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- ナノ -
04

 
(角名視点)


「昨日どうだった?」

朝練で治を見かけて開口一番に聞いた。

「……相合傘した」
「おおー」

治はこういうこと自分から話すタイプじゃないけど聞けば普通に答えてくれる。昨日の夜に侑から大した進展はなかったって連絡貰ってたのに、なかなか青春してるじゃん。ろくな恋愛してきてない侑にとっては大したことなくても、治にとっては大きな進展だったんだろうな。この嬉しそうな顔をみょうじさんにも見せてあげたい。

「めっちゃやばかった」
「何が?」
「みょうじさんな、めっちゃちっさいねん」
「ああ、うん」

いや、治からしたら大抵の女子は小さい。突っ込みたくなったがグッと堪えた。

「ちっさいくせに自分が傘持とうかとか言ってくんねん。めっちゃええ子」
「……」
「みょうじさんの頭がここにあって……どうにかなるかと思った」

今日はよく喋るな。それ程昨日の出来事にテンションが上がってるってことだろう。清々しい程の惚気だ。

「で?」
「おん?」
「『俺んち寄ってかない』くらい言わなかったの?」
「言えるわけあるかアホ」
「せっかくのチャンスだったのに」
「付き合うとらんのに、そんなんあかんやろ」
「じゃあ告ればいいじゃん」
「……」

そんなに好きなんだったらもう告白しちゃえばいいのに。
最近は人目を気にせずアピールしてるみたいだけど、正直何を躊躇っているのかがわからない。みょうじさんは治の気持ちを知っている。満更じゃなさそうだったし、そもそも治からの告白を断る女子なんているのかと思う。
侑とセットでチャラいと思われがちな治だけど案外こういうのは慣れてないらしい。何もしなくても女子が寄ってきてたから自分からアタックすることに慣れてないのかもしれない。好きな子に対して真摯で奥手なんて、また治の株が上がっちゃうじゃん。

「付き合いたいんでしょ?」
「うん。付き合いたい。めっちゃ好き」

本人がいないところではこんなはっきり言えるのに。
軽く呆れていると、部室棟の影から物音が聞こえた。ころころと野球のボールがひとつ転がっているのも見えて、そこに隠れている人物に見当がついた。

「……それ、本人の前で言いなよ」
「そんな……」
「邪魔者はどっか行くからさ」
「は……」
「ね、みょうじさん?」
「!?」

壁の向こうにはやっぱりみょうじさんが隠れていた。我ながらいいアシストをしたものだ。ここまでお膳立てしておいて告れなかったら治はヘタレ決定ってことで。


***(治視点)

 
「い、いつから……」
「ごめん……結構、最初から……」

あかん、終わった。角名に昨日のこと話してるの、みょうじさんに全部聞かれてた。さっきはっきり「めっちゃ好き」とか言ってまったし、その前も結構キモいこと言ってた気がする。

「あ、昨日はありがとう」
「え、あ、うん。朝練?」

だってこの時間におるなんて思わんやん。野球部もよく朝練してるけどマネージャーも来るもんなんか。

「いつもは来ないんだけど……治くんに昨日のお礼を渡そうと思って……」
「!」
「教室だとちょっと渡しにくいから、朝練の時なら大丈夫かなって、思って……」

お礼なんていらんのに。むしろ昨日の相合傘は俺の方こそお礼を言うべきだと思う。みょうじさんが俺のために朝早く起きて来てくれたっていう事実だけで嬉しすぎる。あかんニヤけてまう。

「部室にあるから取ってくるね」
「ええよ、そんなんいつでも渡してくれれば」
「!」

この場を離れようとするみょうじさんを引き留めた。例えそのお礼がどんなにうまいチョコレートだったとしても、今はもっと大事な話をするべきや。人目なんて気にせず、教室だろうがどこだろうが渡してくれればええ。

「俺、みょうじさんのことめっちゃ好き」
「!」

角名にここまでお膳立てしてもらって何もなしでは帰られん。そもそも俺がみょうじさんのこと好きなことはバレバレだったわけやし。角名の前ではすんなり言えた言葉も、本人を前にしたらめちゃくちゃ緊張した。

「付き合うてほしい」

告白すんのなんて初めてだから他にどんな言葉を付け足せば女子がぐっとくるのかわからなくて、ただ自分の願望を押し付けることしかできなかった。

「あ、あのね!実は……前にここで、治くんが私のこと好きって盗み聞きしちゃって……」
「……エッ」

めちゃくちゃ緊張して返事を待っていると、みょうじさんからとんでもない事実を聞かされた。思い当たる節はある。ここで侑と角名に好きな子おるんかと問い詰められたのは先月の頭くらいや。
てことはみょうじさん、打ち上げの時より前から俺の気持ちに気付いとったってことか。確かに急によく目が合うようになったとは思っとったけど。

「ごめん、ズルいよね……治くんの気持ちを知っといて……。で、でも最初は本当に信じられなくて……」
「……」
「あまり話したことなかったし、正直今でも何で私なんかをって不思議で……」

まあ盗み聞きをしたのは俺の方が先だし、そこについて咎める気はない。むしろその結果俺を意識してくれたんだったら万々歳や。

「治くんに助けてもらった時嬉しかったし、治くんから貰ったチョコとか勿体なくて食べられんかったし、昨日の相合傘も心臓口から出る程緊張した」

みょうじさんの真っ赤な顔をガン見しながら一言一句聞き逃さないように集中する。途中からいい返事がもらえるんじゃないかと、どんどん期待が高まっていく。

「なんか、後出しな感じでズルいんやけど……私も治くんのこと好き」
「……ほんま?」
「うん」
「付き合うてくれるん?」
「うん」
「彼女になってくれるん?」
「うん」

みょうじさんは俺の彼女になってくれるらしい。マジか。めちゃくちゃ嬉しい。こんな幸せなことあってええんかと、何度もみょうじさんに確認した。何度も頷いてくれたみょうじさんを見てじんわりと実感して、次から次へと願望が湧いて出てきた。みょうじさんといろんなとこに行きたいし、一緒に美味いもんをたくさん食いたい。早く、みょうじさんは俺の彼女なんやでって周りに示しつけたい。

「朝練、50分に切り上げるから教室一緒に行こ」
「……うん」



( 2020.7-8 )
( 2022.6 修正 )

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