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「#エロ」のBL小説を読む
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- ナノ -
02

 
「その時、いくら耳を……んん?」
「"澄ませても"」
「おおう、ありがとう!」
「いいえ」

隣の席のみょうじさんは優しくて頭が良い。「悩み」って漢字教えてくれたり、数学のわからない問題を教えてくれたり、今も現代文の読み合わせでわからない漢字を教えてくれるからいい人だ。

「"私は強く思った"」

それから、なんか声が綺麗。こう、透き通ってるって言うのかな?何でかはわかんないけどみょうじさんの声はいつまでも聞いてられると思った。

「……次木兎くんだよ」
「アッごめん! えーと……んん?」
「"是が非でも"」
「ありがとう!是が非でも手に入れたいと……」
「……?」
「是が非でもってどういう意味?」

読んでいてふと気になった。是が非でもってどういう意味だ?なんか響きがかっこいい。意味を理解して使いこなしたい。

「是が非でもっていうのは……えっと、辞書引いてみようか」

俺は辞書を持ってないからみょうじさんが電子辞書で調べてくれた。みょうじさん指細いな。バレーボール当たったら折れちゃいそう。

「出た。"なんとしてでも"……だって」
「へーー!」

じゃあこの文は「なんとしてでも手に入れたい」ってことか。

「なんかかっこいいな!俺は是が非でもを使いこなす……是が非でも!!」
「あはは、何それ」
「!」

俺が意気込むとみょうじさんは眉を下げて笑った。みょうじさんこんな風に笑うんだ。初めて見た気がする。可愛いな。

「ねえねえ、みょうじさんはバレー見るの好き?」
「え……嫌いではないかな」
「じゃあ今度試合見に来てよ!」

もっと笑顔を見せてほしい。俺がバレーしてるとこを見て笑ってほしい。そして出来れば、かっこいいって思ってほしい。……是が非でも!

「木兎ー、授業中にナンパすんなー」

気付いたら読み合わせの時間は終わっていてクラスのみんなが俺たちの方を見ていた。耳まで真っ赤になって恥ずかしがっているみょうじさんを見て、また可愛いなって思った。


***(夢主視点)
 

「なまえ、木兎に狙われてるんだって?」
「ち、違うよ!!」

最近こんな勘違いを色んな人からされている。もちろん「狙われてる」っていうのは物騒な意味合いではなく、こう、恋愛的な意味である。
そうは言われても、木兎くんは誰にでもあんな感じだと思う。私はたまたま隣の席になって話す機会が増えたっていうだけだ。

「まあ……木兎はナイよねー」
「ねー。デートで駄菓子屋に連れてかれそう」
「それね!」
「私購買寄ってくから先行ってて」
「おけー」

木兎くんと行く駄菓子屋さんがちょっと楽しそうだと思ったことは友達には言えず、私は話題を切り上げて一人購買へ向かった。
今日はお母さんが寝坊したからお弁当を持ってきていない。貰った500円以内でお昼ご飯を買わなければいけない。購買に行くのは久しぶりだ。

「……」

久しぶりで忘れていた……梟谷学園の購買の盛況ぶりを。どうしよう、もう入る隙間がないくらい人で溢れかえっている。だけどここに入っていかなければ今日のお昼ご飯にありつけない。私は意を決して人混みの中に一歩足を踏み入れた。

「おっ、みょうじさんも購買?」
「あ、うん」
「何買うの?」
「まだ決めてないんだよね」
「俺も!迷うよなー!」

いきなり隣に現れた木兎くんはその大きな体で人混みをものともせず掻き分けていく。会話ついでに私もその恩恵を授かって斜め後ろをついて行くと、すぐにおばちゃんの前まで来ることができた。

「おばちゃんコロッケパンと……あーどうしようかな! 焼きそばパンかカレーパンか……みょうじさんどっちがいいと思う!?」
「えっ」

自分が食べるパンを選んでいたら木兎くんに相談された。焼きそばパンかカレーパンか迷っているらしい。

「じゃあ、焼きそばパン……?」
「おう、そうする!」

私がとりあえず焼きそばパンを選んだら木兎くんは笑顔で頷いた。私なんかが木兎くんのお昼ご飯決めちゃって良かったのかな。多分どっちでもよかったんだろうけど。

「みょうじさん何買ったの?」
「カレーパン。半分あげようか?」
「エッいいの!?じゃあ俺の焼きそばパン半分あげる!」
「ふふ、ありがとう」
「!」

結局私は木兎くんが迷っていたカレーパンを買って、半分木兎くんにあげることにした。そしたら木兎くんは自分の焼きそばパンを豪快に割って私にくれた。豪快にちぎったから中身がこぼれ落ちている。それがまた木兎くんらしくて笑ってしまった。
うん、どう考えても木兎くんが私を狙ってるなんてありえない。これが木兎くんの通常運転なんだ。たまたま私が近くにいただけで、別に相手が私じゃなくても声をかけたしパンを半分こしたはずだ。

「……あ!明日の試合の時間知ってる?」
「うん。11時くらいだよね」
「そーそー!みょうじさん来てくれたら俺すっげー頑張れる気がすんだよね!」
「!?」

いやいや、別に私がいようがいまいが、木兎くんは頑張れるはずだもん。


***


木兎くんがあんなこと言うものだから意識してしまう。私が試合を観に来たら頑張れる気がするって、どういう意味ですか。私なんぞの存在が、木兎くんの調子に影響するっていうのか。それは何故なのか……という問答を延々と脳内で繰り返している。

「それ好きじゃん」

バレー部の試合観戦に誘った友達に相談してみたらあっけなく答えを出された。

「なまえはどうなの?木兎アリ?」
「え……そんな、いきなり言われても……」

まだ確定したわけでもないのにこんなこと考えちゃっていいんだろうか。木兎くんと付き合うなんて、いきなり言われても想像できない。

「まあ試合観たらなまえもはっきりわかるんじゃない?」
「え?」
「バレーやってる時の木兎ってね、けっこうかっこいいよ。惚れちゃうかも」
「!」

そんな友達の言葉は現実のものとなった。バレーしてる時の木兎くんはすごくかっこよくて、私は息を呑んで見入ってしまった。普段天真爛漫な木兎くんにこんなギャップがあるなんてずるい。
昨日の興奮が冷めなくて、私は今日ドキドキしながら登校した。木兎くんとどんな顔して会えばいいんだろう。昨日の試合の感想を言いたいけれど、面と向かって「かっこよかった」なんて伝えられる気がしない。

「あ! みょうじさん!」

正門から教室に行くまでには何て言うか決めようと思っていたら、靴箱の手前で木兎くんと遭遇してしまった。私に駆け寄る木兎くんの無邪気な笑顔が、昨日の試合で勝った時の笑顔と被って心拍数が上がったのがわかった。どうしよう、まだ心の準備ができてないのに。

「みょうじさん」
「あ……赤葦くん久しぶり」
「!?」

慌てていたせいか、木兎くんの隣にいた赤葦くんの存在に遅れて気づいた。

「赤葦のこと知ってるの!?」
「うん。中学同じで、弟がバレー部なんだ」
「大貴は元気ですか?」
「うん。赤葦くんにトスあげて欲しいから梟谷行くんだって意気込んでるよ」
「Aパスの練習もしとけって伝えてください」
「あはは」

赤葦くんのことは4つ下の弟が同じ中学のバレー部でよく懐いていたから知っていた。家に来た事も何回かある。すごく礼儀正しくていい子だ。

「昨日、試合観に来てましたよね」
「うん。すごかった!お疲れ様」
「ありがとうございます」

赤葦くんのおかげで少し緊張が和らいだ。ちょうど昨日の話になったし、この流れで「かっこいい」って言えそうな気がする。木兎くんをチラっと見て、声を振り絞った。

「か、かっこよかった…よ……」
「!?」
「……」

尻すぼみになってしまったけどなんとか伝えられた。恥ずかしすぎて木兎くんの顔はまともに見られず、半ば言い逃げのように私はその場を後にした。

「みょうじさん……赤葦のこと好きだったのか……」
(めんどくさいことに巻き込まれている気がする……)



( 2019.1-2 )
( 2022.7 修正 )

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