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- ナノ -
06

 
日頃の運動不足を解消するため、空き時間に優子ちゃんとテニスをすることになった。

「みょうじさん経験者?」
「中学でやってたんだー」

途中で優子ちゃんの友達、後藤くんと林くんも合流して男女混合でダブルスの試合をやっている。経験者と言っても中学の3年間だけだし、元々運動神経は良くないからそこまで上手いわけじゃない。それでも褒められると満更ではなかった。

「!」

ふと、フェンスの向こうに佐久早くんを見つけた。条件反射のように佐久早くんの姿に反応してしまうなんて我ながら単純で、本当に佐久早くんのことが好きなんだなと改めて自覚した。
見つけたはいいけど、佐久早くんの隣には私の知らない女の人がいた。先輩だろうか、私なんかよりずっと大人っぽくて綺麗な人だ。にこにこしてるのは、私みたいに佐久早くんのことが好きだからなのかな。

「なまえちゃん!!」

佐久早くんの方に気を取られていたら向かってくるボールに反応できなくて、やばいと思った時にはもう頭に衝撃が走っていた。
物理的な痛みと精神的な痛みを感じながら、私は意識を手放した。


***


「ん……ん!?」

目を覚ますと佐久早くんが私を見下ろしていて一気に脳が覚醒した。

「……他の奴らは授業いった。俺は空き時間」
「そ、そっか!」

ここは多分医務室だ。
あの時私の方から佐久早くんが見えたってことは、佐久早くんの方からも私が見えたはずだ。ボールが直撃した鈍くさい瞬間を見られてたのかと思うと恥ずかしい。

「痛みは?」
「ないよ」
「吐き気も?」
「うん、大丈夫」

また迷惑をかけてしまったというのに、佐久早くんが傍にいてくれて嬉しいなんて本当に自分勝手すぎる。空き時間といってもきっとトレーニングとか課題とかやることはたくさんあるだろう。

「鈍くさいのにテニスなんかすんなよ」
「一応、テニスはやってたもん」
「じゃあ何でボール直撃してんだよ」
「佐久早くんが……」
「ハァ? 俺?」
「……佐久早くんが女の子といるの、見えて……気になって……」

どうしよう、言うつもりなかったのに流れで言ってしまった。なんだか佐久早くんが悪いみたいな出だしになっちゃって、うまい誤魔化し方ができなかった。こんなの告白してるようなものだ。

「俺が女子と一緒にいて、お前に不都合があんの?」
「……」

佐久早くんのもっともな言葉に何も言い返せない。私は佐久早くんの恋人ではない。友達と思ってもらえてるかどうかも怪しいところだ。それなのに勝手にヤキモチを妬いて、勝手に怪我して……佐久早くんからしたら本当にいい迷惑だと思う。

「そう、だよね……」
「……」

現実を思い知って泣きそうになってきた。情けない顔を見られたくなくて布団の中で佐久早くんに背を向ける。

「おい、質問に答えろ」
「!」
「俺が女子と一緒にいるの見て、みょうじはどう思ったんだよ」

しかし佐久早くんは容赦なく布団を剥いで追及の手を緩めない。それに何でこのタイミングで名前呼んでくれるの、ずるい。

「……嫌だった。佐久早くんの隣で笑う女の子は、私がいい」

困らせてしまうとわかっていながら、言ってしまった。これでもう佐久早くんと前みたいに接することはできない。そう思うと怖くて佐久早くんの顔を見ることができなかった。

「……!?」

横を向いた私の顔の前に佐久早くんの手が現れたかと思ったら、肩を引っ張られて仰向けにされた。佐久早くんが至近距離で私を見下ろしている。え、何これ、どういうこと。
極度の緊張が襲ってきてこの場から逃げたい衝動に駆られるけど、起き上がったら佐久早くんに頭突きをしてしまうし、顔の横には佐久早くんの手があるしでどうすることもできなかった。

「……」
「っ……」

そうこう考えてるうちに佐久早くんの顔がどんどん近づいてきて、あと数センチというところで佐久早くんはマスクをずらした。見慣れない佐久早くんの唇が、こんなに近くにある。このまま動かずにいたらキスされるのかもしれない。それを理解した上で私は目を閉じた。

コンコン

「なまえちゃん大丈夫!?」
「みょうじさんほんとごめん!!」

……というところでノックが聞こえて優子ちゃん達が入ってきた。私が目を開けた時、佐久早くんは既に離れた場所にいた。

「大丈夫だよ」
「でも顔赤くない?熱出た?」
「だ、大丈夫!ほら!」
「ほらと言われても」

私達が話している間に佐久早くんは医務室を出ていってしまった。私はその背中にいつもみたいに「ありがとう」と声をかけることができなかった。


***

 
あれ以来佐久早くんとは話していない。同じ学部だから見かけないわけではないけど、いつも声をかけるような場面でも勇気が出なかった。
あの時の佐久早くんの行動にはどんな意味があったんだろう。何度思い返してみても、あの時の佐久早くんは私にキスをしようとした。優子ちゃん達が来なかったらあのままキスをしていたんだろうか。

「うぐぅ……」

佐久早くんとキスをする想像をしてしまって結局考察は進まない。ちゃんと告白したわけでも付き合ってもいないのにこんな破廉恥な想像をしてしまうなんて申し訳なさすぎる。私は自己嫌悪に苛まれて近くの電柱に頭を押し付けた。

「みょうじ何してんの……?」
「あ……赤葦くん〜〜」
「え、何」

一人では抱えきれなくて赤葦くんに話を聞いてもらう約束をした。待ち合わせの場所に到着するなり私の奇行に目を丸くした赤葦くんの姿を見て、少しだけ安心した。


***(赤葦視点)


みょうじに相談があると呼び出されて来てみると、みょうじは思っていたよりも重症だった。電柱に頭を押し付けてるのを見て本気で心配したけど、店に入って話してるうちにだいぶ落ち着いてきたようだ。

「こ、これはどういうことなんだろう……」

みょうじが相談してきたのは佐久早とのことだった。まさかみょうじに恋愛相談をされる日が来るなんて。そして相手があの佐久早だとは思いもしなかった。
途中しどろもどろなところもあったけど、要約すると勢いで告白まがいのことを伝えたらキスされそうになった、と。佐久早がどういうつもりでそんなことをしたのかがわからなくてぎこちない雰囲気が続いてしまっているということだった。

「男目線で佐久早の気持ちを想像する限り……」
「……」
「みょうじのことが可愛くて我慢できなかったんじゃないかな」
「う、嘘だぁ……菌移るもん……」
「菌?」

佐久早のことは中学の時からバレーで知ってはいるものの、ネットを挟んでしか話したことはないから人間性もざっくりとしか知らない。
ただ、少なくともみょうじのことを嫌ってるようには見えなかった。先日みょうじが酒に酔って動けなくなってた時もなんだかんだ面倒見てくれていた。愛想を振りまくタイプじゃないだろうから、佐久早にとってみょうじは「特別な女の子」と表現しても間違いではないと思う。もしそこに多少なりとも恋愛感情があるんだとしたら、みょうじの言葉にグッときて理性を抑えられなかったと佐久早の行動に説明がつく。

「俺は佐久早のことよく知らないけど……みょうじが魅力的な人だってことは知ってるよ」
「赤葦くん……!」

どちらに転んだとしてもそんなに心配する必要はない。みょうじはいい奴だ。仮に佐久早と上手くいかなくてもこの先みょうじをいいなと思ってくれる人は現れるだろうし、もしタイミングを逃し続けてしまったとしても俺がいる。みょうじに対して恋愛感情はないけど、愛情はある。どんな辛いことがあっても俺だけは一生、みょうじの味方だ。

「おーい赤葦ー!みょうじー!」
「木兎さん!」

みょうじがトイレに行ってる間に連絡をとっていた木兎さんが店に到着した。

「みょうじ、相談があるんだって!?」
「えっ……」
「先輩が聞いてあげる!!」

みょうじの味方は俺だけじゃない。世話を焼いてあげたいと思ってる人は多分、みょうじが思ってるよりもたくさんいると思うよ。



( 2020.3-7 )
( 2022.7 修正 )

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