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after1

 
「ご、ごめんね若利くん……ちょっと休めば、よくなると思うから……」
「無理はしなくていい」

普段あまり飲まないアルコールが体中にまわっているのを感じる。顔が熱くて、視界がグルグルする。せっかく若利くんがご飯に誘ってくれたのに、気分が悪くなってしまうなんて最悪だ。幸い個室だから人目を気にせず壁に寄りかかれる。とりあえず歩けるようになるまで休ませてもらおう。

「本当ごめん……」
「謝らなくていい。俺の方こそ早く気づけなくて悪い」
「そんなことないよ!」
「水はいるか?」
「あったら嬉しいかも……」
「わかった」

若利くんに気を遣わせてしまって申し訳ないと思うと同時に、その優しさにきゅんとしてしまう。迷惑かけてるのにときめいてるなんて身勝手すぎる。

「情けないなあ……お酒はあまり得意じゃないってわかってたんだけど……」
「……」
「久しぶりに若利くんに会えてテンション上がっちゃったのかなあ……」
「!」

少し前まで若利くんは海外遠征に行っていたから、会うのは1ヵ月ぶりくらいだった。いつもだったら1杯は気持ちよく飲めるのに、久しぶりの若利くんの前で舞い上がったり緊張したりでいつもよりアルコールがまわってしまったみたいだ。
ウーロンハイを2杯飲んだ若利くんは顔色ひとつ変わっていない。もっと自分のキャパシティを理解して自制できるようにならなきゃなぁ。

「……うん、だいぶよくなってきた。そろそろ出よっか」
「……ああ」

食事が終わってるのにいつまでもゆっくりしてたらお店の人に迷惑がかかってしまう。若利くんが用意してくれた水のおかげでだいぶ楽になってきた。お店を出ようと立ち上がると、若利くんはスっとハンガーにかけてあった私のコートをとって私が着やすいように用意してくれた。その仕草が大人っぽくてかっこよくて、本当ずるい。
高校卒業後、プロの企業チームに所属した若利くんはバレーの練習に加えて会社員としての仕事もこなしている。大学生の私なんかよりたくさん社会経験を積んでいることだろう。それがこういうところで顕著に現れてほんの少し、情けなく思ってしまう。

「……」
「え、え、若利くん……!?」

至れり尽くせりで両腕をコートに袖を通したら、若利くんは何を思ったのか私を抱きしめた。個室とはいえこういう場所でくっつくのには抵抗がある。若利くんもあまり外ではベタベタしないタイプなのに、らしからぬ行動に混乱する。

「ムラっとした」
「!?」

耳元で囁かれた低い声はいつもより色気を孕んでるように聞こえた。アルコールの入った脳みそにはある種の毒のようだ。
若利くんはたまによくわからないところでスイッチが入ってしまう。若利くんの肌触りの良いマフラーに頬を寄せて、こっそり笑った。



( 2018.9 )
( 2022.6 修正)

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