次男坊の女嫌い
「兄ちゃん、これ今回の」
「ありがてえけど、その姿で渡されると変な感じなんだよな」
「しょうがねえだろぉ、姿変えんのに力いるんだよ」
悟空から受け取った茶封筒には、1ヶ月分の給料とは思えない札束が入っていた。
すでに今月分の食事代は引いてあると言うが、それでも多過ぎると感じてしまう。
コツコツ真面目に働いているオヤジには申し訳ないと思ってしまうが、これも悟空……否、カカロットが頑張っている証拠だ。
有り難く我が家のために使わせていただきます。
「ここ最近働きっぱなしだけどよ、ちゃんと大学にも行ってんのか?」
「ちゃんと行ってる。ちょっと気になることもあるしな」
「無茶なことだけはしないでくれよ」
お袋がなぜこの家に居ないのかは、オレでもよくわからない。
悟空が生まれた後、すぐに姿を消したお袋。
当時のオレは、ガキって言うほど小さくはなかったが、記憶に残らなかったからガキなわけで。
だがオヤジと喧嘩したとは思えない。むしろ仲が良かったのをよく覚えている。
けれどオヤジはお袋のことを一切話そうとしない為か、悟空はとんでもない勘違いをしたままだ。
子が二人で男所帯。
オヤジだけの収入じゃ、ギリギリな生活だった。
言い訳になってしまうが、家のことを任されているオレではお金は集められない。
そこで悟空は、お金が稼げそうなホストクラブで働くことになった。
名を変え、雰囲気も別人な……それがカカロットだ。
お袋のこともあり、女という生き物が好きになれない悟空、さらにホストという生き物に金をつぎ込む客に対し……ますます女という生き物を軽蔑してしまった。
悟空の嫌いなものは、金持ちの女。
ホストクラブに通う女には、苦労もせず、全て金の力で生きてきた人だって居るだろう。
そんな客を相手に、悟空は頑張っているんだ。
「今夜は美味い肉焼いてやるからな」
「オラ腹いっぺー食うから、覚悟しとけよ」
「臨むところだ」
悟空もいつか、女性に心を開いてほしい。
そしてお袋の帰りを待ち続けてほしい。
(ただそれだけを願って、分厚い肉を丁寧に焼いた)