高価なペンダント
「どれも私のタイプだわぁ」
嫌な予感は的中しました。
しかし今更帰るとは言えず、いくら中身が乙女でも、男のブルー1人では店に入れない。
つまり、私をデートに誘ったのはこれが目的だったみたいです。
「憧れだったのよねぇ、ホストクラブって」
店の外にずらりと飾られたホストたちの写真に、目移りするもののハートを飛ばしまくるブルー。
私も見てみるが、中央寄りの右下、ある意味目立ちにくい場所に、とある人物の写真が目に入り立ち尽くす。
それは見覚えのある顔だった。
「ナマエってこういうのが趣味なわけ?」
「それは意外だったな。オレもイメチェンしてみるか」
写真の男はサラサラストレート。振り返りそこに立つ男は特徴的なくせっ毛。
やはり出勤していたらしく、私の顔は引きつり、逆にブルーは頬が緩んだ。
「お勤めご苦労様です。早めのアフターですか?行ってらっしゃいませ」
「ずいぶんと素っ気ねえな。もしかしてやきもちか?」
「するわけないですよ」
ターレスさんがエスコートする女性は、それはそれは美しく、可憐で、前にどこかで…
「ブルー、早く中入ろ!」
「えっ、でもっ……」
「いいから!」
見間違いなら最高に嬉しい。
せめてあの人が私に気づいてなければいいが、それはちょっと難しい。ばっちり目が合っちゃったもんなぁ。
「あの方は…」
「知り合いか、ランチ?」
「いえ、そんなはずありませんもん。行きましょう、ターレスさん」
* * * * *
「まさかこんなにも早い再開だとはな」
「お酒を呑みに来ただけです」
多くの女性に囲まれたカカロットって人から少し離れた場所で、私はちびちびカクテルを口にする。
知らぬ間にブルーはあの人の虜で、差別なく微笑みかけるカカロットって人は、確かにナンバー1だった。
「なにやってんだろ、私」
ホストクラブでお金を使っている場合じゃないのに、すでに二度も来店している。
本当はこんな事してる暇はないのにな。
おしゃれのために着けてきた、胸元のブルートパーズにそっと触れてため息を吐く。
するといつの間にか、カカロットって人は私の真横に座っているから大パニックだ。
「へっ…えっ? いつの間に…」
「暗い顔なんかすんなって」
「あー、じゃあ帰りますね」
「なんでそうなんだよ!」
「私、お金ないんで」
指名もしてないのに、変に絡まれてお金を請求されたら私は間違いなく気絶する。
シッシッとしたい…気持ちを抑え、私は無理に笑ってみせた。しかしそれは通用せず、何故かこの人は本性を見せてきたのだ。
笑顔という仮面の奥にある本当の顔。
ナンバー1の理由がはっきりわかる、衝撃の事実。
「金がない…ね。だったら長居するのはおかしいな」
「あくまでも友人の付き添いです」
「たかが酒一杯、馬鹿げた金だぜ」
「一杯なら問題ありません」
何が言いたいのかわからないが、それでも私は質問に答えていく。どうやら金を使わない客だから、邪魔者として見ているのだろう。
「なら身内に金持ちが居るのか、金持ちの男が居るのか……それ、男からのもらいもんだろ」
彼の視線は、私の胸元で輝くブルートパーズに向けられた。
確かにこれは高価であり、男性からいただいた物だ。けれどこれをお金に替えようなんて1ミクロも考えていない。
「ブルートパーズ。それは、持ち主にとって必要なものと出会わせてくれるなど、サポート的力を発揮する。残念ながら恋愛感情はないらしいぜ、その男」
「ただの友達なんだからそれで正解じゃない。それよりあなたのその眼……私は好きになれそうにないわ」
私を人間として見ない……ゴミ以下のものを見る目で向けられた瞳。
慣れてはいたが、やはり好きになれない。
「あなたがナンバー1の理由って、他の誰よりも、客の事を金としか見てないからでしょ」
「だがその客も、オレを物としか見ていない。金を与えれば言いなりの便利な道具」
「虚しいと思わないの?」
「さぁな。もともとこの世界には人間なんて存在しねえんだよ」
「お金で愛は買える……か」
「高価な嘘だけどな」
心なしか、彼の言葉に私は頷いていた。
笑顔を振り撒くより、本性はどうであれ、正直なところが私は好きだ。
でもカカロットって人自体は好きになれないだろう。
「ブルー、そろそろ帰るよ」
「えー、やっと盛り上がってきたところじゃないのぉ」
「その様子じゃ二日酔い決定よ。早く休んだ方がいいわ」
「もう、ナマエは真面目なんだから!」
どうせ明日は休みなんだからさー、と駄々をこねるブルーを説得し立たせる。
見えなくなるまでカカロットって人に手を振るブルーと、予想はしていたがそれなりの金額に肩を落とす私。
ホストクラブDORAGON
二度と来るもんか。
「ただいまー」
「おお、お帰りなさいませナマエお嬢様。お待ちしていましたぞ」
「……桃じい!?」
(楽しい庶民生活は、一旦お休みになるそうです)