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- ナノ -
03

 
「なまえ〜」
「約束、忘れてないよね?」
「ひっ」

ひとしきり海で遊んで夕方4時。そろそろ帰ろうかとなり、何故か水着じゃない私まで更衣室に連行されて、問い詰められたのは「牛島くんに告白する」という約束のこと。もちろん忘れてはいない。というか私は約束したつもりはないんだけどな。

「せっかく二人きりのチャンス作ってあげたのに何フツーに遊んでんの?」
「う……幸せでした……!」
「そんなの顔見たらわかる」

でも、あの状況でいきなり告白するのは違和感があるんじゃないのかな。もし仮にあそこで告白してフられたら、せっかくの海が台無しになってしまうくらい私は落ち込むし、それはみんなに申し訳ないし……

「じゃあ別れ際なら言えるんだね」
「よっし任せろ」
「エッ」

そんなことをしどろもどろ伝えたら友人はまるで言質をとりましたみたいな感じでニヤリと笑った。いや、そういうことじゃないじゃん。任せろと言った友人の背中は何故だかいつもより大きく見えて、それと同時に恐怖を感じた。


***


「私ら寄ってくとこあるからじゃーね!」
「俺もセミセミと行きたいとこあるからここでお別れだネ!あー残念!」

更衣室から出て男子と合流した途端、打ち合わせでもしたかのように同じことを言い出す友人と天童くん。またしても私と牛島くんを二人きりにしようとしてくれているらしい。私のためを思ってのことだとはわかっていても、強引すぎて牛島くんに変に思われないか心配だ。

「なまえ超がつく程の方向音痴だから牛島くん送ってあげてね!」
「わかった」

しかし素直な牛島くんは疑うことなく友人の言葉を鵜呑みしてしまう。いい人すぎる。私は方向音痴でも何でもないのに。なんだか騙しているみたいで申し訳ない。

「家、どっちだ?」
「……駅の近くだよ」

ここから家までは歩いて20分。それが私に与えられたタイムリミットだ。少し強引だけど、天童くんたちがこれだけ私に協力してくれてるんだ。もう腹をくくるしかない。

「暗くなる前に帰ろう」
「……うん」

あと20分しか牛島くんと一緒にいられないのかと思うと名残惜しい。今日が終わったらきっと夏休みが終わるまで牛島くんとは会えない。もっと牛島くんと一緒にいたいだなんて、夢のような状況が続いたせいで私はいつもより欲張りになってしまってるみたいだ。

「牛島くん、今日は来てくれてありがとう」
「? 何でみょうじがお礼を言うんだ」
「え……と、私が……牛島くんと一緒にいられて嬉しい、から……」

「好き」。その一言を言えば全てが終わるのに、臆病な私はそれを口に出すことができない。遠まわしな言い方はきっと牛島くんには通用しない。それがわかっていてそんな言い方をする私は、ヘタレとからかわれても文句なんて言えない。
恐る恐る隣を歩く牛島くんを盗み見たら、何かを考えているようだった。その横顔を見てやっぱりかっこいいなと思う。

「牛島くんと海に来れるなんて、夢みたい」
「……夢ではない」
「うん。私に素敵な思い出をくれてありがとう。私……今日のこと一生忘れないよ」
「……その言い方はなんか嫌だ」
「!」

初めて聞く牛島くんの拒絶の言葉に、告白しようと決意した私の気持ちが一気に怖気づいてしまった。好きな人からの拒絶というのは、たとえわかっていたことでもここまで心を抉るものなのか。どうしよう、次の言葉が出てこない。

「その言い方だとまるで、俺とみょうじの思い出が今日で最後みたいに聞こえる」
「……?」

おそらくそうなるんだろうと思っての発言だったんだけど、牛島くんは何が腑に落ちないんだろう。

「みょうじとは……またこうやって出掛けたいと思う」
「……!?」

心臓が飛び跳ねるとはこういうことか。そんなことを牛島くんに言われたら舞い上がってしまう。
けれど、牛島くんはこれから私が告げようとしてる気持ちを知らないからそんな優しい言葉をかけられるんだ。ここで私が好きと伝えてしまったら、今日のように一緒に過ごすことはできなくなってしまう。そう思うとこの期に及んでまだ躊躇してしまう私がいた。

「連絡先を教えてくれないか」
「へっ……」

私がうじうじしていると、牛島くんからまたしても信じられない言葉が聞こえた。牛島くんの手には既にスマホが握られている。

「嫌か?」
「ううん嫌じゃない!」

まさか牛島くんと連絡先を交換する日が来るなんて。
慌てて自分のスマホを取り出した私は、緊張しすぎてロックナンバーを間違えてしまった。動揺してるのがバレバレだ。

「また連絡する」
「あっハイ」

結局この衝撃的な展開のせいで私はすっかり告白するタイミングを逃してしまった。


***


『若利くんポニーテール好きだって!』

そんな情報を夏休み中に天童くんから貰っていた私は、新学期初日をポニーテールで挑んだ。本当単純な奴。
結局夏休みはあれ以上牛島くんと関わることはなかった。一応連絡先は交換したものの、最初の挨拶のやりとりだけで終わってしまった。バレーの大会はみんなに混じって応援に行ったけど、お疲れ様とか気の利いた連絡さえ入れられなかった。
だから今日は久しぶりの生の牛島くんに会えるということで私は浮かれていた。どうしよう、夏休みが明けて牛島くんはまたかっこよくなった気がする。
しかし今日はあまり牛島くんを見ることが出来なかった。何故なら新学期早々行われた席替えで私は一番後ろの一番廊下側、牛島くんは一番後ろの一番窓側になってしまった。距離が遠いだけならまだしも、同じ列だと盗み見ることも出来ない。なんてことだ。

そして放課後。なんとなく牛島くんを見足りないと思った気持ち悪い私は、自然と足がバレー部の体育館へ向いていた。まだ集合時間には早いらしく人は疎らだ。牛島くんの姿は見当たらない。

「牛島さんなら今日はミーティングで遅れますよ」
「!?」

横を通りかかったバレー部員と思われる人にそんなことを言われてドキッとした。相手が瀬見とか天童くんならわかる。しかし、目の前の彼と私は初対面のはずだ。何故初対面の彼に、私が牛島くんを捜してることがわかったのだろうか。

「瀬見さんと天童さんがよく話してたので、つい」
「……!?」

なんていうことをしてくれてるんだ。そういえばこの前天童くんが、私が牛島くんのこと好きなのに気づいてないのは本人だけって言っていた。え、「牛島くん以外」ってこんな範囲広いの?何それ恥ずかしすぎる。バレー部全員に知れ渡っていたらどうしよう……鷲匠先生にまで知られてたらどうしよう……バレー部出禁になってしまうかもしれない。

「あ、あの、どんな風に……」
「いつ告白するんだとか、牛島さんへの態度があからさまだとか」
「……」

消えたい。
つまり私が牛島くんに告白しようとしてることも、私がそれをなかなか実行できていないヘタレだっていうことも、目の前の名前も知らない彼にはバレてるというわけだ。

「牛島さんのどこがいいんですか?」
「え……」
「いや、俺から見ても牛島さんはかっこいいと思いますけど……それだけで2年も片想いなんてできないと思って」

グサリ。初対面の彼の言葉が胸に突き刺さる。2年片想いしてることまで知られてる。これもう怒っていいよね?瀬見と天童くんに怒ってもいいよね?

「牛島くんは覚えてないだろうけど……1年の時に励ましてもらったことがあるんだ」
「……それだけですか?」
「うん。牛島くんの強くてまっすぐな言葉に救われたの」
「……」
「あれみょうじ、白布と知り合いだったの?」
「!」

そこに現れたのは今私が最も怒りたい男ナンバーワンの瀬見だった。

「今日初対面だよ。初対面なのに何で私が牛島くんのこと好きって知ってたんだろうね?」
「そりゃ…… みょうじがわかりやすいからだろ」
「瀬見さんが話してるのを聞いたからです」
「白布テメッ……」
「瀬見のバーカ!えっと……バーカ!」
「バカしか言えねーのかよ」

人に怒り慣れていない私は「バカ」以外の罵倒の言葉がスラっと出てこなかった。怒ってることが伝わればいいんだもん。バカの一言で十分だし。

「あ、あの白布くん、わかってくれてるとは思うけど、この事は牛島くんには内密に……」
「わかってます。……頑張って牛島さんを落としてくださいね」
「えっ!?」

白布くんと瀬見が呼んでいたので勝手にそう呼ばせてもらってお願いすると、ニヤリと意地悪に笑ってめちゃくちゃハードル高いことを言われた。あれ、おかしいな。今日初対面で私先輩なはずなのに、何このいじられてる感。



( 2018.7-9 )
( 2022.6 修正 )

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