黒髪と金髪

「調子悪そうだな。もしかして二日酔いか?」

「えぇ?!」


昨日のドンペリ(たかが一杯)が効いたのか、軽くではあるが体の調子がいまいちだった。
やはり金のないやつには、いつもの缶ビールとか酎ハイで十分だということがよくわかる。
という問題ではなく、私の目の前に広がる学食の全メニューを、まるでマジックをしているかのように胃袋へ流し込む彼……孫悟空くんがそう言ってきた。
普段は何を考えているかわからない天真爛漫な人なのに、洞察力とか運動能力が優れている超人。

週に二度、この学食、このテーブルで出会う。


「何でわかんのさ」

「オラ、嗅覚にも自信あんだ」

「犬かよ!!」


つまり酒臭いと言いたいらしい。
困ったな、とすると午前の授業、私の両隣前後に人がいなかったのはそのせいか?
あぁ、目に汗が入っちまったぜ。


「そういや、悟空くんはお酒呑むの?」

「まぁ、一応な」

「意外…でもなんか、一番最初に潰れて寝ちゃい……そう…」

ラーメンのスープをずずっと喉に通す姿が、一瞬昨夜のカカロットって人と重なった。
いやいや、悟空くんがホストとか考えられない。そもそも瞳や髪の色が違うし、第一女性を落とすテクなんて絶対に知らないはず。
けどターレスさんとは少し、面影があるかな。

ターレスさん……ターレス……さん…?

「あ、やばっ」


もくもくと頭の中に現れたターレスさんをかき消し、私は昨夜の事を悟空くんに相談した。
ホストクラブに行った事ではなく、名刺を悲惨な状態にしてしまった事だ。


「別に、連絡をとる必要がなければいいんじゃねえのか?」

「それもそっか」


相手はホストだしね、わざわざお金を払ってまで会いに行くのもおかしな話である。
うんうんと1人で頷き、最終的には全てなかった事にしようとする始末。


「あ、もうこんな時間!じゃ、お先に失礼するね」

「っと、ほら、オラが片づけてやっからナマエは教室行けって」

大量の食器プラス私の食器を軽々と持つ悟空くんは、笑顔でそう言ってくれるが何だか申し訳ない。けれど「号館違うんだろ?」と言われたから、素直にお願いした。


「今度奢るから、じゃあまたね!」


そうは言ったものの、もう一度あの食器の量を見て少し後悔をする。
もしも一食分奢れと言われたら……屈辱な姿の私を一瞬想像してしまい、せめてワンコインでと後押しする事に決めた。










「だから来週末に付き合ってよぉ。たまにはわたしとデートしてくれてもいいでしょ」

「とは言ってもねぇ、今月ピンチなのよ」

「大丈夫。来週はもう来月だから」

「なんですって!?」


スケジュール帳と睨めっこする最中、ずっと私の腕に絡みつく良いガタイをしたオカマ…ではなく乙女のブルーがそう言ってきた。因みに今、授業中です。

「わたし、寂しいと死んじゃうんだから」

「いやいや、むしろあなたは肉食ですから。イケメンをペロリですから」

「ふふっ、よくわかってるじゃない。でもナマエ、これは一生のお願いなの」


うるうると輝かす瞳はまさに乙女だった。さすがにそれは反則。断ることができない。


「来週末だよね?」

「ありがとナマエ、愛してるわー!」

抱きつかれ、そのまま右頬にキスをされ。ブルーは基本女嫌いなのに、なぜ私だけに懐くのかは謎だった。
まぁ別に嫌いではないし、でもその金髪が、あのカカロットって人を脳裏にちらつかせ気になってしまう。
消そうと思えば思うほど、消えない厄介な存在だ。


とりあえず、一枚捲ったスケジュール帳に“ブルーとデート”と記入する。

「場所は行ってからのお楽しみよ」

パチリとウインクをした拍子に現れたハートを華麗避けるが、何故か胸騒ぎがした。



(デジャヴってやつなのだろうか?)
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