友達以上恋人未満
「5分前だけど……待った?」
「このベジータ様を3時間待たせるとはどういう了見だ」
「どう考えてもあんたが悪い」
洒落た感じに時計台で待ち合わせをした午前11時。
休日だからか、ショッピングモールでは家族連れや学生、カップルが目立つ。
端から見れば私たちもそういう風に見えるのだろうか……。
そう考え、相変わらず眉間に皺を寄せ、しかめっ面の表情をするベジータさんを見た。
しかし私はすぐに、もこもこと浮かび上がる雲を振り払うように激しく首を振る。
何度想像してもそれは絶対にない。
それに、ハイヒールの力以前に、私の方が背が高いという現実……。
年上を見下ろすのもなんか気分が悪い。と本人に言ったら、きっと殺されるだろう。
「で、今日は何のために呼び出されたんだ。オレは忙しいのだからな」
「適当に時間潰して解散です。鐘が鳴る頃には終わりますから、我慢してください」
今回はあくまでも、デートをしているという見せかけ。
多分この場所にウチが雇う人間が、私たちを見張っているに違いない。
そうなるとほんと、ベジータさんには迷惑を掛けっぱなしだなぁ。
完全に巻き込まれてるよね。
当の本人は気づいているかは知らないけど。
それでも申し訳ない気持ちは強くて、心の中で呟いた。
「それ、まだ持っていたのか」
「へっ、あぁ、ペンダントですか?宝物ですから」
「例えそれが、社交辞令だったとしてもか?」
「……………宝物です」
「このオレがわざわざ選んでやったものだ。気に入って当然だろうな。だが、まだ持っていたことは誉めてやろう」
そっぽを向いて表情を隠しているみたいだけど、ほんのり頬が紅いのがバレバレ。
いくら家柄の付き合いだからといっても、嫌いな人と上手くやっていけるほどベジータさんは器用じゃない。
それでもこうしていられるのは、お互いが心を開いているからだと、少なくとも私はそう思った。
「寄りたいお店あったら言ってくださいね。……ベジータさん?」
何度名前を呼んでも反応しない。
仕方なく同じ方向を見てみると、それはそれは見るからに高級感溢れるジュエリーショップがあった。
まさに釘付けで、中に入ろうかとベジータさんに聞いてみたら全力で拒否されるという……。
「どうしても貴様が入りたいと言うのなら、付き合ってやってもいいがな」
なぜそうなる!
とはもちろん言えず、こういう時は私が折れるに限る。
それに嫌々と言っておきながら、自動ドアが開くと微かに早歩きになってるし。
ベジータさんも宝石に興味あるんだなーと思って、真剣に悩む横顔に少し笑ってしまった。
「青系か赤系で迷っているんですか?」
「いっ、色なんて関係あるか!似合うものを探しているだけだ!」
「……もしかすると私、ベジータさんの性格がわかってきました」
急に出てくるベジータさんのツンデレモードは、ある意味乙女と同じであろう。
これは女の勘だが、さてはベジータさん……
「なら早く、私との話は済ませなきゃだめですね」
「貴様の力など必要ない」
「いやいや、私が動かなきゃだめなんですよ」
他人様の恋……しかもそれがベジータさんだからなおさら応援したいのに、私が邪魔になるのだけは勘弁したい。
私はブルートパーズに触れ、今もまだ悩んでいるベジータさんを見た。
真剣に宝石を見つめる頭の中では何を考えているのか。
一言告げ、店を出ると私は大きく息を吸った。
さっきまでの雰囲気は私なんかに不釣り合い。
ここのショッピングモールみたいな、賑やかな空気の方が心地良いのかも。
「あれは…」
少し先を歩く人物は、心当たりのある人だった。
目を擦り、人違いではないかと確認するが間違いではないらしい。
何よりもあの特徴的なくせっ毛なのだから間違うことはないか。
「悟空くんも来るんだ」
あまり買い物というイメージはないが、彼がここに居るというのが何よりの証拠になる。
1人なのかなと疑問を持ち、呼びかけてみようと思った直後、大荷物を抱えた人が悟空くんに近寄った。
そして一瞬にして、その大荷物は悟空くんに移動。バランスをとるだけでも一苦労といったところだろうか。見てるこっちがヒヤヒヤする。
「だれなんだろ?」
遠目からわかることは、長髪の人で背が高い。そして悟空くんをコキ使える人ということ。
でもプライベートを追究するのはよくないと感じたころ、ちょうどドアが開き、満足そうな顔をしてベジータさんが出てきた。
購入したのかと訊ねたが、買ってはないらしい。
へんなの。
「行くぞナマエ、今のオレは気分が良い」
「にょろにょろしたものを差し出しても怒りませんか?」
「………この世界を破壊する」
「冗談デスヨ」
可愛いジョークも通じないらしく、久々にベジータさんの怖い顔を見ました。
本気で世界がぶっ壊れそうな……でも、たかがにょろにょろしたものですよ。されどにょろにょろしたものかもしれないけど。
「気になる店を見つけてな、とにかくメシだ」
「へいへい」
自己中な王子様について行くのは、悟空くんと真逆の方向。
そしてその日、もう一度悟空くんを見かけることはなかった。
「味わうよりも、ただ胃袋に入れてるって感じですよね」
幼き頃から教わったテーブルマナーは今も染み着いているが、私より地位の高い王子様は、胃袋に詰めてはお皿を積み上げている。
だけどお店側からしたら、たくさん食べてくれるお客様は嬉しいよね。
(そんなベジータさんが、ちょっぴり羨ましく思えた)