を込めて敬礼。……したら、なんか顔を赤くして目を逸らされてしまった。と思ったら、何やらごそごそとバッグからマフラータオルを取り出し、私の首にかけたのだ。どうしたの?と首を傾げれば、思いもしない言葉に驚きが隠せなかった。


「自分が女って自覚持て。何かあってからじゃ遅いんだよ」

「ターレス?」

「そのタオルはやるから……じゃあな」

すぐさま自分の自転車に跨ぎ、立ち漕ぎで行ってしまったターレスの背中を見送ってから、彼の言った言葉に今更ながら気が付いた。


「あらら…」

そりゃ雨の中歩いてれば濡れるのは当たり前。べったりくっ付いたシャツは、肌や下着までも平気に透かしていて、今日に限って勝負下着みたいなピンクのレース付きブラを着けている自分に悔やんだ。まさかこんなこっぱずかしい下着を、ベッドの上ではなくこんな所で御披露目しちゃうとは…。ターレスの言いたいこと、何となく理解できましたよ。
ため息を1つ吐き、私もサドルに跨り家へと向かう。タオルから香るターレスの匂いにドキドキしていたなんて、そんなの認めないんだから。

「ただいまー」


無事帰宅。濡れたスカートをファブ○ーズでシュッシュッしてハンガーに掛けた。そんでもって、鞄からお弁当箱を取り出し夕飯の支度をしている兄さんの後ろでお弁当箱を片づけていれば

「びしょ濡れじゃねーか」

とまぁ普通なリアクションをされたのでね、今晩のメニューを聞いてみた

「今日のご飯なにー?」

「すき焼き。オヤジは飲みに行くんだとよ。それより、さっさと風呂に入れ」


すき焼きばんざーい!と喜びつつ、兄さんに抱きついた。あぁ、安心する。この抱き心地が丁度良い。濡れたまま抱きつくなとか兄さんは言うけど、そんなの右耳に入って左耳から出てきたもん。だから知らなーい。


「はー気持ちよかったー」

「ほらナマエ、カカロットも上がったんだし入れよ」

「はーい」




椅子に置いていたジャージを持ち洗面所に向かおうとしたら、暑い暑いと言いながら腰に手を当てごくごくとお茶を飲んでいる風呂上がりのカカロットと目があった。


腰に捲かれた1枚のタオルと、首に掛けられたタオル。
中3の男子って、こんなにも男らしい身体してたっけ?
あっ、ターレスはそうだった気がする!


「姉ちゃんびしゃびしゃじゃねえか!」

「雨の中走ってたからさ」

「ふぅん」

以前はあんなにチビだったのに、いつの間にか抜かされたその身長で私を下から上へと見てきて、さっきまでとは違う顔つきでマフラータオルの匂いを嗅いだ。

「嫌なヤツの臭いがする」

「嫌なヤツ?」

「姉ちゃん……オラ、ターレスは嫌いだ」

この子は野生の勘やら何やら、たったこれだけの微かな匂いで、しかもあまり面識のないターレスの名前をズバリ当てるとは。恐るべし。

「たまたま会って、それにね、ターレスに助けてもらったの。カカロットが心配するような事は何もなかったから気にしないで」

「ならいいけど」


小学生時代、気の合うターレスとばかり遊んでいたためにカカロットと遊ぶ時間が減ってしまい、当時小さかったカカロットからすれば、私をターレスに奪われていたのだと思っているらしく今も根に持っているらしい。
けどそれって、カカロットに愛されてるって事だよね。お姉ちゃんは嬉しいぞ。

「今帰ったぞー」

家中にそんな馬鹿でかい声が響き渡った深夜を過ぎたこの時間。父ちゃんが、同僚のトーマさんに肩を借りながら帰宅した。

「トーマさんこんばんは!毎度毎度すみません」

「はははっ。見ない間に、また一段と大人っぽくなったなナマエちゃん」

「誉めても何も出ませんよ」

トーマさんから兄さんに父ちゃんが渡るが、どうやら酔っているのはトーマさんも同じだったらしい。でもほろ酔い?ってとこだろうか。


「じゃあオレはこれで。カカロットみたいに、ちゃんとそのオヤジを寝かしつけてやってくれ。じゃあな」


お世話になったトーマさんに頭を下げてから、兄さんに支えられてる父ちゃんの顔を覗き込んだ。顔は赤く、でもどこか心地良さそう。


「ナマエはほんと、ますますあいつに似てきたな」

私を見て、父ちゃんがそう言った。あいつとは、お母さんの事。今は亡き、父ちゃんのお嫁さん。
お母さんが死んで、誰よりも辛かった父ちゃんが、わんわんと泣いた私と兄さんを優しく抱きしめてくれた。
それに強がってるようにも見えたその姿で、父ちゃんは涙を一滴も流してないとみんなが言っていたけど、薄暗い部屋で、声を殺して涙を流していたのを、私は知っている。それだけ、お母さんを愛していたんだ。


「父ちゃん?」

「もう二度と、家族は手放さねえ」

そっと頬に手を添えられたと思ったら、間近に切なそうな顔をした父ちゃんがいた。
お酒の臭いが、私にも移る。


「何してんだよオヤジ!!ナマエは嫁入り前のお年頃なんだぞ!んな事したらナマエの方から避けられるって!!」

「んだよラディッツ。嫉妬か?」

「この世のどこにオヤジにキスして欲しいと思ういい歳した息子が居るんだよ!」

「喜べラディッツ。今まで隠していたが、お前のファーストキスはオレが奪った!」

「一生知りたくなかったわそんな情報!つかその親指へし折るぞ!」


わーきゃー言い合う親子を見るが、おかしな事に、ここにいる3人全員が顔が紅い事に気づいた。
なんだかそれに気づいた私は余計恥ずかしくなって、おやすみと2人にそう告げるとベッドの中に入り深い眠りにつく。
今日1日色んな事がありすぎたから、多少は“お年頃”という意味を実感出来たのかもしれない。




「ラディッツ、ナマエがオレの事を避けるんだ。まさか遅い思春期か?反抗期か?お年頃ってやつか?!」

「そういや姉ちゃんから、父ちゃんと酒の混じった変な臭いがしてたぞ」

「オヤジ、何も覚えてないんじゃ、当分酒は控えるんだな」

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