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04

 
来てしまった。ブラックジャッカルとRAIJINの試合に。一人で。
ネットを挟んだ同じコートに侑くんと角名くんがいる。侑くんばかりを見ていたあの頃が嘘のように、私は角名くんを目で追っていた。
まだまだ詳しいことはわからないけど、角名くんは相手のブロックを上手に避けて点を入れる時すごくいい笑顔を浮かべる。特に相手が侑くんだと顕著で、憤慨する侑くんに対して煽るようなことを言ってるんだろうなって場面もあった。楽しそうだ。バレー選手としての角名くんは、私の前の角名くんとはちょっと違うような気がした。かっこいい。
厳しい世界でプロとして頑張ってる人を私なんかが好きになっていいんだろうか。長年のファンを差し置いて、私なんかが角名くんの隣を歩いていいんだろうか。なんだか遠い存在のように思えて怖気付いてきてしまった。
多分私の気持ちは角名くんにとっくにバレていると思う。その上で「期待していいよ」という言葉を選んだんだとしたら、角名くんはやっぱり「性格捻くれてる」と言われても仕方ない。
私はそんな角名くんのことが好きだ。今日は角名くんの正体を知った上で、それでも一緒にいたいと伝えるために来た。直接言葉で伝えなくても私が姿を見せればきっと角名くんはわかってくれる。
試合はRAIJINが優勢で進んでいる。終わりが近づくにつれ私は緊張して落ち着かなかった。


***


「角名くん写真撮ってください!」
「はーい」

試合が終わるとファン達は推してる選手のもとへ走り、サインを貰ったり写真を撮ってもらったりといったファンサービスを受ける。角名くんはファン一人一人に対して丁寧な対応をしていた。
私は選手達を取り囲む人達とは少し離れて待機している。プロ選手としてファンサービスは大事な仕事だ。わかってはいても、やっぱり角名くんを遠くに感じて少し寂しいと思ってしまった。

「!!」

ファンの人達が疎らになってきて、角名くんが私の姿を見つけて目を丸くした。角名くんの驚いた表情は初めて見たかもしれない。
私に気付いてくれた角名くんは最後のファンに手を振ってから、私の方に来てくれた。

「来てたんだ……一人?」
「うん」

お互いにどことなくぎこちない。角名くんは私に素性を隠していたうしろめたさが、私は私で気付いていたことを隠してたうしろめたさがある。

「……侑の方行かなくていいの?」
「うん。今日は……角名くん目当てで、来ました」
「!」

一向に女の子の集まりが引かないその中心には多分侑くんがいるんだろう。賑やかな集団を横目で確認だけして、角名くんを……角名くんだけを目に映す。

「あー……いつ気付いたの?」
「この前のグリーンロケッツとの試合を観て……」
「そっか……怒ってる?」
「ううん。吃驚はしたけど……納得もしたというか……あ、これ良かったらどうぞ」
「ありがとう。……写真撮っとく?」
「いい。私……ファンでは、ないから」
「! はは、そうだよね」

私は角名くんのファンではない。バレー選手だから角名くんを好きになったわけじゃない。精一杯の勇気を振り絞って出した言葉の真意は、きっと伝わっただろう。角名くんの切れ長の目が柔らかく弧を描いた。その笑顔がファンの子達に対応していた時のものとは違うように見えてしまった私は嫌な女だ。

「今度ゆっくり話そうか。また連絡するよ」
「うん」


***
 

「どうも」
「お待たせ」

あれからすぐに角名くんから連絡が来て食事に誘われた。角名くんが予約したと案内してくれたのは私がよく行く居酒屋の個室だった。そういえばチケットを落として角名くんと出会うきっかけになったのもここだった。そう思うとなんだか感慨深い。

「角名くんもここの居酒屋よく来るの?」
「そんな頻繁じゃないけどね。ここでみょうじさんの会話盗み聞きしてた」
「えッ!?」

角名くんの素性以外にまだこんなカミングアウトが待っているなんて。アルコールが入った状態での会話なんて絶対ろくなもんじゃない。下ネタとか愚痴とかを角名くんに聞かれていたと思うと血の気が引いた。

「あ、あの、どんな……」
「侑のこととか、恋愛相談のこととか」

マジか。角名くんの前ではまあまあ猫をかぶっていたつもりだったのに、それさえも角名くんはお見通しだったということか。

「『期待してむかつくなら最初から期待しなきゃいい』っていう殺伐としたアドバイスが面白くてさ、どんな子なんだろうって気になってた」
「……」

恥ずかしい……でも、私の可愛くない性格を知った上で興味を持ってくれたことは嬉しいと思う。

「ちなみに侑はドSというよりただの人でなしだからオススメしないよ」
「そ、そうなんだ」
「うん」

ドS最高っていうくだりも聞かれてた……私の性癖までバレてるの、とんでもなく恥ずかしい。

「だから俺にしてよ」
「!」
「俺の方がみょうじさんの期待に応えられると思うんだよね」

それは、角名くんがドSということなんだろうか。なんとなく片鱗は見えていたけれど。今だって直接的な言葉を言わずに期待する私の反応を見て楽しんでいるように見える。

「それって……」
「俺には期待していいよって言ったよね?」

私の期待に角名くんが応えてくれるんだったらこれ以上嬉しいことはない。でもやっぱり、女っていうのは言葉が欲しい生き物だ。

「期待、しちゃってるから……答え合わせしてほしい」
「好きだよ」

勇気を出して求めたら、角名くんは拍子抜けするくらいあっさりとその言葉を与えてくれた。これでようやく安心できる。期待しちゃいけないというストッパーが外れて、角名くんが好きだという気持ちがぶわっと湧き出してくる。もう抑え込む必要はない。

「私も、角名くんが好き」

好きという2文字に、めいっぱいの期待を込めて。



( 2020.4-5 )
( 2022.7 修正 )

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