×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
01

 
「みょうじさん?誰それ?」

部活中に私の名前が聞こえてきて持っていたジャグを落としそうになった。

「同じクラスの子。確か野球部のマネージャーだったと思う」
「へー。おっぱいでかいん?」
「そんなでかくはなかったと思う」

そーっと声がする方を覗き見ると体育館の出入り口に座り込んでいる男子が3人。同じクラスの角名くんと、宮兄弟だ。バレー部は今休憩中らしい。
この3人の話題に私の名前が挙がるなんて何事だろうか。稲高のバレー部ってだけで目立つのに、宮兄弟なんていったら知らない人はいないってくらいの有名人。治くんは同じクラスだけどあまり喋ったことはないし、侑くんとは一切関わりがない。私は宮兄弟みたいなキラキラ人種とは全く遠くにいる、目立たない女子高生A……いや、Kくらいだと自負している。知らないところで目をつけられるようなことをしてまったんやろか。怖い。私のおっぱいの話なんて時間の無駄だからほんまやめてほしい。

「でも意外。ああいう大人しめの子が好きなんだ?」

……好き?
ちょっと待って、これだとこの会話に参加してる誰かが私のこと好きみたいな感じに聞こえる。口ぶりからして角名くんは違う。侑くんも、私の存在すら知らないんだからあえりえない。となると……

「つーか治、好きな子おるならはよ言えや!」
「喧しいわ。もうええやろ、この話題」

……嘘やん。


***


「なまえおはよー」
「おはよー」

昨日はとんでもないことを盗み聞きしてしまった。まさか宮治くんが私のこと好きだったなんて。一晩経った今でも信じられない。時間が経てば経つ程私の聞き間違いだったような気もしてくる。ありえないとは思いつつも、教室に入るなり治くんの姿を探してしまう私はすっかり意識しまっているらしい。単純な女だ。
治くんはまだ教室にはいなかった。バレー部は毎日のように朝練してるからまだ体育館なのかもしれない。

「ねえ聞いた?昨日佐々木さんが治くんに告ったらしいで」
「えっ!」
「治くんフったんやって」
「そ、そうなん」

すごいタイミングで友達が治くんの話を振ってきてドキっとしてまった。別に治くんが告白されることは珍しいことでもないし、私には何の関係もないことなのに。
あんな可愛い子をフっといて私のことが好きなんて益々現実味がない。私と佐々木さんどっちが可愛いかと聞かれれば、ほぼ百パーセントの人が佐々木さんを選ぶはずだ。
見た目より中身重視って人ももちろんいるんだろうけど、私は治くんとあまり喋ったことがない。ていうか多分1対1で喋ったことさえないと思う。そんな私の人柄を治くんが知ってるとは思えないしそもそも褒められたような性格でもない。
考えれば考える程、治くんが私のこと好きなんてありえないという結論に至る。

「あっ、治来た!」
「おい何で佐々木さんフったん!?」
「……」

治くんが教室に入るなりクラスの賑やか系の男子達がわらわらと集まっていった。昨日の今日でこれだけ噂が広まってしまうなんて、高校生の口の軽さが窺える。

「何でって……好きちゃうし」
「好きな人おんの?」
「うん」

聞き耳を立てていた全女子が治くんの言葉に大きく反応したのが、なんとなく空気感でわかった。私の心臓も反応してしまっている。アホ、さっき「ありえない」って結論に至ったのに。

「……」

こっそり男子に囲まれる治くんに視線を向けると、頭ひとつ飛び出た治くんとがっちり目が合って、すぐに逸らされた。


***
 

「角名おるー?」
「ひっ、あ、ごめんなさい!」

その日の休み時間、トイレに行こうと教室を出た瞬間大きな壁がぬっと出てきてぶつかりそうになった。壁の正体は侑くん。咄嗟に避けることができた私のなけなしの反射神経を褒めてほしい。侑くんの胸板にぶつかったとなったら本人にも周りにも何を思われるかわからない。

「こっちこそごめんな〜」

侑くんは性格がちょっとキツいイメージがあったから身構えていたけど、にこにこと愛想の良い笑顔を浮かべて手を振ってくれた。「俺の半径5メートル以内に近寄んなブタ」くらい言われるかと思った……。

「へー、あの子?」
「あんまジロジロ見ない方がいいんじゃない」

トイレに向かう私の背中に視線がグサグサ刺さってるような気がする。角名くんと私のことを話してると思うと居たたまれない。

「!」
「あだっ」

早く侑くんの視界から消えたい一心で歩くスピードを速めると、階段に続く角を曲がったところで人とぶつかってしまった。

「!?」
「……」

神様のいたずらだろうか、ぶつかってしまった相手は治くんだった。侑くんにぶつかる展開を上手に避けたと思ったら治くんにぶつかる展開が待っていたなんて。しかも反射的に出てきたのは全然可愛くない悲鳴だった。女子として「きゃあ」くらい出てほしかった。

「ご、ごめんね。怪我しとらん?」
「うん」

治くんは感情が読めない目で私を見下ろして、返事だけして行ってしまった。
実際に素っ気ない態度を目の当たりにして、やっぱり治くんが私のことが好きなんてありえないと思った。


***
 

とはいえ治くんを意識してしまう日々が続いた。だってあんなん聞いたら普通そわそわしちゃうやんか。ただ手放しで浮かれきれないのは、治くんが全然そんなそぶりを見せてこないということが引っかかってるから。
元々そんな話すことはなくてそれは今も変わらない。けど、意識し始めてからよく目は合うなと思う。目が合うってことは治くんも私を見てるってことになる。

「みょうじさん」
「なに?」

そんなことをひとりで悶々と考えていたら角名くんに話しかけられた。角名くんとは隣の席になったことがあるから治くんよりは話したことがある。友達と言える程仲がいいわけでもないけど。

「治のこと、気付いてるでしょ」
「……!?」

角名くんは治くんのこととしか言わなかったけど、心当たりがある私にはすぐに何のことかわかった。

「な、何で……」
「俺の席からよく見えるんだよね」

角名くんは私の席の斜め後ろ。確かに授業中どこに意識が向いてたか、よく見えていたことだろう。

「何で気付いたの?治わかりにくくない?」
「あの……その……」

角名くんがこんなことを言うってことは、治くんが私のこと好きっていうのは本当なんだろうか。事実を知った上で観察したとしても、そんなそぶりは全く見せないから普通は気付くはずがない。
角名くんは侑くんとはまた違うタイプの怖さがある。きっと下手な誤魔化しは通用しない。

「宮くんふたりには言わんといてね……?」
「……うん」
「実は、この前3人で話しとるの聞いてまって……」
「ああ、あの時か」
「正直今でも信じられへんのやけど……」
「あはは、わかる。治何もしてこないもんね」
「う、うん」

正直にこの前盗み聞きをしてしまったことを伝えると角名くんは特に驚きもせずに笑ってくれた。

「何かしてきたらさ、みょうじさんはどうするの?」
「!」

角名くんの質問にすぐ答えることができなかった。言葉は柔らかかったけど、治くんの気持ちを知った上でお前はどうしたいんだと問い詰められてるように思えた。イケメンに好かれてただただ舞い上がってる滑稽な女だと思われたのかもしれない。

「角名!」
「!」

答えられないでいると離れたところから治くんが角名くんを呼んだ。治くんがこんなに大きな声を出すのは初めて聞いた気がする。

「はは、怒られちゃった。治にはちゃんとアピールしろって言っとくよ」
「え、え……」

角名くんは楽しそうに笑って行ってしまった。第三者としてこの状態を楽しんでるだけなのかもしれない。ちゃんとアピールなんてされたら、いよいよどうしていいかわからない。



( 2020.7-8 )
( 2022.6 修正 )

[ 45/127 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]