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04

 
白鳥沢といえば県内有数の進学校だ。取り柄のない私だけれど勉強だけは人より少しできたのでこの高校に入学することができた。特別ここがいい!っていう希望ではなかったけど、両親を安心させることができたから白鳥沢を選んで良かったと思ってる。今となっては牛島くんに出会えたから本当に良かったと思ってる。
中学ではそこそこ上位の成績を狙えたがここには頭の良い生徒しかいない。凡庸な私とはそもそも頭の造りが違うんじゃないかと思ってしまう天才もたくさんいる。授業の内容もハイレベルで私はついていくのがやっとだった。努力をしても中の下……それが私の現在地だった。

「みょうじ……ドンマイ」
「……」

隣の席になった山形くんが哀れんだ目で私の答案用紙を返してくれた。右上に書かれた点数は8点。20点満点中、8点。
数学の先生は週一のペースで小テストを行う。そして十点以下の人はその日の放課後少し残って補習を受けることになってるのだ。今までなんとか回避してきたけれど、苦手なシグマからは逃げられなかった。

「シグマ……ニガテ……」
「何故カタコト」

私この先シグマと仲良くなれる気がしない。それほど私はシグマに苦手意識があった。こんなところで躓いてたら私の受験戦争は苦戦が予想される。

「補習つっても同じようなプリントやるだけだから、そんな落ち込むなよ」
「うん、ありがとう」

そうやって励ましてくれた山形くんは確かバレー部だったと思う。バレー部には優しい人しかいないのかもしれない。


***


「そこは等比数列の和で考えるといい」
「!?」

休み時間を返上してシグマと睨めっこしていると大好きな牛島くんの声が聞こえた。もはや条件反射的に見上げてしまうと、高いところから私を見下ろす牛島くんがいた。牛島くんから話しかけてくれるとは何事か。

「山形から、みょうじが小テストで赤点をとったと聞いた」

山形くんなんてことを言ってくれるんだ。牛島くんにアホだと思われてしまう。しかしそれ以上に牛島くんに話しかけられたことが嬉しくて、すぐに感謝の方が勝ることになった。

「俺は数学が得意だ」
「う、うん。いつも上位だもんね」
「……山形はそこまで得意じゃない」
「……うん?」
「俺なら、教えられる」
「!」

何故そこで山形くんが出てくるかはわからないけど、もしかしてこれは数学が得意な牛島くんが直々に教えてくれると言っているのだろうか。

「お願い、していいですか……!」
「ああ」

ゲンキンな私は牛島くんの優しさに甘えることにした。
うっすらと笑みを浮かべた牛島くんが、山形くんの椅子を引いて私の隣に座った。どうしよう、集中できる気がしない。


***

 
幸せな休み時間を過ごし、ふわふわ気分でトイレに向かって歩いていたら熱烈な視線を感じた。最近見られてる気がする。自意識過剰とかじゃなくて、本当に見られてるんだと思う。だって隠そうとしてないし……今もこうやって目が合ってしまっているわけだし。

「……」
「えっと……何か用、かな?」
「!?」

彼のことはぼんやりだけど見覚えがあった。多分牛島くんと仲の良いバレー部の後輩だった気がする。おかっぱ頭が特徴的で牛島くんしか見てない私でも覚えていた。
話しかけるとわかりやすく驚かれた。いや、あんなに目が合ってたんだから割と自然な成り行きかと思うんだけどな。

「あっ、あの……!」
「は、はい……!」

意を決したかのように呼びかけられたからなんとなくこちらも身構えてしまう。牛島くんに近づかないでくださいとか言われたらどうしよう。

「牛島さんと、付き合いましたか!?」
「!?」

しかし勢いよく出てきたのは私の予想の斜め上をいく質問だった。何故そんなことを聞かれてるのか、本当に意味がわからなかった。

「なんつー絡み方してんだよお前は」
「ちわ!」

私の代わりに彼にツッコミを入れてくれたのは白布くんだった。

「どうも。牛島さんは落とせましたか?」
「なっ……私には無理だから……!」

後輩の絡み方を突っ込んだくせに、白布くんも言ってることは大して変わらない。そう思ったけど言い負かされそうで口には出せなかった。

「付き合ってないんですね!」

初めて会った後輩くんは私と牛島くんが付き合ってないことを察すると嬉しそうな反応をした。どういうことだろう……大好きな先輩をとられなくて安心したのかな。

「お前そんなとこでも変な対抗心燃やしてんの」
「だって!エースで、更に可愛い彼女いたらなんか悔しいじゃないですか!」
「こいつ変に牛島さんのことライバル視してて、バレーじゃ全然敵わないから至るところで張り合ってるんです」
「ほ、ほう……」
「全然じゃないです!少しだけです!」
「あっそ」

仲良さそうに見えたけど自称ライバル関係だったのか。なんだかお兄ちゃんに追いつきたくて頑張る弟みたいで可愛い。

「お名前は?」
「五色工、次期エースです!」
「私はみょうじなまえです。お近づきの印にアメちゃんをあげよう」
「パインアメだ!あざす!」

なんだろう、五色くんを見てるとなんだか可愛がりたくなってしまう。孫ができたらこんな感じなんだろうか。


***(瀬見視点)


「えっ!若利くんなまえちゃんの連絡先聞いてたの!?」

部活終了後の部室。天童の声に俺を含めた全員の視線が集まる。視線の先には天童の話し相手……若利だ。
天童のせいでみょうじが若利に気があることはバレー部員のほぼ全員が知っている。みょうじのことを知らない奴でも知っている。この前そのことがバレてみょうじに怒られたけど、元凶は俺じゃなくて天童だし全然怖くなかった。

「ああ、海に行った時に聞いた」
「マジかよ!」

内容が内容なだけに俺もその会話に乱入した。
みょうじが若利のこと好きなことは1年の時から知っていた。本人から教えてもらったわけではなくて、見てて普通にわかった。めちゃくちゃわかりやすいし。
一方若利の方はイマイチよくわからない。まず恋愛してる姿が想像できない。こいつ女子でエロい妄想とかしたことあんのかな……。気にはなるけど聞けるわけがなかった。

「じゃあ夏休みにデートとかしてたの?」
「夏休みはその日以外会っていない」
「連絡先聞いた意味!デート誘えばよかったのに〜」
「応援には来てくれていた」
「それは別でしょー」
「ちょっと……ちょっといいか」
「何〜?」

天童と若利の会話に違和感を感じて間に入った。さっきから2人の会話を聞いてると、まるで若利がみょうじに気があること前提で話してるように思える。

「若利はみょうじのことが好きってことでいいのか……?」
「もー、セミセミそんなの聞くまでもないじゃん」
「いやいや、俺は若利の口から聞くまで信じねェ」
「ど、どうなんですか牛島さん」

天童は聞くまでもないとか言うけど、若利を見てるだけじゃ普通わかんねェから。いつも涼しい顔してる白布までもが興味津々のようで、若利の返答を息を呑んで待ち構えていた。

「好きだが」
「あっさり言った!」
「!?」
「賢二郎驚きすぎでしょ」

あまりにも若利があっさりとカミングアウトするものだから拍子抜けしてまった。白布は目を丸くして驚いている。こんなに取り乱すなんて珍しい。それほど衝撃的な事実だったんだろう。

「じゃ、じゃあ牛島さんが告白するんですか!?」

もちろん若利のこととなると五色も黙っちゃいない。というか若利の恋愛事情なんて誰もが興味ある。今部室にいる全員が聞き耳を立てていた。
つーか、若利も気があるんだったら結局両想いってことじゃん。フられたら慰めてやろうと思ってたけどその必要はないみたいだ。だったらなおさら早く告白すればいいのに。「大丈夫だぞ」って俺が背中を押しても、ネガティブなアイツは信じないんだろうな。
逆に若利から告白する気はないんだろうか。若利ならさっきみたいにサラっと告白できそうなもんだ。みょうじの卒倒する姿が容易に想像できる。

「今時期を見計らってるところだ」
「……は?」

若利らしからぬ発言に首を傾げる。え、若利ってそういう恋愛の駆け引きとかしちゃうタイプなわけ?時期を見計らうも何も、もういつでもOK状態じゃん。俺なら速攻で告白する。

「そうそう、告白するにも準備が必要だからね〜」
「……そうらしい」
「……」

なるほどこいつか、バカ正直な若利に変な入れ知恵をしているのは。早くくっつければいいのに、告白しろと言わないのは絶対天童が楽しんでるからだ。

「連絡先知ってるんだったらデートに誘いなよ若利くん!」
「わかった」

ジト目で天童を見たらウインクをされた。はいはい、邪魔するなってことね。まあ別にやってることは結果的に二人のためになってるのかもしれない。俺もそこまでお人好しってわけでもないし。
近い将来、若利と付き合うことになったみょうじの反応を想像して喉の奥で笑った。



( 2018.7-9 )
( 2022.6 修正 )

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