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03

 
「男子バレー部どうだった?及川にセクハラされなかった?」
「はい、楽しかったです!」
「いいなー、生及川さん!」
「かっこよかったよー」

2泊3日の男子バレー部の合宿はあっという間に終わってしまった。みさきさんが冗談めいて言ったセクハラなんてことはもちろんなかったし、お礼の焼き菓子まで貰って逆に気を遣わせてしまった気がする。

「みょうじさん、こんにちは」
「あ、国見くんこんにちは〜」

部室棟の近くでみさきさんと後輩と3人で話していたら通りかかった国見くんが声をかけてくれた。3日間、国見くんには毎日駅まで送ってもらったからたくさん話ができて、個人的に一番仲良くなれたと思っている。

「これあげます」
「え、チョコだ!わーい!」
「フッ……すぐ食べるんですね」
「部活前の間食って大事だよね」
「そうですね」

貰ったチョコを喜んで受け取って口に入れた後にハッとした。本来お菓子をあげなきゃいけないのは私の方なのでは。3日間送ってもらっといて何のお礼も無いなんて、気が利かない奴だと思われてしまう。
しかし今の私はお菓子を持っていない。とりあえずこの場は手を振って、今日の帰りにでもコンビニのお菓子を買っておこう。

「あの子喋ってるの初めて見た」
「えっ」
「私同じクラスですけど、笑ってるの初めて見ました」
「えっ」

確かに国見くんはお喋りでも大口を開けて笑うタイプでもない。接点のないみさきさんが喋ってるのを見たことないのはまだわかるとして、クラスメイトが笑顔を見たことないっていうのはあり得るんだろうか。確かに最初こそクールな印象だったけど、国見くんの笑顔は割とよく見ている気がする。

「えーそういう感じ!?」
「ち、違いますよ!」

反射的に否定したものの、実際満更でもない自分がいた。いや、ただ単に私の顔が面白いとかかもしれない。何の確証もないのにこんなこと考えるのは国見くんに失礼だ。
その後の部活中も気がつけば国見くんの笑顔を思い出してしまって、いくら振り払ってもその映像が完全に無くなることはなかった。
帰りに寄ったコンビニでは、ただお菓子を選ぶだけなのにかなり時間がかかった。コンビニのお菓子コーナーにずっと居座る私は店員さんに変に思われてしまったことだろう。


***


「見て見て、抹茶ラテ味だって!」
「みょうじさん、期間限定に弱いですね」
「えへへ」

国見くんを意識してしまう日々が過ぎていき、いつの間にか部活前に校舎裏のベンチで国見くんと会うのが習慣になっていた。特に約束したわけじゃない。部活前に国見くんいないかな、と校舎裏を通るとベンチに座っているものだから、私もその隣に座って一緒にお菓子を食べたり他愛もない話をしたりしている。最近ではほんの十分くらいのこの時間を楽しみに学校に来ていると言っても過言ではない。私は単純だ。

「もうすぐ期末テストですね」
「ねー……」
「女バレもテスト期間中は休みですか?」
「うん。男子の方も?」
「はい」

強豪校とは言っても学生の本業は勉学。男バレもさすがにテスト期間はお休みになるみたいだ。ということは、週明けの月曜日からは国見くんと放課後ここで会えないってことか。ちょっと寂しいな。

「みょうじさん、得意科目何ですか?」
「英語かなあ」
「……俺英語苦手なんで、教えてもらえませんか」
「え……でも、人に教えられる程じゃ……」

得意科目を聞かれたから英語と答えただけで、別に私は人に教えられる程頭が良いわけではない。力になれるかどうかは微妙なところだ。

「お菓子あげるんで」
「国見くん……私のことお菓子あげれば何でもしてくれる人だと思ってない?」
「……そんなことないです」
「その間は怪しい」

結局私は、部活がない日も国見くんと一緒にいられるという魅力に負けて頷いてしまった。お菓子なんてただの口実だ。テスト期間中も国見くんに会えると思うと、テストの憂鬱さも吹っ飛んだような気がした。

「また連絡します」
「うん」

同じクラスにもバレー部にも、頭の良い人はいるはずだ。いくつか選択肢がある中で私を選ぶ理由は何なのか……私が考えたところでわかるわけがなかった。


***


テスト期間に入って1日目、私は放課後に国見くんと図書館に行く約束をした。いつもの校舎裏のベンチで待ち合わせ。なんだか放課後デートをするみたいで浮かれてしまって、いつもよりリッチなチョコレートを買ってしまった。

「すみません、ここなんですけど……」
「うん」

図書館は基本的に私語は厳禁だから必要最低限の言葉しか交わさない。たまに国見くんがわからない問題を質問してきて、私がそれに答えて、問題が解決したらまた沈黙が流れる。それでも国見くんの隣で流れていく時間は心地よかった。気まずい沈黙ではなくて、テスト勉強もサクサク進んだ。

「……」

ふと隣を見ていたら国見くんがうとうとしていた。重そうな瞼と必死に戦っていて、手に持ったシャーペンはノートにミミズを走らせている。起こした方がいいんだろうけど……なんか可愛いから、もうちょっと見ていたいな。

「……」
「……ッ!」

国見くんが気づかないのをいいことにじっくり眺めていたら、急に意識を取り戻した国見くんとがっちり目が合ってしまった。

「……起こしてくださいよ」
「ご、ごめん」

国見くんは少しだけ気まずそうに視線を逸らした。多分照れてる。同じクラスの子が笑顔を見たことなかったくらいだから、照れた顔もきっと見たことある人は少ないんじゃないかな。そのことに優越感を感じてしまう私はなんて小さい人間なんだろうか。でも嬉しいものは嬉しい。ごめんと謝りつつもニヤける口元を抑えられなかった。国見くんは不服そうだ。

「……今日会った時から言おうか迷ってたんですけど……口元に海苔ついてますよ」
「え!?うそ!!」

海苔ってことは、お昼に食べたおにぎりだろうか。だとしたら何で今の今まで誰も教えてくれなかったの。よりによって国見くんに指摘されるなんて恥ずかしすぎる。

「そっちじゃないです」
「っ!?」
「……取れました」
「あ、ありがと……」

口元をゴシゴシしてたら付いてるのは逆の方だったみたいで、国見くんが手を伸ばして取ってくれた。私が驚いて動いてしまったせいで国見くんの指が私の唇に触れた気がする。
一瞬のことだったけれど唇がムズムズして、どんどん熱くなっていくのを感じた。その熱は私の顔にまで伝わっていって、今自分の顔がどうなっているのか想像しただけで恥ずかしい。
その後の三十分、私も国見くんもほとんど口を開かなかった。一回質問された気もするけど、何を聞かれたかもどう答えたかも思い出せなかった。顔の熱さは家に帰るまで続いた。



( 2019.3-4 )
( 2022.5 修正 )

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