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02

 
大学生になって、初めてのバイトに選んだのは大学近くのファミレス。まだまだミスをしてしまうことも多いけど優しい店長と先輩達に恵まれて楽しくお仕事ができている。

「いらっしゃいませ……あ!」
「あれ、みょうじさんだ〜」
「……」

夜の8時くらいに来店したのは佐久早くんと古森くんだった。大会の時に会ったらちょこっと話す程度だったのに、名前を憶えてくれていた古森くんに少し感動した。そういえば佐久早くんは私の名前を知っているんだろうか……いや、悲しくなるから考えないようにしよう。

「へー、ここでバイトしてんの?」
「うん。古森くんも大学生?」
「うん。みょうじさんは?この辺なの?」
「あ……佐久早くんと一緒の大学だよ」
「えっ、みょうじさんと同じ大学だったの!?教えろよ!」
「何でわざわざ言う必要があるんだよ……」

古森くんは私と佐久早くんが同じ大学に通っていることを知らなかった。そうだよね、私のことが話題になることなんてないよね……。少し寂しく思いながら注文をとった。


***(古森視点)


聖臣がみょうじさんと同じ大学で同じ学部だった。大学生になってから一番の衝撃だ。ずっと一緒にいた幼馴染がちゃんと大学生活を送れているか正直心配していたから、少し安心した。みょうじさんだったらとっつきにくい聖臣に対しても嫌な顔せず接してくれるだろう。

「みょうじさんなんか大人っぽくなったな」
「は? 別に変わんないだろ」
「いやいや、化粧とかしてると思うよ」

女の子って大学生になると一気に大人っぽくなるっていうか、可愛くなるよなあ。みょうじさんも少しは化粧してるんだと思う。聖臣は本気でわかってなさそうだ。コイツ高校の時から女子に興味無かったからなぁ。
それにしても……パスケースを拾って知り合った女の子と同じ大学とかもう運命じゃん。俺だったら絶対意識しちゃうね。

「お待たせしました」
「ありがとー」

俺もみょうじさんのことをよく知ってるわけじゃない。でも人と話す時ちゃんと目を合わせるしいつもにこにこしてるし、絶対いい子だと思う。

「あ、明日の2限教室変わったって聞いた?」
「聞いてない」
「C棟の……あれ、どこだったかな……」
「いいよLIMEで」
「うん、後で連絡するね」

ふたりの何気ない会話を聞かされてこっちが浮足立ってしまう。あの聖臣が女子と普通に会話している……!連絡先を知っていて実際連絡を取り合ってる女子なんて、みょうじさんくらいなんじゃないだろうか。色恋沙汰は抜きにしても普通に感動した。

「みょうじさん本当ありがとう。佐久早のことよろしくね」
「え? いえいえ、私の方が佐久早くんにお世話になりっぱなしで!」
「オイその会話腹立つからヤメロ」

いろいろと手のかかる奴だけど、みょうじさんならきっと受け入れてくれる。そんなみょうじさんを聖臣がどう思うのかは、これからじっくり観察させてもらおう。


***(夢主視点)

 
「佐久早くんってすごいんだね」
「うん! 高校の時もね、有名だったんだよ」
「へー」

大学生活もあっという間に半分くらいが過ぎた。
夏の大会でバレー部が久しぶりの全国制覇を果たして、1年生ながらに大活躍だった佐久早くんが注目されるようになってきた。なんだか私まで嬉しくなっちゃう。

「私そろそろバイト行かなきゃ。なまえちゃんどうする?」
「私はもうちょっと残ってくよ」
「うん、じゃあまた明日〜」
「ばいばい」

来週からテストが始まる。家だとテレビとかソファとか誘惑が多いから、勉強はなるべく学校でやるようにしている。大きな図書館もあるけど学食のテーブルで勉強するのは、軽食を食べたり友達と喋ったりしたいからだ。
大学のテストは高校のテストとは違う。どんぴしゃで正しい単語を書くような問題は少なくて、何でこうなったとか、こうなるまでの経緯を説明しろとか、より深い理解力と説明力を求められる。
そういえば佐久早くんは大丈夫なのかな。私なんかよりは頭良いんだろうけど少し心配だ。部活が忙しいのに勉強もそれなりにこなさなきゃいけないのは大変だろうな。

「オイ」
「ハイ!」

ちょうど佐久早くんのことを考えている時に佐久早くんに声をかけられて、必要以上にでかい返事をしてしまったし反射的に背筋がピンと伸びた。

「佐久早くんもテスト勉強?」
「まあ……そろそろ帰る」
「そっかー。寮だっけ?近いの?」
「10分くらい」

スポーツ推薦の学生は部活に専念できるように大学近くのアパートが寮として用意されてるらしい。部活もやって勉強もやって、更にはある程度家のことまでやってるなんて本当にすごいと思う。

「……アンタは帰んないの」
「あ……もういい時間だね。そろそろ帰ろうかな」
「……」

気付けば友人が帰ってから結構時間が経っていて、窓から見える外はすっかり陽が落ちていた。
立ち上がって広げていたプリントや筆記用具を鞄に入れる。その間佐久早くんは一歩も動くことなく、私の手元をじーっと見ていた。どうしよう、鞄ぐちゃぐちゃでだらしない女だって思われているのかもしれない。

「……グミ食べる?」
「人が一回開けたヤツ食えるかよ」
「あ、うん、そうだよね」

気を逸らそうとしてみたもののあっけなく撃沈した。
佐久早くんは綺麗好きだ。高校の時、私に貸してくれたタオルを洗って返そうとしたら「人の菌がついたのはいらない」と言われたのはよく憶えている。

「……行くぞ」
「う、うん!」

私の支度が終わったのを確認して佐久早くんは歩き始めた。どうやら途中まで一緒に帰ってくれるらしい。今まで迷惑をたくさんかけてきてしまったけど、私は佐久早くんに嫌われてはいないみたいだ。嬉しくて頬が緩んだ。
佐久早くんは無口というわけではない。自分から話題を提供することが少ないだけで、話しかければ普通に返してくれるしそれなりに内容も膨らむ。ただ、興味の無い話題には反応が薄いからわかりやすい。
佐久早くんはどういうことに興味があるんだろうといろいろ話していたらそろそろ駅が見えてきた。あれ、寮は大学から10分くらいって言ってたのに。

「寮ってどこにあるの?通り過ぎてない?」
「……俺のことアホだと思ってんの?」
「違うよ!もう駅ついちゃうよ」
「……駅前の薬局でマスク買う」
「なるほど!」
「……」

私の話に付き合って別れるタイミングを逃してるんじゃなくて良かった。
佐久早くんの私生活ってどんな感じなんだろう。部屋は間違いなく綺麗だと思う。お料理とかするのかな。もう別れるってタイミングなのに聞きたいことがたくさん思い浮かんでしまった。これを聞くのはまだ早い。もう少し仲良くなれてからにしよう。

「じゃあね」
「うん」

駅前で佐久早くんと別れてからハッとした。薬局って、大学の近くにもあったような。何でわざわざ駅前の薬局まで歩いたんだろう。もしかして、暗いから私を送ってくれるために……?いやいやまさか。きっとこっちの薬局のポイントを集めてるんだ。ポイントカードを使いこなす佐久早くんを想像してみてもしっくりこなかったけど、そう思うようにした。



( 2020.3-7 )
( 2022.7 修正 )

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