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「#エロ」のBL小説を読む
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04

 
「ヘイヘイヘーイ、昨日はどうだったんよ?」
「え? えへへへ」
「おっ、何かあった!?」
「手ェ繋いだ!」
「「「おおおお!!」」」

昼休み、鴎台戦の対策として部室で試合の録画を見るはずが、木兎さんの恋バナで盛り上がる先輩達。そんな先輩達を横目に見ながらDVDをセットする。まあ、木兎さんの恋がうまくいきそうなら良かった。おそらく付き合うのも時間の問題だろう。

「告白したの?」
「まだ! していいかな!?」
「いいんじゃね?」
「赤葦どう思う!?」
「……いいんじゃないですか」
「よ、よォーーーし!行ってくる!」
「今から!?」

勢いよく立ち上がると、木兎さんは部室を出ていってしまった。今からって……みょうじさんお昼ご飯を食べているのでは。ものすごく嫌な予感を感じつつも、俺はDVDの再生ボタンを押した。


***(夢主視点)


「みょうじさん!!」

空き教室で友達とご飯を食べているところに木兎くんがやってきた。
昨日のこともあって面と向かって話すのはまだ恥ずかしい。木兎くんのことが好きだってはっきり自覚しちゃったし、昨日はいきなり泣き出しちゃったし、そんな私を心配して手を握ってくれたし。思い出したら顔やら手やら、体のあちこちが熱くなってきた。

「ど、どうしたの?」
「みょうじさん!伝えたい事がある!」
「え?」

伝えたい事って、今ここで?木兎くんは珍しく真剣な表情で私を見ている。かっこいい。ぐっと力の入った拳から緊張感が伝わってくる。これじゃあまるで告白をするかのような雰囲気なんだけど……いやいやまさか。

「えっと、最初は大人しい子だなーって思ってて、その後笑顔可愛いなーって思って……」
「え、え……」

 「可愛い」なんて、男の子から言われ慣れていない言葉に私の胸のどこかがきゅんとした。しかし今この場には私の友達もいる。さっきまで木兎くんのことが好きという話をしていたから、友達も私に負けず劣らずそわそわしている。

「勉強教えてくれて優しいなーって思ったし、みょうじさんが試合観に来てくれるとめちゃくちゃ頑張れた!」
「あ、あの、木兎くん……」

一生懸命言葉を紡いでくれる木兎くんには申し訳ないけど恥ずかしくて仕方がない。友達だけじゃなく周りの知らない人の注目まで集めてしまっていることに気づいて、木兎くん。

「俺がみょうじさんを笑顔にしたい。だから、俺と……」
「ご、ごめん木兎くんちょっと待って……!!」
「!」

耐えられなくなって私は木兎くんの言葉を遮ってしまった。

「あ、あの、その話はまた後で……してほしい、というか……」
「そっか……ごめん……」

いっぱいいっぱいになりながら伝えると、木兎くんは肩を落として教室から去ってしまった。悲壮感の漂う木兎くんの背中を見送って、後悔の波が押し寄せた。落ち込ませたくなんかなかったのに。どうしよう。


***(赤葦視点)


「……」
「あの、これは……」
「あー……」
「どうやら告白がうまくいかなかったみたいなんだよねー」
「……」

昼休みに告白すると息巻いていた木兎さんだったが、放課後にはしょぼくれモード全開で部活にやってきた。どうやら告白がうまくいかなかったらしい。
大方事の顛末は予想できる。きっと時と場所を考えずに勢いで告白してしまったんだろう。みょうじさんの性格からしてそういうのは恥ずかしがりそうだ。

「今週末は合同合宿なのに困っちゃうよね〜」
「……」

……確かに。今年は遥々宮城から参加校が一つ増えるらしい。こんな状態の木兎さんを見せてしまったら強豪校としての示しがつかない。更に黒尾さんは盛大にからかうだろうし、孤爪には試合中うまく利用されるだろう。

「赤葦どうしたらいいと思う?」
「……みょうじさんに協力してもらいましょう」

エースがこの状態のまま合宿を迎えるのは困る。このしょぼくれを治せるのはみょうじさんしかいない。


***(夢主視点)


告白を遮ってしまってから木兎くんの元気がない。今までニコニコしていた木兎くんが、私と目が合うと切なそうな表情をしてすぐに逸らしてしまう。そんな顔してほしくない。
私のせいだ。木兎くんがせっかく決意して告白しようとしてくれたのに、場所を改めてもう一回告白してほしいなんて……今考えるとなんてワガママなことを言ってしまったんだろう。

「なまえー、バレー部の子呼んでるよ」
「!」

バレー部という単語にドキリとしてしまった。教室の入り口を見るとそこに立っていたのは赤葦くんだった。赤葦くんは私と目が合うと軽く会釈をしてくれた。赤葦くんなら木兎くんから何か聞いているかもしれない。

「どうしたの?」
「実は、最近木兎さんの調子が良くなくて」

私が聞く前に赤葦くんは木兎くんのことを教えてくれた。あんなにバレーが好きな木兎くんが部活中も元気がないなんて……私はなんてことをしてしまったんだろう。

「ごめん、もしかしたら私のせいかも……」
「あ、いえ違います」
「えっ」
「アレはTPOを弁えなかった木兎さんが悪いので気にしないでください」
「え……え!?」

赤葦くんに事の経緯を説明しようとしたのに遮られてしまった。何故か全てを知っているような雰囲気だ。え、何で。

「ただ、このまましょぼくれたままでいられると試合に影響が出てしまうので……よかったら今度、差し入れでも持って来てくれませんか?」
「え……うん」

赤葦くんのお願いに戸惑いながらも頷いた。差し入れなんてお安い御用だけど、そんなことで木兎くんの不調は治るんだろうか。


***

 
そして2日後、明日から合宿というタイミングで差し入れを持ってきた。手作りクッキーなんて、重いと思われてしまうだろうか。でもこの前助けてくれた時のお礼もちゃんと出来てなかったし……好き、だし……。

「ぼ、木兎くんちょっといいかな……!」
「!」

バクバクと煩い鼓動を感じながら部活に向かおうとする木兎くんを引き留めた。まずはこの前のことを謝らなくちゃ。

「えっと……この前は話遮っちゃってごめんね。いきなりでびっくりしちゃって」
「……びっくり?」
「周りに人もいたから恥ずかしくて……」
「……んん?」
「こ、これ、良かったら……」
「!」

勇気を振り絞ってクッキーの入った紙袋を差し出す。木兎くんは目を丸くしながらも受け取ってくれた。

「明日から合宿なんだよね?」
「さ、差し入れ!?」
「うん」
「手作り!?」
「うん。あ、消毒とかちゃんとしたから……」
「めちゃくちゃ嬉しい!!」
「!」

今日の天気は雲一つない快晴。そんな空よりも、木兎くんの笑顔の方が清々しくて眩しかった。木兎くんの笑顔、久しぶりに見た気がする。木兎くんが笑ってくれるだけでこんなにも嬉しいと思えるなんて。

「あと、この前助けてくれたお礼も兼ねて」
「え? 俺何かしたっけ?」
「ふふふ」

やっぱりこの前のことも、きっと今までのことも、木兎くんからしたら助けたつもりはないみたい。

「木兎くんのそういうところ好きだなあ」
「!?」
「あっ……」

気付けばしみじみと感じたことがつい口から出てしまった。別に今のはそういうつもりで言ったわけじゃない。いやまあ、好きは好きなんだけど。木兎くんの反応を見る限り今更撤回できそうもない。

「みょうじさん俺のこと好きなの!?」
「!?」
「何だーー早く言ってよー!俺すっげー悩んだのに!」
「え、あの、木兎くん……」
「あ、赤葦だ!おーい、両想いだったーー!!」
「!?」
「……良かったですね」

木兎くんは私の溢した言葉を真正面から受け取って、全身で喜んでくれた。「両想い」という嬉しい単語に反応したのは私だけではない。ちょうど近くを通りかかった赤葦くんに向かって大声を出したものだから、半径5メートル以内にいる人全員の耳に入ってしまった気がする。

「すっげー嬉しい!!」
「木兎くん……」
「名前で呼んでいい!?」
「木兎さん落ち着いてください」

ひとまずこっちの恥ずかしさは置いておこう。元々木兎くんとのことは噂されていたし、隠したいと思ってるわけでもないし。

「木兎さん、みょうじさんに言わせっぱなしはよくないです。きちんと返事をするべきでは?」
「ハッ!そーか!そーだな!」

赤葦くんはいったいいつから居たんだろう。そう思わせる程、この状況を誰よりも理解しているようだった。確かにまだ木兎くんからの「好き」をはっきりと聞いていなかった。

「俺もみょうじさんのこと好き!みょうじさんの彼氏になりたい!……是が非でも!!」
「……うん」

成り行きで告白したような感じになってしまったけどそれで良かったのかもしれない。
木兎くんは私のヒーローだ。そんな木兎くんの彼女になれたのだから、これからは私も木兎くんの力に、支えになりたいと思った。……是が非でも。



( 2019.1-2 )
( 2022.7 修正 )

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