小さなお届け物
覚悟はしていたが、深夜のアルバイトは間違いなく生活リズムが崩れる。
それどころか、体が壊れないかが重要であって。
「んちゃ!」
「クピポ!」
「アラレちゃんにガッちゃん! んちゃ!!」
右手を上げて、独特の挨拶を交わす。
彼女は(自称)天才ハカセ、則巻千兵衛さんの妹。という設定らしく。
ここからかなり遠い独立した田舎町、ペンギン村の住人である。
そしてこの女の子、アラレちゃんは、どこへでも宅配してくれる優秀かつ大活躍中のお方なのだ。
目的地に向かい、ただただ真っ直ぐ走る。
そこに車があろうと、高層ビルがあろうと、山があっても、ひたすら真っ直ぐ走る。
それがアラレちゃんなのだ。
「ハカセがね、これナマエちんに渡してだってさ」
「ホイポイカプセル……何だろう」
「ピンチの時に使ってくれって、おもろい顔して言ってた」
千兵衛さんが作る物は、発明品それぞれに意思があるのが最大の特徴だ。
最初は驚いたけど、アラレちゃんだって、実はロボット。
でもアラレちゃんにはアラレちゃんの意思がある。それに、感情だってある。
そんな千兵衛さんと、天才的発明品を生み出すカプセルコーポレーションとのコラボレーションを間近で見ると、何だか感動ものであった。
「ハカセに大事に使わせていただきます。って伝えてね」
「ばいちゃ!」
「プピー!」
両手を広げ、キーンと豪快に走るアラレちゃんと、そのスピードに劣らず空を飛ぶガッちゃん。
砂煙と共に、色々と宙に舞うものたち。それと、人々の悲鳴。
苦笑いするしかない。
「ピンチの時、か」
ホイポイカプセルの中には一体何が入っているのか少し気になるが、千兵衛さんを信じ机の奥底へしまう。
それからもうひとつ。
外の様子も気になるので散歩がてら歩くことにした。
案の定外はパトカー等で街は大混乱。
野次馬のように覗いてみれば、肩を叩かれ名前を呼ばれた。
立っていたのは女性。
蘇る懐かしい記憶にハッとする。
「きれいになっちゃって、気づかなかったよ」
「タ…タイツさん?!」
私が幼いときにしか会えず、しかもその頃は髪が長かったため、今目の前に立つショートカットのお姉さんがタイツさんだと気づくには間が空いた。
タイツさんはカプセルコーポレーションのご令嬢。
本来の跡取りは長女であるタイツさんだが、歳の離れた妹さん、ブルマさんが引き継ぐという話がほぼ確定らしい。
何しろ、カプセルコーポレーションは機械がメインの会社。
機械にはあまり向いていないらしく、それに今は人気作家さんだから納得できる。
「でもどうしてこの街に?ネタを求めて歩き回っていると聞きましたが」
「たまには家に顔を出そうと思ってね。そしたらこの事件と遭遇してさ。不謹慎だけど、SFに使えそうだと思って」
「なるほど」
「わたしは銀河の平和を守る選ばれし超エリート……銀河パトロール隊員ジャコだ!」
両手をピンと伸ばし、片足も伸ばす謎のポーズをする人を見てつい口が開いてしまった。
銀河パトロール、話には聞いていたが実在する組織とはまったく思っていなかった。
だが……
「原因わかったの?」
「超エリートに不可能はない」
その溢れ出る自信はどこから湧いてくるのか。
そもそも人間と言えるのか。
タイツさんと親しげに会話をする、説明しづらいその人物に頭が混乱していた。
「あぁ、紹介が遅れたね。ジャコは宇宙人なんだ」
「なんとなく、想像はできていました」
小柄だけど、力はある。
彼もまた、自称エリートな気がしてきて笑うしかなかった。
でも、そのパワーに偽りはなさそうだ。
「何かあったら相談してね。ジャコは見かけによらず、それなりに頼れるからさ」
「それなりは余計だがな」
このコンビに、次回会える日はいつになるのやら。
とりあえず、タイツさんの本を買うのが一番早いかもしれない。
それにしても、1日が始まったばかりだと言うのに懐かしい人々に次々と再開している。
これは良い捉え方をするべきか、はたまた何か悪いことが起きるのか。
どちらにせよ、生活をしていれば自然とわかることだ。
一旦家に戻り、荷物を持って学校へと向かう。
運良く見かけた悟空くんに駆け寄り、肩を並べて登校するのだった。
(相変わらず笑顔が眩しい人で、太陽に勝っているようにも見えた)