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07

 
『佐久早くんの隣で笑う女の子は、私がいい』

俺が女子と一緒にいてどう思ったのかという質問に対するみょうじの答えを聞いた瞬間、胸の奥がザワザワと騒いで気付いたらキスしそうになっていた。邪魔が入らなければ多分あのまましてた。
あれからみょうじは話しかけてこない。たまに目が合ってもすぐに逸らされる。別に喧嘩をしたわけでもないのにこの状態は嫌だ。でもどううればいいかわからない。特別用事もないのに何て声をかけたらいいかわからなくてもう1週間くらいこの状態が続いている。
あの時の言葉を俺は「そういう意味」で捉えた。でも、よくよく考えてみたら直接的に「好き」と言われたわけじゃない。アイツのことだから「友達として」という可能性は否めない。だとしたら俺はとんだ勘違い野郎じゃねぇか。

「あれ、どこ行くの?」
「……トイレ」

秋季リーグ戦、初戦は難なく勝てたけどいつもより調子が悪い気がする。むかつく。みょうじのせいだ。

「佐久早、今時間いい?」
「……」

トイレに向かう俺に声をかけたのは意外な人物だった。元梟谷のセッター、赤葦。大学ではバレーはやっていないと聞いた。わざわざこんなところに来て俺に声をかける程交流があったわけではない。十中八九みょうじのことだろう。

「アイツから何か聞いたの」
「まあ……悩んでるみたいだったから」

この前のことはみょうじから聞いたらしい。まあ、親友らしいから想定の範囲内ではあるけど、どんな風に聞いたのかはすごく気になる。

「佐久早は、みょうじのことどう思ってんの?」
「……何でお前に言わなきゃいけないんだよ」
「みょうじのことそういう風に見てないんだったら、思わせぶりな態度はやめてほしい」

みょうじから相談を受けてわざわざ俺に物申しに来るなんて、コイツやっぱりみょうじのこと好きなんじゃねぇの。普通ただの女友達にそこまで世話を焼くだろうか。

「お前アイツのこと好きなの」
「好きっていうか、愛情かな」
「……」

何でそんなクサいことを平然と言えるんだ。やっぱりコイツも常識あるように見えて相当変だ。

「みょうじの気持ちには気付いてるだろ?」
「……好きとは言われてない」
「みょうじは佐久早のことが好きだよ」

あっさり言いやがった。そういうのって本人がいないところで第三者が言っちゃダメだろ。

「返事はどっちでもいいから、真剣に向き合ってほしい」
「……」
「ごめん、それだけ伝えたかった。2回戦も頑張って」

保護者かよ。返事は決まってるし、こちとらずっと真剣だ。思うところはあったけど口に出すのはやめた。みょうじと付き合うことになったら小姑ばりに邪魔な存在になるんだと思うと、今からうんざりした。


***


「臣くんやーん!」
「……」

駅近くで元稲荷崎の宮侑に会った。何でこっちにいて、よりによって俺を見つけるんだよ。別に親しくもないのに距離が近いから苦手だ。その変な呼び方だって俺は許可した覚えは無い。

「今日見学に来てん。臣くんどこのチーム入るか決めた? スカウトいくつかきとるやろ?」
「……まだ決めてない」
「俺なー、ブラックジャッカルええなー思てん!」
「……」

ブラックジャッカルって、木兎がいるとこじゃん。木兎とコイツが揃ったら更にめんどくさそうだ。俺の中でブラックジャッカルが候補から一歩遠のいた。

「この後暇なら一緒にメシ食おー」
「え〜……」
「ええやんかー。俺ここのファミレス行ってみたかった!関西にはないんよ」
「嫌だ。絶対」
「えええ何でやねん!」

宮が行きたいと指をさしたのはよりによってみょうじがバイトしてるファミレスだった。本当コイツ何なのわざとなの。むかつくんだけど。

「あっ……」
「!」

店の前でモタモタしてたらバイト終わりのみょうじが出てきて鉢合わせしてしまった。わかりやすくみょうじは固まり、俺もどうしていいかわからない。

「あれ、なまえちゃんやん!偶然やなー!」
「宮くん……ひ、久しぶり」
「……」

微妙な空気を吹き飛ばしたのは宮の能天気な声だった。宮と知り合いとか聞いてねぇんだけど。何で馴れ馴れしく名前呼ばせてんだよ。

「こっちは佐久早くんいうてな……」
「あ、知ってるよ。同じ大学」
「そーなん?なら話早いわ。なまえちゃんも一緒にメシどう?」
「えっと……」

宮に誘われてみょうじはわかりやすく視線を泳がせた。まあ、こんな状態で俺とメシなんて行けるわけねぇよな。

「……」
「……」
「え、何この空気」

宮はようやく俺達のただならぬ雰囲気に気が付いたようだ。KYとは今まさにコイツのことだ。
結果的に今日ここでみょうじに会えたのは良かった。いい加減学校で避けられるのにもイライラしてたし、ハッキリさせたい。

「俺コイツに話あるから、宮はどっか行って」
「え、久しぶりの再会なのに酷ない?なあなまえちゃん……」
「わ、私も……佐久早くんとお話したい」
「えええ何なん!?」


***

 
ぎゃあぎゃあ煩い宮を置き去りにして、人気がないところを探したらいつかの公園に辿り着いた。

「……」
「……」

とりあえずベンチに座ったものの……何て切り出せばいいんだ。コイツの気持ちは赤葦から聞いている。「お前俺のこと好きなの?」……は、ダメか。こういう時女は何て言ったら喜ぶのかとか全然わからない。こういうの本当苦手だ。めんどくさいと思う。

「あの……!」

コイツも多分得意な方じゃない。得意だったらむかつくし。

「私、佐久早くんのこと……」

得意じゃないけど、頑張ってくれてる。真っ赤な顔でなりふり構わず俺に想いを伝えようとしてくれている。その姿を見て自分の気持ちが穏やかになってることに、気付かないフリはもう出来なかった。

「あの時、キスしたいと思った」
「!」
「……嫌だった?」

聞くとみょうじはブンブンと首を横に振るもんだからそこまで勢いよく振るかよと、少し笑えた。

「今もしたいと思ってんだけど」
「!?」

愛の言葉とか正直性に合わない。みょうじは俺のことが好きだし、俺もみょうじのことが好きだ。可愛い反応をするみょうじに今すぐキスしたい。固まって動かなくなったのを合意したと見なしてマスクをずらして顔を近づけた。

「だめッ……!」
「……」

顔面を両手で思い切り押し返された。何でだよ。消毒してない手で顔面を触られたことより、嫌じゃないくせに拒否されたことに腹が立った。

「こういうのは、ちゃんと順番が……!」

どうやらまだお互いにちゃんと告白してないってところがネックだったらしい。真面目かよ。まあ、わかってたことだけど。

「好き」
「!」
「これでいいな」
「!?」

だったらちゃんと順番通りにやれば問題ないってことだ。お望みの言葉を口にしてからキスをした。返事は聞かなくてもわかってる。受け入れたのが何よりの証拠だ。

「佐久早くん……私……!」

口を離した後、みょうじは更に赤くなった顔で何かを伝えようとしている。え、今いい感じで成立したのにこれ以上何を言うつもりだよ。「やっぱ違った」とかだったらどうしよう。

「佐久早くんのことが、好きです」
「は……」
「途中だったから……」

どうやら自分の告白の続きを言いたかったらしい。律儀か。言い終えるとみょうじは満足げに笑った。クソ可愛い……もう1回キスしたい。

「えっ、待って!」
「……何でだよ」

顔を近づけたらまた押し返された。何で待たなきゃいけねぇんだよ。今まさに付き合うことになったんだから何の問題もないじゃん。

「い、今付き合ったばっかなのにいきなりこんな……」

真っ赤な顔でしどろもどろに伝えてきたのはみょうじらしい理由だった。ほんとクソ真面目でむかつく。

「うるせぇ」
「!」

順番守ってやったんだから文句を言われる筋合いはない。これ以上ペースを乱されてたまるかと、もごもご動くみょうじの唇に噛みついた。



( 2020.3-7 )
( 2022.7 修正 )

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