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- ナノ -
05

 
「国見くんとカラオケとか、変な感じ」
「歌いませんけど」

その日はまっすぐ家には帰らずカラオケに寄った。国見くんの選曲と歌声が気になるところではあるけれど、もちろん今から歌うわけではない。部屋に入るなり国見くんはモニターの音を消した。カラオケを選んだのは今からする話を誰にも聞かれないようにするためだ。

「昨日、アイツに何されたんですか」

早速本題に入る。もう今更隠し通すことはできない。国見くんにこれ以上迷惑をかけたくなくて突き放そうとしたのに、結局国見くんの優しさに甘えてしまっている。

「帰ってきたところで後ろから襲われて……そのまま……」
「……最後までされたんですか」
「ううん、今生理だから……」
「……」

具体的に何をされたかは言えなかった。口に出すのが嫌だった。言わなくても容易に想像できるだろうけど。
国見くんの表情は険しく、小さな個室に重苦しい雰囲気が充満した。隣の部屋から洩れる軽い曲調のポップスが皮肉に聞こえてくる。

「何で俺に連絡しなかったんですか」

国見くんは私が昨日のうちに連絡をしなかったことに対して怒っているみたいだった。
実際に国見くんのことは常に頭にあったし、あの人が帰った後も会いたくて仕方がなかった。でもこれ以上迷惑をかけられない。以前匿ってくれたことで国見くんの家も知られてしまっている。国見くんにまで危害が及んでしまう可能性があるのなら、これ以上関わってはいけないと思ったのに。

「だって、国見くんは……」
「恋人じゃないからですか?だったら恋人にしてください」
「なっ……ダメだよ、そこまで迷惑かけられない」
「俺が同情で恋人になりたいって言ってるとでも思ってるんですか?」

同情以外の理由なんてひとつしかないと思うんだけど、まさかそれだって言うんだろうか。私が国見くんを好きになるのは自然な道理として、国見くんが私を好きだなんてとても信じられない。

「好きな人以外にキスしたいとか思いません」
「でも……」
「好きです」
「!」

ついにはっきりと言われてしまって言葉に詰まった。
今までの国見くんを見てきて、適当な言葉じゃないことくらいわかっている。昼間のキスはとても慈愛に満ちていて、優しくて、温かかった。私だって好きな人以外にキスなんてされたくない。

「幻滅しましたか?俺だって周りの男と同じように下心はあります」
「……」

幻滅だなんてとんでもない。むしろ国見くんのような無気力な男性が、私に対して下心を抱いてるという事実が嬉しい。

「みょうじさんはどうなんですか」
「……国見くんみたいな人に優しくされて落ちない女はいないと思う」
「はっきり言ってください」

直接的な言い方ができなかった私を国見くんが諫めた。本当、これじゃあどっちが年上かわからない。いや、年齢なんて関係ない。私は今目の前にいる、国見英という男性が好きなんだ。

「好き」
「はい、俺も好きです。付き合いましょう」
「……うん」

こうして私と国見くんは名実ともに恋人同士となった。


***
 

会社の後輩、国見くんと本当に恋人となって1ヵ月くらいが過ぎた。
ストーカーは警察と協力して現行犯で捕まえることができた。裁判沙汰にはしたくなかったから示談となり、彼が私の前に現れることはなくなったけど、念のためしばらくは英の家で過ごすようにしている。呼び方もお互い名前で呼ぶようになり、英の敬語もすっかりとれた。交際は順調だ。

「明日高校の部活の同窓会あるから飯いいよ」
「うん、わかった。バレーだっけ?」
「うん。話したっけ?」
「履歴書見てるからね。青城のバレー部って強いんでしょ?」
「まあ」

キスをしたり手を握ったり、恋人らしい愛情表現はしてくれているけど決して体は触ってこなかった。
中学の時付き合ってた人に無理矢理されて以来、そういう行為に恐怖を感じるようになってしまった。高校と大学の時もそれぞれ恋人はできたけど最後までセックスは出来なかった。その事情を知ってるから、気を遣ってくれてるんだと思う。

「ねえ」
「ん?」
「しよっか」
「……ッ!?」

でも、英となら大丈夫という自信があった。今まで散々弱いところを見せてきて、英はそれを受け入れてくれた。今更弱みを見せたくないなんて考えないし、英は私を傷つけるようなことはしない。
私から誘われるなんて思っていなかったのか、英は飲んでいた麦茶を軽く噴き零した。こんなに動揺するなんて珍しい。

「え……何、急に」
「急かな?もう1ヵ月経つよ」
「俺に気を遣ってるんだったやめて」
「そんなんじゃない」
「俺そこまで性欲強くないし」
「違うの!」
「……」
「私が、したいの」

恋人になって同じ部屋で暮らしてきて、我慢をさせてしまってるなと感じ取る瞬間は何回もあった。英のためじゃなくて、私がしたいと思うからしたい。そこを勘違いしてほしくなかった。

「ん……」
「わかった」

軽いキスをした後の英は雰囲気が変わっていた。いつもは眠たそうな瞳の奥に、ギラリと熱い何かを感じて息を呑む。

「優しくするけど、やめてほしかったら序盤で言って」
「大丈夫だよ」
「気持ち良かったら気持ちいいって言って」
「え……」
「不安になるから」
「わ、わかった」
「……もっとしてとかも言ってくれたら燃える」
「ふふ、何それ」

最後のリクエストは私の気を紛らわす為の蛇足だ。英が燃えてる姿なんて想像できないけど。
腰を抱き寄せられた瞬間、英なら絶対大丈夫だと確信した。



( 2019.11-2020.1 )
( 2022.7 修正 )

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