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- ナノ -
05

 
「なまえちゃんってさ、佐久早くんのこと好きなの?」
「え!?」

唐突に優子ちゃんに聞かれて心臓が跳ね上がった。好きは好きだ。でも優子ちゃんが言う「好き」はもっとこう……男女としての好意のことだと思う。その意味がわからないわけではない。

「な、何でそう思うの?」
「佐久早くんと話す時、すごくにこにこしてるよ」
「!」

思い返してみると確かにそんな気がする。佐久早くんと一緒にいると楽しいというか、佐久早くんが私と話してくれることが、私を見てくれることが嬉しい。これは好きって言うことなんだろうか。

「もしかして無自覚だった?」
「……」
「佐久早くんってとっつきにくい感じだけど、そこクリアしちゃえば確かにかっこいいもんね」

もちろんかっこいいと思う。顔立ちもそうだけど、バレーに対するストイックな姿勢とか。そして何より優しい。私が困ってる時は何故かいつも佐久早くんがいて、眉間に皺を寄せながらも絶対見捨てずに面倒を見てくれる。
私にとってのスターが木兎さんなら、佐久早くんはヒーローなのかもしれない。こんなこと本人に言ったらまた眉間に皺が寄りそうだけど。

「えっと……」
「ふふふ、顔赤いよー?」

一緒にいて楽しいのは赤葦くんも同じだ。でも、赤葦くんの隣は落ち着くけど佐久早くんの隣は落ち着かない。それは佐久早くんに私がどう思われてるのかが気になってしょうがないからだ。
佐久早くんの中に私の存在があってほしいなんて……他の女の子に同じことをしないでほしいなんて、こんなワガママな気持ちになるのは佐久早くんが初めてだった。

「好き、なのかな……」
「佐久早くんと付き合いたいんじゃないの?」
「ど、どうだろう……」

男の子のことをそういう意味で好きだと思ったのは小学生以来で、その先のことについてはいまいちピンとこないのが正直なところだった。

「佐久早くんを独り占めしたいとか、佐久早くんとキスしたいとか思わない?」
「!!」

確かに、独り占めしたいとかは思ってしまっている。キスは、したことがないからどんな感じかわからないけど、佐久早くんと私の唇が重なるのを想像してしまって、途端に申し訳ない気持ちになった。でも、佐久早くんがしてくれるんだったら例えどんなに苦しいものでも受け入れられる気がした。

「でも……そもそも私の名前知ってるのかどうか……」
「え、それはないでしょ!?」
「名前呼ばれたことない……」
「……」

せっかく優子ちゃんが気付かせてくれたのに、私の恋が成就する可能性は極めて低い。私は佐久早くんに名前すら呼ばれたことがないのだ。声をかけられる時はいつも「おい」とか「お前」とかだし。

「でもなまえちゃん以外に仲良い女の子いないでしょ」
「……そ、そうかな」

確かに佐久早くんが私以外の女の子と仲良さそうにしてるのは見たことがない。その事実にこんなにも浮かれてしまうなんて、佐久早くんに知られたら引かれてしまうだろうか。


***(古森視点)
 

「そんでさー、向こうのリベロが……」
「……」

練習試合の帰りに駅で聖臣と会った。実家に戻るらしいから一緒の電車に乗る。聖臣は人混みが嫌いだからガラガラでない限り必ず車両の奥に立つ。この感じ久しぶりで懐かしいなあ。
俺が一方的に話していても、基本的に聖臣はあまり相槌は打たないし反応も薄い。でもちゃんと聞いてはいる。だけど今日はなんだか心ここにあらずって感じだ。そわそわというか、イライラしてる?いつもより眉間の皺が深い気がする。
そして何を思ったのか、次の駅に間もなく到着するというアナウンスが流れたところで歩き出した。まだ降りる駅じゃないのに。

「オイ」

誰に声をかけたのかと一瞬ヒヤっとしたけど、あれはみょうじさんだ。寝ちゃってるみたいで、隣のおじさんの肩にもたれかかっている。全然気付かなかった。聖臣はいったいいつからみょうじさんを見ていたんだろう。

「……みょうじ」
「ッ!?」

声をかけても起きる気配がなかったみょうじさんだったが、聖臣が名前を呼ぶと勢いよく目を開いた。そして目の前の聖臣を見て、目をパチパチさせて驚く。うん、いい反応だ。

「えっ、え、佐久早く、え!?」
「……」

みょうじさんの表情は単純に驚いたって感じじゃなくて、どことなく嬉しそうに見えた。そしてどんどん顔が赤くなっていくのがここからでもわかった。

「あの、今私の名前……」
「次降りる駅だろ」
「あっ、うん!」

なるほど、聖臣はみょうじさんが降りる駅になっても起きないから心配していたのか。それから、イライラしてたのは多分みょうじさんに寄りかかられて鼻の下を伸ばしていた隣のおじさんに対してだ。

「起こしてくれてありがとう。また明日……!」

みょうじさんは慌ただしく席を立ちあがりながらも、しっかり聖臣にお礼を伝えて降りていった。

「……付き合ってんの!?」
「は? そんなわけないじゃん」
「いやいや、みょうじさんお前のこと好きっぽいじゃん!」
「……違うだろ」
「はあ!?お前マジで言ってんの?」

付き合ってないにしても、今の反応からしてみょうじさんは聖臣のこと好きっぽいし、聖臣だってみょうじさんのこと好きじゃん。明らかにこの前のファミレスの時とは雰囲気が違う。あんなにわかりやすいのに気付いてないの?

「俺みたいなの、めんどくさくて無理だろ」
「!」

いや、聖臣の場合慎重すぎて自分の中で否定しちゃってるんだ。その言い方だとみょうじさんと付き合いたいように聞こえるけど、気付いてないのかな。

「……何だよ」
「いてっ」

あの聖臣が恋をしているとは。嬉しくてつい温かい視線を向けてたら結構な力で小突かれた。



( 2020.3-7 )
( 2022.7 修正 )

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