×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
04

 
みょうじさんとは順調に仲良くなれている気がする。
合宿最終日に連絡先を聞いたものの頻繁に連絡をとっているわけではない。特にやりとりをしていなくても、いつの間にか部活がある日は放課後に校舎裏で会うのが日課になっていた。ここにいればまたみょうじさんに会えるかもしれないという安直な考えだった。うたた寝するのに使っていた場所なのに、あの日以来ここでうたた寝することはなくなった。
HRが終わって部活が始まるまでの約十分間、お菓子を食べながら談笑する。みょうじさんがいつも持ってくるのは大体チョコレートやクッキーなどの甘いもの。正直、塩キャラメル以外で普段お菓子は食べないし、チョコみたいにただ甘いだけのお菓子は好きではない。もちろんそんなことみょうじさんには言えなくて、貰ったお菓子はほとんど食べずに机の上に置いてある。俺の場合はこれで幸せだから問題ない。どんどん増えていく包み紙は、みょうじさんとの親密度を現してるみたいで見ると気分が上がる。

みょうじさんと一緒にいたいがために、俺は嘘をついてばかりだ。
テスト週間は部活がないからみょうじさんと会えなくなる。どうにかできないかと思って勉強を教えてもらうことにした。英語を教えてほしいと頼んだのはみょうじさんが得意と言ったから。俺が苦手だからではない。むしろ英語は得意な方だ。目的はみょうじさんと会うことだから教科はどれでも良かった。
放課後2人で図書館で勉強するなんてデート以外の何でもない。変に気合いが入ってしまって前日あまり眠れなかったせいか、当日はいつの間にかみょうじさんの隣で寝てしまっていた。寝顔をみょうじさんに見られたのが照れ臭くて、仕返しをしようと「食べかすがついてる」なんて嘘をついた。流れで口元に手を伸ばしたら意図せず唇に触れてしまった。その感触と、真っ赤になったみょうじさんの顔が忘れられない。
テストが終わった今日、どんな顔をしてみょうじさんに会えばいいかわからない。

「テストどうだった?俺現代文やばいかも」
「……普通」

そしてこういう時に限ってHRが長引いて、途中で会った金田一と一緒に部活に向かうことになってしまった。みょうじさんは今日もあのベンチにいるだろうか。待たせてしまっていたら申し訳ない。

「あ……」
「……ちわ」

そう思っていたら校舎裏に行くまでの廊下でみょうじさんに遭遇した。待たせていなくてよかった。日誌を手に持ってるから日直なのかもしれない。

「テストどうだった?」
「英語、良い点取れました。ありがとうございます」
「ほんと? よかったー……って、私大して教えてないんだけどね」
「そんなことないです」

思いの外みょうじさんは普通だ。唇に触れたこと、何も思ってないんだろうか……いやそんなはずはない。あの時みょうじさんの顔は真っ赤だった。

「国見、お前英語得意じゃなかったっけ?」
「えっ」
「……」

空気を読めない金田一のせいで嘘がひとつバレてしまった。困惑の色を浮かべたみょうじさんがゆっくり俺を見た。そりゃそうだ、得意な教科なら教えてもらう必要はない。

「……そういうことなんで」
「……!?」

言い訳はしない。その意味をみょうじさんに考えてほしいから。徐々に頬を染めるみょうじさんに淡い期待を抱いて、俺はその場を離れた。

「悪い、余計なこと言った?」
「まあ……結果オーライ。いい加減意識してほしかったし」

想定外ではあったけどいいきっかけになったのかもしれない。金田一を責める気はない。机の上の包み紙が山積みになるまで、なんて悠長なことは元々考えてなかったし。


***(夢主視点)


国見くんは英語が苦手と言ったけれど、それはどうやら嘘らしい。何故そんな嘘をつくのか……それを考えた時、もしかして私に勉強を教えてもらうためなんじゃないかと思ってしまった。こんな解釈、自意識過剰だ。しかし国見くんの「そういうことなんで」という意味深な言葉がまた私に期待を抱かせる。おかげさまで私はこの土日と部活のない月曜日の3日間、国見くんのことばかりを考えて悶々としていた。
今日は3日ぶりに国見くんに会うことになる。私はドキドキしながら放課後いつもの校舎裏に向かった。

「あ、来た来た!」
「!」

いつものベンチに座っていたのは国見くんではなくて及川さんだった。

「その残念そうな顔やめて、傷つくから」
「え、いやそんなつもりは……」
「ごめんね? 国見ちゃんじゃなくて」
「!」

及川さんに言われたことは図星だったため何も言い返せない。実際に私は国見くんに会いたくてわざわざ校舎裏を通ったのだから。
合宿の時も思ったけど、及川さんはチームメイトのことをよく見て理解している。観察眼の鋭い及川さんからしたら私の気持ちなんてお見通しのようだ。

「国見ちゃん風邪引いちゃったから今日は来れないよ」
「あ、そうなんですね」
「お見舞い行く? 家教えてあげようか?」
「い、いいです行きません!」

どうやら及川さんは国見くんが今日お休みだということをわざわざ伝えに来てくれたらしい。心配ではあるけれどいきなりお見舞いに行ったら驚かれるし、本人のいないところで個人情報を聞くわけにはいかない。

「いつもここで国見ちゃんと逢瀬してるの知ってたからさ」
「逢瀬って……お菓子食べてるだけですよ」

要件は終わったはずなのに及川さんに立ち上がる気配はなく、自分の隣をぽんぼんと叩いて私に座るよう促した。断るわけにもいかず国見くんの時より多めに距離を空けて座る。及川さんと話すのは久しぶりだからなんだか緊張してしまう。整った顔でまっすぐ見られたら余計なことまで喋ってしまいそうで怖い。

「へーえ……お菓子って、どんなの食べてるの?」
「え? チョコとかクッキーですけど……」
「国見ちゃんってあまり甘いもの好きじゃないよ」
「え!?」
「塩キャラメル以外のお菓子食べてるの見たことないかも」

及川さんと国見くんは中学からの付き合いって言っていたから、間違った情報ではないんだと思う。嘘をついたのは多分、国見くんの方。何でそんな嘘をつくのか今一度考えてみる。頭に浮かぶ憶測は全て私の都合の良いものだったけど、国見くんの言動を振り返ってみると打ち消すことはできなかった。

「なまえちゃん顔赤いよ」
「だって……」

今ここにはいない国見くんを想って顔を赤くする私に、及川さんは優しく笑いかけてくれた。
国見くんが好き。元気になってまたここで会う時には、伝えられるだろうか。


***(国見視点)


このタイミングで風邪を引くなんて俺はバカだ。
思わせぶりな言葉を残したはいいものの、土日と月曜日を挟んだ上に風邪をひいて、もう4日もみょうじさんに会えていない。4日も空いたらきっと印象も薄れてしまう。みょうじさんの中で変に解釈して、俺なりに攻めた言葉の効果が弱まってしまったら困る。
風邪をひいたとみょうじさんに連絡を入れようとは思っていたけど、文面に悩んでいたらいつの間にか寝てしまって起きた時には放課後の時間だった。すぐに手に取ったスマホにはみょうじさんから風邪を心配する内容の連絡が来ていた。及川さんから聞いたらしい。画面に映し出される文字でさえ大切に思えたのは、熱に浮かされたからだったのか。

翌日、風邪はすっかり治って登校することができた。土日を挟んだせいか久しぶりな気がした。昨日あれだけ寝たのにやっぱり授業中は眠くなるから不思議だ。けど、放課後に近づくにつれ俺の意識は冴えていく。何故ならみょうじさんに会えるから。
4日ぶりにみょうじさんに会えることに俺はけっこう浮かれてしまっているらしい。昼飯を買うついでに普段だったら絶対買わないチョコレートを買ってしまった。みょうじさんが好きそうだなと思ったら無意識に手に取っていた。

「国見くん大丈夫?」
「はい。久しぶりですね」
「うん」

放課後、いつものベンチに座って他愛のない話を始める。久しぶりに会ったみょうじさんはめちゃくちゃ可愛く見えた。女子の身だしなみってあまり注目したことがないから、前とどう違うかは説明できないけど。

「みょうじさんがスナック菓子買うなんて珍しいですね」
「……」
「?」

今日名字さんが持ってきたのは珍しいことに甘くないお菓子だった。いつもチョコとかクッキーばかりなのに。何気ない会話の流れでなんとなく出た俺の言葉に、みょうじさんは何故か固まってしまった。

「国見くん、甘いのあまり好きじゃないって……及川さんに聞いて……」
「!」

その理由をみょうじさんは気まずそうに視線を泳がせて答えてくれた。
なるほど……昨日及川さんが余計なことを言ってくれたってわけね。またひとつ、みょうじさんについていた嘘がバレてしまった。確かに俺は甘すぎる食べ物は好きではない。塩キャラメルはあの塩っけがクセになるってだけだ。

「別に、嫌いなわけじゃないっすよ」
「でも普段食べないんだよね?」
「まあ…… みょうじさんがくれるものなら何でも嬉しいんで」
「!」

どうせ俺の気持ちはバレているから変に繕う必要はない。嘘をついてまで好きな人のそばにいたいと思うなんて、滑稽に思われてしまうだろうか。

「私は……国見くんの笑った顔が好き」
「!?」

『好き』。俺が言おうとしてた二文字を先に言われてしまった。せっかく覚悟を決めて来たのになんてことをしてくれるんだ。

「えっと……」
「俺も、みょうじさんの笑った顔好きです」
「!」
「驚いた顔も、緊張した顔も、恥ずかしそうな顔も、全部好きです」

感情の起伏はあまりなくても負けず嫌いではある。じゃなきゃこんな体育会系な部活とっくに辞めてるし。
俺がみょうじさんから貰った嬉しさや照れくささを全部倍にして返してやりたいと思った。俺の思惑通りみょうじさんの顔は真っ赤に染まっていく。可愛い。

「俺と、付き合ってくれませんか」
「私でよければ……お願いします」

告白を受けることはあっても自分から告白するのはこれが初めてだった。すごく勇気の要る行動だと思う。好かれている自信はあっても、もしフられたらと想像すると怖かった。俺の人生初めての告白に力いっぱい頷いてくれたみょうじさんのおかげで全てが報われた。

「……」
「……」

二人して赤い顔で無言になる。この後は、どうすればいいんだ。照れ臭さと嬉しさと気まずさが入り混じってなんかもうよくわからない。とりあえず手持ち無沙汰な手で今日買ったチョコレートの箱を開けた。

「チョコ食べますか?」
「え、うん。国見くんがチョコ持ってるなんて珍しいね」
「…… みょうじさんのために買いました」
「!」

もう嘘をつく必要はない。みょうじさんの笑顔が見たくて買ったんだと正直に打ち明けると、みょうじさんはふにゃっと笑って「ありがとう」と紡いだ。つられて俺の口元も緩む。
これからもっとたくさんの笑顔を見せてほしい。チョコなんか用意しなくてもこの笑顔を向けてもらえる男にならなければ。

「無理して食べなくてもいいよ……?」
「無理してないっす」

なんだか今日は俺もチョコレートが食べたい気分だ。



( 2019.3-4 )
( 2022.5 修正 )

[ 4/127 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]