×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
02

 
大学の友人に別れたことを報告したら親身になって話を聞いてくれて、街コンに誘ってくれた。初めて行った街コンは何だか異様な雰囲気で、終わった後妙に気疲れしてしまった。何人かと連絡先を交換してアプローチを受けたけどみんなピンとこなかった。何ていうか、もっとこう……スマートにリードしてほしいんだよなあ。高望みなんだろうか。
恋人に割く時間が0になって、私の一日の大半を占めるのは案の定仕事になった。赤葦さんが担当してるのは法人の上顧客ばかりだ。酸いも甘いも経験してきたであろう大人の話は、うちの部長の何倍も面白いと思ったし、そんなお偉いさん相手に物怖じせず商談をする赤葦さんはめちゃくちゃかっこよかった。もう赤葦さんが部長になってほしい。

「異業種交流会……」

今日お話しした社長さんは気さくな人で、別れ際に私達を異業種交流会に誘ってくれた。人脈を広げるためにいろんな業種の人が集まる場。今までに私も何回か誘われたことはあったけど、めんどくさくて断ってきた。

「異業種交流会って、私一回も行ったことないんですけどどうなんですか?」
「……まあ、いろんな人がいるからいい経験にはなると思うよ」
「へー。赤葦さん行きます?」
「うん」

赤葦さんと一緒に外回りをするようになって、いろんな人の話を聞くのは面白いと思えてきた。一人で行くのは心細いけど、赤葦さんがいるんだったら行ってみようかな。何事も経験だ。

「みょうじは無理に来なくてもいいよ」
「いや、赤葦さんがいるなら行きます」
「……そう。たまにクセ強い人もいるから気を付けて」
「はい」


***


誘ってもらった異業種交流会は比較的ラフな雰囲気のもので、立ち飲みバーを貸し切りにしてお酒を交えて各々談笑している。正直この前の街コンよりは全然こっちの雰囲気の方が馴染める気がした。
貰った名刺を見てみると中小企業の社長とか役職付きの人が多い。始まって1時間くらい経っただろうか。なんとなく雰囲気もわかったし、そろそろ帰ろうかな。向上心のない私が長居するのは申し訳ない。

「みょうじさん、テキーラ飲んだ?」
「いえ、そんなに強くないので……」
「ここのは飲みやすいよ。ほら、これだけだしちょっと飲んでみなよ」
「いやー……」

赤葦さんにだけ断って帰ろうとしたら、最初の方に名刺交換をした人がテキーラのショットグラスを私に押し付けてきた。テキーラの飲みやすさがわかる程私はお酒が得意ではない。というか飲みやすいテキーラなんてあるわけがないと思っている。過去に一口だけ飲んだことがあるけど喉が焼けるような感じがした。

「みょうじさん今いくつ?」
「26です」
「いいねー若いねー。若いうちは何事も経験だよ。ほらほら」
「あはは……」

いやもう経験してるんで大丈夫です、と軽くあしらいたいけど名刺交換をした以上無下に扱うこともできない。ていうかこの人やけに距離が近い気がする。

「彼女にはもう相手がいるから無理ですよ、稲田さん」
「!」

目の前にグラスを置かれて帰るに帰れないでいると、そのグラスをひょいと手に取って一気に口に流し込んだのは赤葦さんだった。稲田さんと呼ばれた人は赤葦さんの飲みっぷりに気を良くして少し自慢話をした後解放してくれた。やばい、赤葦さんがかっこよすぎる。


***


「赤葦さん、大丈夫ですか?」
「喉が熱い……」
「お水どうぞ!」

しかし赤葦さんもお酒にめちゃくちゃ強いわけではないみたいだ。ふたりで会場を抜けた帰り道、最初こそ平然としていたものの、駅の近くまで来ると赤葦さんは気持ち悪そうに顔を歪めてベンチに座ってしまった。私はすかさず自販機で水を買って差し出した。これくらいしか出来ない自分がもどかしい。

「ごめんなさい、私がうまく断れなくて……」
「いいよ。あの人いつも女の人にお酒飲ませて持ち帰ろうとするんだよね」

私を助けるためにテキーラを一気飲みさせてしまったことが申し訳なさすぎる。一方で身を挺して護られたことが嬉しいと感じてしまってる女の私が腹立たしい。いやでもあんなことされたら普通ときめくと思う。

「あー……慣れない酒の飲み方はするもんじゃないね」

ネクタイと上着を脱いでほろ酔いの赤葦さんは会社で見る赤葦さんと違って新鮮だ。少しだけ赤葦さんの素が見られた気がする。そのことにまたときめいてしまってる私はもっと反省した方が良い。


***

 
今月もあっという間に月末がやってきた。月末にいろいろな処理に追われるのはきっとこの会社だけではないはずだ。それでももうちょっと賢いやり方があるんじゃないかとは思う。最新のソフトとか導入してれば残業も減らせるのに。ケチ。
今日は朝からずっとパソコンに向かっている。基本的に私はデスクワークが嫌いだ。しかしやるしかない。代わりにやってくれる人なんていないのだから。

「みょうじ、目が死んでる」
「赤葦さん……」

今日は21時過ぎコースだなと考えていたら私のおめめはお亡くなりになっていたらしい。赤葦さんの前で女子にあるまじき顔面を晒してしまった。

「もう終わったんですか?」
「うん」

私を含め同じフロアの社員がひいひい言ってる中、赤葦さんはこのおすまし顔である。なんと定時に近いこの時間に月末処理を全て終わらせていると言う。

「何でそんなに早くできるんですか……」
「月末前にちょっとずつやってるからかな」
「え、ずるい」
「賢いって言ってよ」

一緒に仕事をする前は、赤葦さんは仕事ができる人だから真面目で会社に忠実な人だと思っていた。けれど実際近くで見てみると程よく手を抜いてるし、愛社精神はほぼないことがわかって親近感を覚えた。
先日一緒にお酒を飲んだこともあって、前よりも仲良くなれた気がする。"アルコールはコミュニケーションの潤滑油"……部長の言葉でなるほどなあと納得したのはこれくらいだ。

「そこの入力、式設定すれば勝手にやってくれるよ」
「え、まじですか」
「貸して」

カチカチとエクセルを操作していると後ろからマウスを奪われた。耳のすぐ後ろに赤葦さんの気配を感じる。まるで背後から抱きしめられてるかのようなシチュエーションにドキドキが抑えられない。

「……ありがとうございます」
「うん。あと少し頑張れ」

そして去り際には私の机にチョコレートを置いていってくれた。何なのもう、赤葦さん私をどうしたいの?単純な私は簡単にやる気が出て、過去最速で月末処理を終わらせた。



( 2018.11-12 )
( 2022.6 修正 )

[ 50/127 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]