つかの間の休息

忘れようと思えば思うほど忘れられないカカロットとの口付け。

こうやって私が悩む行為こそがあいつの企みだとすると、まんまと罠に引っ掛かる自分が情けない。

とは言え脳の片隅にこびり付いた記憶は簡単に消すことができないらしく、今日も今日とて夕方の活気ある商店街をとぼとぼと歩く私に、どこかで聞いた声で名前を呼ばれた。

「ナマエさん! ナマエさーん!

辺りを見渡すがそれらしき人物は見つからず、振り向こうとした時に力強く、けれども優しく背後から抱きしめられたのだ。

咄嗟に大きな声が出かけたのだが、それは冷たく、そして甘い何かによって遮られた。


「ん、んんー!!」

「まさかこんな所でナマエさんに会えるなんてラッキーだよ」

ようやく全てが解放された時、改めて私はベジットくんと向き合うことができた。のだが、ソーダ味のアイスキャンディーを舐めて「ナマエさんの味がする」と発した彼は今、私の太ももの上で気絶中だった。


「こいつはそこら辺に捨てておくので気にせず行っていいですよ」

「この後はもう予定ないし、起きるまで待ってるよ。ベジットくんも悪気があった訳じゃないしね」

時代を感じさせられる駄菓子屋さんのベンチにて、伸びているベジットくんを扇ぐ私の隣には、呆れて溜息ばかり吐くゴジータくん。

どうやらこの見た目不良コンビは、テスト最終日である今日の帰り道に、この行きつけの駄菓子屋さんで遊んでいたらしい。

高校生のイメージって、カラオケやらボーリングやら、ファミレスやゲームセンターでパーっと騒ぐイメージなのだが、女の子も誘わず駄菓子屋さんチョイスが何だが微笑ましかった。


「女の子とは遊ばないの? モテそうなのに」

「ならナマエさんはどうだったのさ。そっちもモテるでしょ」

ゴジータくんは上目遣いでほほ笑むが、形の良い唇は弧を描き、少し挑発するかの様な低音ボイス。現役高校生とは思えない色っぽさにとろけてしまいそうな私は、ベジットくんへの風を熱を持ってしまった自分の頬へ送った。

モテることに否定はせず、尚且つ私が高校時代彼氏がいなかったことを自信気に言い切るのが素直に凄いしご名答ですとしか言えない。


「ゴジータくんの意地悪」

「おあいこだろ。オレさ、人付き合いが昔から苦手なんだよね。それに比べてベジットは人懐っこいというかなんというかさ」

「確かにベジットくんは無邪気さがあるよね。対するゴジータくんは大人過ぎるかな。まだ高校生なんだし……あぁそうか、ゴジータくんがゴジータくんでいられるのはベジットくんのおかげってことか」


この不良コンビのことはまだよくわからないけれど、違うタイプだからこそ相性が良いのかもしれない。

目を覚ます気配のないベジットくんの髪を耳に掛け、優しく頭を撫でてあげると気持ちよさそうに微笑んだ。

所が右から突き刺さる視線を感じ取ると、ムッとした表情でゴジータくんが睨んでいたから、私の右肩を二度叩きどうぞと肩を譲ってみる。
ゴジータくんのことだから別にいいって言うのかと思ったけれど、よほどテスト週間に疲れが溜まっていたのだろう。

ありがとうと感謝を言われると、ゴジータくんの頭の重みが肩に寄り掛かり、数分後には規則正しい寝息が私の耳を擽るのだった。


(年下の彼らには心が許せるみたいです)
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