動き出す
「夢……かな」
自分の姿を鏡に映し、全身が見えるようにその場で回ったりとかもした。
特に異常はなし。
時刻は昼過ぎ。
朝方からの記憶がほとんどなかった。
否、ないと言うより、確かではないのだ。
どこから夢で、どこから現実なのかが曖昧なのである。
バイトへ行ったのに、気づいた時には自宅のベッドの中。
恐る恐る確認した玄関の鍵は、閉まっていた。
まさにミステリーである。
「あ、桃じいから電話」
ディスプレイの表示に少し驚き、携帯を耳に寄せた。
それは寝ぼけた脳みそが目を覚ますような、衝撃的な連絡だったのだ。
* * * * *
「ははっ。ベジータ、久しぶりじゃねえか」
「オレは今忙しいんだ。邪魔をするなカカロット」
「ったく、今はカカロットじゃなくて悟空だってこと忘れんなよ」
ただでさえイライラしているのに、カカロット(黒髪)の登場で爆発寸前のベジータ。
現在ベジータ家は、とある組織に買収されそうな危機に陥っていた。
ベジータ家の主な収入源は、土地を安く買い取り、高値で売ることである。
フリーザ軍と呼ばれる裏社会の組織と契約を結んでいるのだが、今回、そのフリーザ軍に買収されかけていたのだ。
人数はフリーザ軍の方が圧倒的に多く、皆荒くれ者。
少人数のサイヤ人(ベジータ家で働く者たちの名)だけではどうこうできる問題ではなかった。
けれど、ベジータ家を含むサイヤ人たちは、フリーザ軍を良く思っていないのだ。
確かに最初は良きビジネスパートナーとして見ていたが、日に日に本性を表し、そして今回の裏切り行為。
なぜこのタイミングなのか。
裏社会が勢力を握るとき、明るい未来など訪れない。
* * * * *
「あれ悟空くん、ベジータさんと知り合い?」
「そういうナマエこそ、こんな所に何の用だ?」
桃じいからもらった電話の内容、それはベジータ家が買収されかけているとのことだった。
私は一応婚約者としてベジータさんの様子を見に来たのだが、意外な先客に戸惑う。
「ベジータさんとは腐れ縁みたいなやつよ」
「へぇ。オラもそんな感じだ」
「やっぱり意外な組み合わせ」
両者の顔を見比べても、納得するのには時間がかかりそうだ。
ムッツリ顔のベジータさんと、始終溢れる笑顔の悟空くん。
摩訶不思議である。
「ベジータさん、今回の件ですが」
「部外者は首を突っ込むな。いつかフリーザの野郎をぶっ潰す予定だったが、それが早まっただけだ。それに、お前は自分のことを心配しろ」
「相変わらず不器用なんですから」
裏社会の人間に関わるのは厄介な話。
だから素っ気ないのは、ベジータさんなりの優しさだってことぐらいわかってる。
私にできることなんてないかもしれないけど、少しぐらいベジータさんの役に立ちたいんだ。
「とりあえず顔を見れてよかったよ。この後予定あるし、とにかく無理だけはしないでくださいね」
次の目的地を目指し方向転換をすると、相変わらず笑顔の悟空くんとすれ違った。
(一瞬鼻を突いたのは、記憶のあるお酒でした)