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侑@

 
「みょうじさん結構飲んでたけど大丈夫?」
「はい」
「本当?駅まで送るよ」
「いえ大丈夫です」

上司の昇進祝いの飲み会は21時でお開き。二次会はきっぱり断って逃げることはできたものの、経理課の先輩に捕まってしまった。この人は女子社員の間でチャラいと有名で、事あるごとに女性社員を持ち帰ろうとするらしい。

「でも顔赤くない?ちょっと休憩した方が良いんじゃないかな」
「お迎え呼んであるんで。お疲れ様でしたー」

事前情報を持っている私にその爽やか笑顔は通用しない。「休憩」という怪しい単語が出てきて身の危険を感じた私はきっぱり断った。
もちろんお迎えなんて呼んでいない。そもそも一人暮らしで彼氏のいない私にこんな時間に迎えに来てくれる人は存在しないし、なんならタクシーさえも呼んではいない。今から列に並ぶところだ。

「みょうじさん?」
「おー、侑くん」

タクシー待ちの最後尾に思わぬ人物を見つけた。侑くんだ。

「こんなとこで会うなんて運命感じてまうわー」
「酔っ払ってるね。侑くんも飲み会?」
「おん。みょうじさんも?」
「うん。ちゃんと帰れるか心配だからタクることにした」
「俺もっす!」

侑くんもどこかでお酒を飲んでいたみたいでほろ酔いでいい気分のようだ。話してみれば私と侑くんの家は同じ方面なことが判明したから相乗りすることにした。タクシーに一人で乗るのと二人で乗るのとではだいぶ料金が変わってくる。
程なくして順番が来て、後に降りる私からタクシーに乗り込んだ。身長の高い侑くんが隣に座ると後部座席がすごく狭く感じる。窮屈そうだな。

「ふう」
「顔赤いやん。大丈夫すか?」
「大丈夫、吐くまではいってないから」
「ほんま? 心配やわあ」
「お構いなく〜」
「えー、そう言われると構いたくなんねん」
「ちょ、触らないでよ」

侑くんは酔っ払うとタメ口が増えるみたいだ。まあ普段からそこまで先輩扱いされてないしたった一つの歳の差なんて威張れるものじゃないから咎める気はない。
私も酔っ払ってるせいか、触らないでとは言ったものの頬に触れた侑くんの指は冷たくて気持ち良かった。相手が経理の先輩だったら全力で拒絶してただろう。これが"イケメンは許される"というやつか。

「これ取った方が楽なんちゃう?」
「あーうん、取る」

侑くんに言われた通り、髪の毛を後ろでまとめていたバレッタを取って座席に全体重を預けると随分楽になった。

「ちょっと窓開けましょ」
「んー」

侑くんが身を乗り出して両側の窓を開けてくれた。冷たい夜風が頬にあたって気持ち良い。風に揺れる侑くんの髪の毛からいい匂いがして、私は心地良く目を閉じた。


***


「ん……?」

ぼんやりと意識が戻ってきて自分が寝ていたことを理解した。最初に感じた違和感は匂いだった。自分の家の匂いは自覚していないけど、他人の家の匂いだってことはよくわかった。
部屋の中を見てみるとテレビ台に賞状やメダルが飾られていて、壁にユニフォームかかけられていた。十中八九侑くんの家だろう。
そうだ、タクシーで寝落ちしてしまったんだった。家に運ばれても起きない程眠りが深かったのはきっとアルコールのせいだ。時計を確認したら日付が変わっていた。侑くんに迷惑をかけてしまった。

「あ、起きた?」
「!?」

家主はどこに行ったんだろうかとベッドから上体を起こしたところで、パンツ一丁の侑くんが洗面所から登場した。慌てて目を逸らしたものの、その鍛え抜かれた肉体をしっかり目に収めてしまった。女であろうと男であろうと、目の前に魅力的な身体があれば見てしまうのが性だ。

「ごめん、寝ちゃった」
「全然。シャワー浴びる?」
「え?」

もう帰るんだからわざわざ侑くんの家でシャワーを浴びる必要はない。純粋に意味がわからなかったけど、次の侑くんの行動にハッとさせられた。

「俺は別に、そのまんまでも構わんけど」
「!?」

侑くんは起き上がった私を再びベッドに押し倒した。油断していた私はそのまま重力に従いベッドに背中を預けることになり、ベッドのどこかがギシリと鳴った。

「え……侑くん?」
「んー?」
「ちょ、っと!」

布団からの侑くんの匂いと、私に覆いかぶさる侑くんのシャンプーの匂いに挟まれてはっきりと理解した。嘘でしょ、侑くんが私なんかを相手にするとかあるの?

「お、落ち着こう!一回落ち着いて、お酒抜こう!」
「もう抜けたわ。俺そこそこ酒強いし」
「いやいや嘘でしょ。顔赤いよ」
「これは普通に興奮しとる」
「!?」

きっとアルコールのせいだ。酒に酔った勢いで過ちを犯してしまうなんて、絶対にダメだ。赤い顔を指摘すると私の手をとって自分の胸にあててみせた。分厚い筋肉の奥から、確かに心臓が忙しなく脈を打ってるのを感じた。

「みょうじさんももう酔いは醒めとんのやろ?」
「う、うん」
「なら正常な頭で判断して」
「何を……」
「俺に抱かれるかどうか」
「!!」

どうやら酔った勢いでこんなことをしてるわけではないようだ。私だってすっかり酔いは醒めている。それを知った上で聞いてくるなんて、侑くんはずるい。

「3秒以内。いーち、にーい……」
「ま、まま待って!そんな、いきなり言われても……!」
「フッフ、迷った時点で可能性あるってことやんな?」
「!」

侑くんの言う通りだ。本気でダメだと思うんだったら即答してなきゃいけなかった。でもそうしなかったのは、侑くんとの夜を想像して満更でもなかったから。

「下手くそって言われたらやめるから。な?」
「……」


***


結局私は侑くんの誘いを断ることはできなかった。目を覚ましてすぐ隣に侑くんの体温を感じて、幸福感と罪悪感がぐちゃぐちゃに混ざった感情に朝から苛まされた。
最後までしてしまったわけだけど……めちゃくちゃ気持ち良かった。「下手くそ」なんて言えるわけがなかった。行為中の侑くんは何度も私の耳元で「好き」と言ってくれて、どうにかなりそうだった。女のオーガズムにはムードが大事と聞くけれどまさしくそれを体感した。多分その言葉に偽りはないと思う。本当に私のことが好きで抱いてくれたんだと思っていいはず。
私の手を握って放さない侑くんの寝顔はいつもより幼く見えて可愛い。行為中とのギャップを感じてきゅんとした。

「んー……」

とりあえず裸のまま朝の挨拶を交わすのは恥ずかしくて、床に散らばった服を集めようと動いたら低い唸り声が聞こえた。起こしちゃったみたい。侑くんは眉間に皺を寄せて薄く目を開けた。イケメンバレー選手として通ってる侑くんのブサイクな顔に思わず笑ってしまった。

「おはよ」
「もう起きんの……?早ない……」
「でも帰らなきゃ……」
「は?何で?誰かと予定でもあんの?」

帰ると言うと低血圧全開の様子だった侑くんが一気に覚醒した。急な態度の変化に少し圧倒されてしまう。

「予定はないけど……」
「ならええやん」
「いやよくはない。よくはないよ侑くん」

帰さないと言わんばかりに侑くんは私を布団の中で引き寄せた。肌が触れ合って昨日の夜のことがフラッシュバックする。たまらなくなってもぞもぞ動いても全く効果はない。力で敵うはずがないということは昨夜思い知っていたため、私は早々に抵抗を諦めた。

「なあ、俺下手クソやった?」
「えっ……」
「昨日めっちゃ気持ちよさそうに見えたけど……演技?」
「え、演技じゃ、ない……けど……」
「やんなぁ。何回もイっとったもんな」
「!」

思い出して羞恥心がこみ上げてきた。自分でもどんだけ感じてるんだと途中から恥ずかしくなって、イく時に声を出さないようにしてたのはバレバレだったみたいだ。

「……あかん、思い出したら興奮してきた」
「!? は、放して……!」
「嫌や。終わったら返事してくれるって約束やんか」

そんな約束した覚えない。
確かに行為中何度も「好き」と言われて、「返事は明日でええから」とも言われたような気もするけど……だとしてもそれは約束ではない。

「なあ、俺は合格?」
「そういう問題じゃなくて……ていうか、侑くん本気なの?」
「え、昨日あんだけ言うたのにまだ足りひんの?」

足りないわけない。でも、どうしても慎重になってしまう。侑くんの愛を受け止めて本当にいいんだろうか。抜けたとは言ってもあの時はお互いに多少なりともアルコールが入っていた。

「みょうじさんのことが好きや」
「!」
「俺のこと嫌いやなかったら付き合うて。絶対後悔させへん」

流石にもうアルコールは完全に抜けている。この状態でその言葉を言ったらもう引き返せないことくらい、侑くんにだってわかってるはずだ。侑くんが後悔させないって言ってくれたなら、信じていいのかな。

「嫌いじゃない……好き」
「!」
「……多分」
「多分かーい!!」

無邪気な笑顔で関西節のツッコミを決めた侑くんを見て、その言葉を口にしたことを後悔することはないだろうと確信した。



( 2020.5-7 )
( 2022.7 修正 )

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