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04

 
「月島くん大丈夫……?」
「うん……」

2軒目で私はハイボール、月島くんはカルーアミルクを一杯だけ飲んですぐに店を出た。
何で赤葦くんにはタメ口なのに月島くんには敬語なんだと不服そうに言われて、お互いに敬語はなしということで和解した。常連さんとこんなフランクに喋るなんて、まだ違和感がある。
月島くんはやっぱりお酒には強い方ではないみたいで、1軒目の時より顔が真っ赤になってしまった。それなのに私を送ると言って聞かなくて、結局マンションまで送り届けてもらったけどこのまま帰すのはちょっと心配だ。

「ちょっと休憩してく?」
「……」
「あ、いや……ほら、そこ座れるし」

意図せず語弊のある言い方をしてしまって慌てて訂正した。さすがにこの状況の月島くんを家にあげる程貞操観念は緩くない。まあ、正直そういうことになってもいいと思ってる自分はいるわけだけど、月島くんにはだらしない女だと思われたくなかった。

「警戒するなら家まで送らせなきゃよかったのに」
「え……」
「今更警戒しても遅いってわかんないの?」
「あの……」

ぐっと距離を縮められる。月島くんは身長が大きいからかなりの威圧感だ。後ずさろうとしても背中に月島くんの手が回っていて無理だった。至近距離で合った月島くんの目はしっかりと私を見据えている。そこにはしっかりと月島くんの意志があるように見えて、アルコールの勢いだけの行動ではないように思った。

「赤葦さんが相手でも送らせた?」
「え……」

何でここで赤葦くんが出てくるのか気になったけど、今の月島くんは答え以外の返事を受け付けない気がした。
実際に赤葦くんが送ると申し出た場合のことを想像をしてみる。流石に今日知り合ったばかりの人に家まで送ってもらうことはできないという結論に至り、私がはっきり首を横に降ると月島くんは満足げに笑った。

「じゃあ、期待していいんだね」
「!」

背中に回された手にぐっと押されて、私の頬が月島くんの胸板にびったりとくっつく。月島くんの匂いと温度がダイレクトに伝わって心臓がやばい。
私は別れ際に聞いた赤葦くんの言葉を思い出しながら、月島くんの胸の中で一回だけ頷いた。

『月島は負けず嫌いで策士だから、気を付けてくださいね』


***


抱きしめられたあの日はそれ以上特に何もなく別れて、連絡先を交換した私達はその後も何回か食事に出かけた。
3回目のデートでは食事だけじゃなくてがっつりプラネタリウムにも行った。月島くんは毎回デート代を出してくれるし家まで送ってくれるし、そういうつもりで私を誘ってくれてるってことでいいと思う。
しかし部屋に戻った私はモヤモヤした気持ちが膨らんでいった。窓から月島くんをこっそり見送りながら、今日告白されると思ったのになぁと残念に思った。
今までの経験からして両想いってことで間違ってはいないと思う。アルコールが入っていたとはいえ抱きしめられたわけだし、「期待していいか」なんて言われて私は頷いたわけだし。
デートだって楽しかった。月島くんも表情にこそ現れないけれど楽しんでくれていたと思う。そもそも嫌いな相手を3回もデートに誘ったりなんかしないはず。
じゃあ、何で告白してくれないんだろう。

「ちょっと先輩聞いてます?」
「え〜何それ〜〜年下男子にコロコロされるのとか最高じゃん!」

一人で抱えきれなくなった私はお店の先輩に相談してみることにした。月島くんのことをよく知ってる赤葦くんや木兎くんも思い浮かんだけど、万が一相談したことを月島くんが知ったら嫌がりそうだと思ったからやめた。先輩だったら月島くんのことをお客さんとして知ってるし、私よりも経験が豊富だ。
しかしショートケーキの人と私がそんなことになってると初めて聞いた先輩のテンションは上がりっぱなしで、まだちゃんとしたアドバイスを貰えていない。

「どう思います?」
「話聞く限り、草食ってわけでもなさそうだよね」
「はい」
「むしろちょっと捻くれてる感じ?」
「……そうかもしれません」

申し訳ないけど否定はできなかった。赤葦くんも「負けず嫌いで策士」と言っていたし、実際素直なタイプではないと私も思う。

「もしかしたらさ、焦らしてなまえから告白させようとしてるんじゃない?」
「!」

そんな恋愛の手段があったなんて盲点だった。そういうことなら私から告白すればいい。抵抗はないけど、自分から告白するのは高校生ぶりだ。久しぶりだから緊張するなあ。


***


告白する決心はついたものの、あれからなかなか予定が合わなくて月島くんと会えていない。モチベーションが下がってしまうことを危惧した私はきっかけを探していた。

「エクレア余ってるけど持って帰る?」
「……2つください」
「おお?誰の分なのかな?」

そんな私にきっかけを与えてくれたのは先輩だった。ケーキ屋の店員という立場を思う存分有効に使わせてもらおう。月島くんが甘い物好きで良かった。
締め作業が終わった後に月島くんに「エクレア食べる?」と連絡をした。月島くんは既に定時を迎えているはずだから大体すぐに返事が来るのに、今日はなかなか返事が来なかった。
ふと、前の彼氏とのやりとりを思い出してしまった。もしかしてもう愛想を尽かされたんだろうか。返事が来ないのは、何回か会ってるうちにやっぱ違うと思われちゃったからなのかもしれない。それか、他にもっといい子を見つけてしまったのかも。そんなネガティブな思考を巡らせていたら自宅についてしまって、深いため息が出た。前の彼氏の時は返事が来ないくらいでこんなに落ち込んだりはしなかったのに。

「!」

家に着くまでに何回チェックしたかわからないスマホを再び確認すると、ちょうど月島くんから電話がかかってきた。

『ごめん、残業で返事遅れた』
「ううん、いきなり連絡しちゃったし気にしないで」

無視されたわけじゃなかったことを知って心の底から安心した。月島くんの言動によってこんなにも感情を揺さぶられている自分を客観視して、冷静に珍しいなと思った。今までこんなことなかった。

『まだ間に合う?』
「え……あ、時間かかるけど……」
『もう家でしょ?みょうじさんが良ければ僕が行くけど』

月島くんが家まで来てくれるらしい。わざわざ取りに来てもらって玄関先で渡してさよならなんてことにはならないだろう。私はその後の展開に何かしらを期待して頷いた。
月島くんが到着するまであと30分くらい。部屋を簡単に片づけて、コーヒーと心の準備をしよう。


***


「コーヒー、ミルクと砂糖入れる?」
「……入れる」
「ふふ、わかった」
「笑わないで」

月島くんは宣言通り30分くらいで到着した。家の場所は何度も送ってもらってるから覚えてくれてたみたいだ。
基本的に月島くんは甘いものが好きらしい。お酒はカルーアミルクが好き。あまり知られたくなかったのか最初は私の前でビールを飲んでいたけど、今はこうやって正直に嗜好を教えてくれる。笑みが溢れたのは決してからかってるわけじゃなくて、そのことが嬉しいからだ。

「……笑わないでって言ったんだけど」
「!」

そんなことを思っていたら月島くんの不服そうな顔がぐっと近づいてきた。
別にコーヒーを甘くすることに対して笑ってたわけじゃないと弁明したかったけど雰囲気に呑まれて何も言えなかった。月島くんの睫毛は間近で見るといつもより長く感じた。

「……」
「!?」

数秒目が合った後、離れようとした月島くんの服を反射的に掴んで引きとめた。月島くんが目を丸くして驚く。
我ながら大胆なことをしたとは思うけど後悔も恥ずかしさもない。だって、ここまできて何もなしで帰したくない。私の告白するという決心はまだまだ熱いままなんだから。

「月島くん、私……」
「ちょ……ちょっと待って……!」

告白を切り出そうとしたら焦って止められた。
もしかして引かれてしまったんだろうか。好きな人からの拒絶が心臓の深いところを抉ったような気がして息が止まった。

「ご、ごめん……今のは忘れて……」
「いや無理だから」
「!」

怖気付いて距離を取ろうとした私を、今度は月島くんが引きとめた。俯いた顔が月島くんの大きな手に掬われて、再び至近距離で目が合う。目の前の月島くんの顔は真っ赤だった。

「こういうのは男からしたいんだけど」
「だ、だって全然言ってくれなかったから……」
「5回目のデートで言おうって決めてた」
「5回……は、待てない」
「……」

どうやら私に告白させようとしていたわけじゃなくて、あと2回デートを重ねたら月島くんの方から言ってくれる予定だったらしい。私がせっかちだったのか、月島くんが慎重すぎるのか。どちらにせよ、もうこの状態で「好き」のおあずけをくらうのは無理だ。月島くんが言わないなら私が言う。

「月島くん……っ」
「好き」

月島くんは私がその言葉を口にする前にキスをした。告白を横取りされた気分だ。こんな強硬手段に出る程自分から言いたかったのなら、さっさと言ってよバカ。文句はいろいろあるけれど、月島くんの唇の柔らかさと真っ赤な顔に絆されてしまった。

「私も、好き」

ふわふわの癖っ毛をそっと抱き寄せて、ようやく私も言うことが許された2文字を口にした。
これからは月に一度のショートケーキの他に、いろいろ食べてもらうことになるのかな。太らせちゃったらどうしよう。机の上に置かれた2つのマグカップを見ながらそんなことを思った。



( 2020.4-5 )
( 2022.6 修正 )

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