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03

 
「おはよう」
「!? お、おはよ……」

月曜日の朝、治くんから挨拶をされて何事かと思った。この前の打ち上げで前よりは仲良くなれたとは思うけど、そんなに近くもない私の席にわざわざ来て挨拶をしてくれたことに違和感を感じた。

「……チョコ食う?」
「え……」
「あげる。これ美味いねん」
「あ、ありがとう」
「うん」

しかも挨拶だけで終わらなかった。チョコを貰った。スーパーやコンビニで売られてる大袋に入ってる中のひとつ。私もこのチョコ好き。いくらでも話題は膨らませられたはずなのに、チョコを受け取った私を見て満足げに微笑む治くんが可愛くて、お礼しか伝えられなかった。
自分の席へ戻っていく治くんの背中を呆然と見送る視界の端で、クラスメイトの「何事や」という視線を感じた。私もそう思う……何事や。


***


「治くんの好きな人、みょうじさんらしいよ!」
「えー意外!」
「また治くんの好感度上がったわ」

それから治くんに話しかけられることが明らかに増えて、治くんが私のこと好きかもしれないという噂はあっという間に広がっていった。
噂に対して男子達にからかわれても治くんは飄々としていて、それでも絶対否定はしなかった。女子達の間では治くんの好感度が爆上がりらしい。友達に「人気アイドルが一般人と付き合うみたいなもん」と言われて納得した。いや、付き合うとらんけど。

「治くんと仲良かったん?」
「ううん、全然話したことなかった」
「じゃあ何で?」

治くん効果は凄まじくて、そこまで仲良くもない子からも根掘り葉掘り聞かれる。何でって、そんなの私が教えてほしい。治くんに好かれてるのはもちろん嬉しいけど、私のどこがいいのか……それが最大の謎だ。治くんに気に入ってもらえる要素なんて、自分でも見当がつかない。

「一昨日の打ち上げで中田くんから助けてくれて……」
「あー、あのチャラ男ね」
「そういえば最近来おへんね」
「うん。治くんのおかげかも」
「中田を諦めさせるためとか?」
「な、なるほど……」

確かにそれは一理ある。治くんは優しい人だから、中田くんをうまく断れない私を可哀想に思って助けようとしてくれてるっていうのはありえそう。

「そんなんちゃうわ」
「「「!?」」」

私の中でしっくりきた答えを通りがかりの治くんがあっさり否定してきた。

「……また明日」
「あ、うん」

そして赤い顔で私だけの目を見て手を振ってくれた。そんなんされたら、特別なんだと自惚れてしまう。


***(治視点)

 
土曜日の部活帰り、侑と一緒にタカった結果アランくんがアイスを奢ってくれることになった。ちゃっかり角名もついてきて4人で最寄りのコンビニに向かう。何食おうかな。カリカリ君普通に好きやけど奢りならもうちょい高いやつにしたろかな。

「そういえば治、好きな子できたんか?」
「え、何なん」
「なんかクラスの女子が騒いどった。『恋する治くんがかわええ』って」
「まあ……」

俺がみょうじさんのこと好きって噂が出回っとるのは知ってた。覚悟決めてから人目なんて気にせずみょうじさんに話しかけとるし。まさか3年生のところまで浸透してるとは。高校生の情報網やばいな、ガバガバやん。別にええけど。

「まだ付き合うとらんの?」
「アランくんからも言ってやー!コイツもったもたしとんねん!」
「喧しいわ」
「まあ元々接点なかったしね。てか何でみょうじさんなの?」
「そうそれ!顔もおっぱいも普通やん」
「……別にええやろ。ほっとけ」

侑は家でも学校でも部活でも逐一どうなったんと聞いてくる。そんな矢継ぎ早に進展があってたまるか。お前と違って俺はちゃんとみょうじさんのこと好きやし大事にしたいんじゃ。人でなしがみょうじさんのおっぱいについて触れんなや。

「うわ、雨降ってきた」

ダラダラ歩いとったら雨が降ってきた。ぽつぽつと落ちてきたかと思えばすぐにザーっと本降りがやってきた。最近よく聞くゲリラ豪雨ってやつか。またビニール傘買うてきたら母ちゃん怒るやろな。

「コンビニまで走るか」
「ちょお待って!!」
「おん?」

目先に見えてるコンビニまで走ろうとしたのを侑に止められた。

「今コンビニから出てきたの、みょうじさんちゃう?」
「!」

またしょうもないこと言うのかと思ったら違った。目を向けると確かに侑が言った通り、コンビニの入り口近くで急に悪くなった空模様を見上げるみょうじさんがおった。みょうじさんも部活帰りやろか。休みの日にみょうじさんに会えるなんてラッキーや。

「行ってこい治!」
「おおお、チャンスやんか!良かったな治」
「俺達はもう一個先のコンビニ行くから」
「……おん」

ニヤける侑は置いといて、快く背中を押してくれたアランくんと角名に感謝した。


***(夢主視点)


「……」

さっきまで晴れていたのに、コンビニに寄って数分後にこのどしゃ降りはひどい。確かに今日はゲリラ豪雨あるかもってお天気お姉さんが言っていたけど、朝の晴れっぷりを見てそんなまさかと流してしまった。どうしよう、傘持ってきてない。傘なしで帰るには無謀なくらいの雨量だ。

「みょうじさん」
「あ……治くん」

濡れて帰るか傘を買って帰るか迷っていると、治くんが走ってきて雨宿りする私の隣に並んだ。

「急に降ってきたな」
「うん」

ただでさえかっこいいのに、雨に濡れた治くんはなんか色っぽさもプラスされて見ちゃいけないような気がした。ドキドキする。

「……俺傘買うけど、一緒に入ってく?」
「えっ……」

治くんが緊張したような面持ちで見つめてくる。もしかして、これ言うためにわざわざ駆け寄ってきてくれたんやろか。300円程度のビニール傘くらい自分で買える。でも、治くんの提案を断ろうとは思わなかった。

「じゃあ、お願いします」
「! うん、待っとって」

私が頷くと治くんの表情がぱあっと明るくなった。その可愛らしい反応に母性本能をくすぐられると同時に、今までぼかしてきた好きという気持ちがはっきりと姿を現した。



( 2020.7-8 )
( 2022.6 修正 )

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