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- ナノ -
03

 
「なんか最近木兎ずっと調子悪くね?」
「……」

ここ最近木兎さんの調子が悪い。その不調は今までで一番長く顕著に現れて、先輩達もすぐに気付いた。原因はおそらくみょうじさんだ。と言ってもみょうじさんに非があるわけではない。
俺とみょうじさんは中学が同じで、みょうじさんの弟がバレー部の後輩だったからよく応援に来ていたのを見ていた。

「木兎に好きな子ができたあ?」
「マジ!?」
「おそらく……」

みょうじさんと木兎さんに接点があったこと自体昨日初めて知ったけど、木兎さんの様子を見てみょうじさんのことが好きなんだとすぐにわかった。

「誰?」
「みょうじなまえさん……同じクラスらしいです」
「みょうじさんって大人しい子だよな?」
「へー、意外!」
「でも恋してんなら浮かれそうなもんだけどな」
「それが少しややこしいことになってるようで……」

今思い出してみれば先週末の試合、木兎さんは絶好調だった。あれはみょうじさんが観に来てくれたからだったのか。
みょうじさんも多分木兎さんのことを好意的に思っている。別れ際に頬を染めて「かっこよかった」と絞り出した言葉は木兎さんへ向けたものだ。それを木兎さんは俺への言葉と勘違いしてしまっている。つまり、みょうじさんが俺のことを好きなんだと思い込んでしょぼくれているのだ。

「なるほど、それで常時しょぼくれモードか」
「めんどくせーな」
「はい」
「はっきり『はい』って言った!」

先輩で主将ではあるけどあえてはっきり言わせてもらう……面倒くさい。勝手な勘違いで恨めしそうな視線を向けられてもどうしようもないし、インターハイ全国大会まで不調が続くのは何としてでも避けたい。

「その木兎は?おせーな」
「少し遅れると連絡がありました」
「ちょ、おいアレ!」

木葉さんが部室の外に木兎さんを見つけたようで、見てみるとその隣にはみょうじさんがいた。

「赤葦あの子?」
「はい」

どうやらゴミ捨てを手伝っているようだ。みょうじさんの隣を歩く木兎さんは頬の筋肉がゆるゆるだ。初めて見る先輩達も一目瞭然で彼女が木兎さんの想い人だとわかった。

「木兎わかりやすッ!」
「顔緩みまくってんじゃん」
「好きオーラ出すぎ」
「てか普通にいい感じじゃん?」
「はい、俺もそう思います」

そう、おそらくふたりは両想いだ。それなのに変な勘違いをしてこじれるなんてじれったくて仕方がない。今週末にはまた試合があるし、このまましょぼくれモードが続くのは正直しんどい。逆に考えればもしみょうじさんとのことがうまく行けば、木兎さんは今までにない程絶好調になるだろう。

「……ちょっと行ってきます」
「え、マジで?」
「大丈夫?」

内気なみょうじさんと鈍感すぎる木兎さん……あまり外野がどうこう言う問題ではないけれど、このままじゃあ進展する気がしない。少しのきっかけは必要だ。


***


「木兎さん」
「!」
「あ、赤葦くん」

俺が近づくと木兎さんは嫌そうな微妙な顔をした。みょうじさんを俺にとられるのが嫌なんだろう。まったく見当違いな心配だ。

「今週末の試合の件で監督と確認しておきたいことがあるんですけど……」
「あ、そうなの?」
「ごめんね、私は大丈夫だから木兎くん部活行って」
「うん……」
「みょうじさん、予定が無かったらまた観に来てください」
「!」

俺がみょうじさんを試合観戦に誘うと木兎さんがあからさまに焦ったのがわかった。焦らなくて大丈夫ですよ、みょうじさんが見るのは木兎さん、あなたです。

「また木兎さんのかっこいい姿が見られると思うので」
「……うん」
「!」

こんな感じではにかんで頷かれたら、いくら鈍い木兎さんでもわかるだろう。みょうじさんの目に映っているのは自分だと。

「頑張ってね、木兎くん」
「お、おおう!!」
「……」

とりあえず今週末の試合の心配はしなくて済みそうだ。


***


「アッみょうじさんだ!」

部室を出た途端、遠目にみょうじさんの姿を見つけた木兎さんが叫んだ。よくこの距離で、しかも後ろ姿でわかるものだ。これが恋の力っていうやつだろうか。

「おー、あの子が木兎の好きな子かー」
「!? な、何で知ってんの!?」

何故木兎さんの好きな人を木葉さん達が知ってるかと聞かれれば……まあ俺のせいだけど、木兎さんを見ていたら誰でもわかるから時間の問題だ。

「一人だな……声かけてこいよ」
「え、いいかな!?」
「暗いし送ってってあげればいいじゃん」
「送ってあげたい!一緒に帰りたい!」
「俺ら邪魔しないから」
「いってらっしゃーい」

木兎さんにチャンス到来だ。もう勢いに任せて告白してしまえばいいのに。
それにしても……文化部のみょうじさんがこの時間に一人で帰ってることが少し気になった。暗い夜道を女子一人で帰るのは危険だ。まあ、木兎さんがいるから大丈夫だろう。


***(夢主視点)


「……」

どうしよう。委員会の仕事で珍しく遅くなってしまった。書道部に所属している私がこんな暗い時間に一人で帰るのは初めてだ。ただでさえ暗くて怖いのに、さっきから後ろをつけられている気がする。曲がり角でチラっとカーブミラーを見たら黒いコートを着たおじさんが見えた。昨日のHRで先生が変質者の目撃情報があったって言ってた。もしかしたらと思うと足が震えてきて、止まることも走ることもできずに私はひたすらフラフラと歩いていた。

「おーーいみょうじさーーん!!」
「!!」

一人でパニックになっていたら最近聞きなれた元気な声が私を呼んだ。振り返ると満面の笑顔で手を振る木兎くん。そして視界の端に黒いコートを着た人が手前の曲がり角へ足早に消えたのが映った。

「ぐ、偶然だナーー!」
「木兎くん……」
「!? え、なっ何で泣いてんの!?俺何かした!?ごめん!!」

いつもと変わらない木兎くんの笑顔にどれほど救われたことか。一気に緊張の糸が緩んで、安心した私は木兎くんの前で泣いてしまった。突拍子もなく泣き出した私に木兎くんが慌てふためく。違う、木兎くんのせいじゃないって説明したいのに、うまく言葉が出てこない。

「怖かった……」
「え!? 暗いの怖いの!?」

暗いのが怖くて泣いてるわけでもない。私はハンカチを顔に押し付けながら首を振った。子供じゃあるまいし、情けない。

「えーと……俺がいるから大丈夫!家まで送る!」
「……うん」

木兎くんの「大丈夫」はとても力強くて心強かった。木兎くんが一緒にいてくれるなら大丈夫だ。今だけは甘えて、家まで送ってもらおう。涙で滲んだ視界の中で、木兎くんだけがはっきりと見えた。

「焼き鳥食わない?それかおでん!」

お腹の音を掻き消してくれたり購買の人混みの中を誘導してくれたり、私は木兎くんに助けられてばかりだ。きっと木兎くんに人助けをしている自覚はないんだろう。なんて素敵な人なんだろう。私に笑顔をくれる木兎くんが、好き。



( 2019.1-2 )
( 2022.7 修正 )

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