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01

 
私は牛島くんのことが好きだ。いつからかというと1年の時から好きだ。きっかけは割愛するけれどとにかく好きだ。
そんな片想いをこじらせて早2年。3年生となった今年がいよいよラストチャンスである。牛島くんはバレーがすごく上手だから、きっと卒業後はプロ入りかバレーが強い大学に行くだろう。バレー界のことはよくわからないけどきっと宮城からは出て行ってしまうと思う。そして絶世の美女に出会って順風満帆な人生を送るんだ。
牛島くんが幸せならそれでいい。けれど、私にだって自分の一度しかない高校生活を悔いなく過ごしたいという願望はある。もちろん何の取り柄もない私があの牛島くんとお付き合いできるなんて大それたこと、本気で思ってるわけじゃない。でも、この2年間衰えるどころかどんどん大きくなっていった牛島くんへの気持ちは本物だと胸を張って言える。私が大事に育ててきたこの気持ちを、どうしても伝えたくなったのだ。
幸い今年は牛島くんと同じクラスになれた。このチャンスを活かして、卒業するまでには牛島くんに告白しようと心に決めた。

「いや、卒業するまでって期間長すぎだろ」

そんな感じの決意表明を廊下で会った瀬見にしたらこの言葉である。そっちが「最近どう?」って聞いてきたくせに。何でそんな水をさすようなこと言うの信じられない。

「告るって決めたんだったら潔く玉砕してこい!」
「無理。決めたはいいけどそんな勇気私にあるわけない」
「めんどくせーな」
「瀬見は乙女心がわかってない」
「乙女心どうこうっつーか、みょうじがヘタレなだけだろ」
「うぐ……」

中学からの付き合いである瀬見には私の性格なんてお見通しのようだ。
そう、私は自他共に認めるヘタレだ。可愛い言い方をすれば恥ずかしがり屋さんだ。牛島くんに告白すると息巻いたものの、いつ、どこで、どんな言葉で好きと伝えればいいのかはシミュレーションさえできていない。考えただけで動悸が激しくなって何も進んでいないのが現状だった。

「だって……相手はあの牛島くんだよ?」
「まあ……若利が誰かと付き合うとか正直想像できねーわ」
「ですよねー」

玉砕するにしても、相手がもし隣のクラスの気さくで人気者なイケメンサッカー部谷口くんだったらまだこんな悩まずに告白できたかもしれない。
牛島くんは正直気さくでもないし人気者ってわけでもない。顔はイケメン……というか男前だ。めちゃくちゃ私のタイプなのだ。そこだけで好きになったわけじゃないけど。
今までに何回か告白されたっていう噂を聞いたことがある。その全てをお断りしているらしい。美人で巨乳の笹野さんもフったということだったので、牛島くんの好みに『巨乳』が入ってないことがわかって少し安心した私はクズ野郎だ。

「そもそも告白するチャンスがそうそう巡ってくるわけないじゃん?」
「そこは……自分で作れよ。呼び出すとか」
「ほんと無理。出来ることならすれ違いざまにさらっと伝えてしまいたい」
「告白とは」

私と牛島くんは特別仲が良いわけでもなく、クラスメイトとして用があれば話す程度だ。牛島くんに名前を憶えられてるかどうかも怪しい。
そもそも牛島くんと目を合わせるだけで私の心臓はバクバクしてショート寸前なのだ。すれ違いざまに想いを100%伝えられたらどんなにいいことか。けれど私のこの気持ちはとてもすれ違いざまに伝えられるような短い言葉では足りないのも事実だった。
告白ってすごく難しい。世のJKはこの難関をどうやって乗り越えているんだろうと尊敬する。

「あ、若利」
「!?」

一瞬瀬見にイタズラされたのかと思ったけど振り返るとそこにはちゃんと牛島くんがいた。今日もかっこよくてびっくりする。

「どうした?」
「今から教室に戻るところだ」

チラリと時計を見たら授業が始まる5分前だった。5分前行動な牛島くん……素敵だ。

「早速チャンス到来ってことで」
「は……」
「じゃー俺も教室戻るわ。じゃあな」
「え、ちょっと……!」

私の肩に手をポンと置いて行ってしまった瀬見の横顔はニヤニヤしていた。瀬見が行ってしまったことでこの場には私と牛島くんが取り残される。「チャンス到来」の意味を理解した私は一瞬で体が強張った。

「みょうじもそろそろ戻った方がいい」
「あ、うんそうだね!」

動こうとしない私を不思議そうに見つめる牛島くん。そう言う牛島くんも足を止めたままだ。もしかして私を待ってくれているんだろうか。私なんかと並んで教室まで向かってくれるんだろうか。おずおずと私が一歩を踏み出すと同時に牛島くんの足も動き出した。

「つ、次の授業何だっけ?」
「数学だ」
「うわー苦手なやつだぁ」

精一杯平然を装って会話する。意識をしっかり保たなければ右手と右足が一緒に出てしまいそうだ。牛島くんとお話できたというだけで今日一日頑張れる気がした。苦手な数学さえもどんと来いって思えるから牛島くんの存在は尊い。

「みょうじは数学の時いつも眠たそうにしているな」
「そっ……!?んな……こと……」
「? すまん、よく聞き取れなかった」

せっかく平然を装ったのに牛島くんの何気ない言葉に動揺を隠せなくなってしまった。何で牛島くんがそんなこと知ってるのとか、私のこと見ててくれてるのとか、乙女思考まっしぐらな私にもう一人の私が冷静に突っ込む。牛島くんの席は私の斜め後ろ。角度的に視界に入るっていうだけだ、自惚れるな。


***


「やっほーなまえちゃん!ついに若利くんに告白するんだって?」
「!?」

帰りにチラリとバレー部の体育館を覗いてるところにいきなり声をかけられて心臓が止まるかと思った。振り返るとそこにいたのは天童くん。声と喋り方でわかってたけど。

「ちょっと!声大きい!」
「まーまー。なまえちゃんが若利くんのこと好きだって気付いてないの本人くらいだから!問題なし!」

問題大ありだよ。その言い方だとみんなに私が牛島くんのこと好きだってバレてるってことじゃん。特別隠そうと思ってるわけじゃないけど、そんなにバレてるなんて知らない。この事を相談してるバレー部員は瀬見だけなのに。

「え……なまえちゃんそれで隠せてると思ってるの……?引くわー……」
「勝手に引かないでよ」

天童くんとは1年の時同じクラスだった。思った事をズバズバ言う天童くんはたまに人から敬遠されることもあるけど私は苦手じゃない。意地悪と言っても人を傷つけるような人ではないし、変に気を遣わなくていいから私はむしろ付き合いやすいと思う。

「うん、いいと思うヨ!てかよく2年も片想いできるよね〜。なまえちゃんてば一途!」
「そんなことないよ」

人の感情を読み取るのが上手な天童くんにバレるのはもう仕方がない。頭もキレるし、きっと私は一生天童くんには敵わないってことで諦めよう。

「そんなヘタレななまえちゃんにいいこと教えてあげよっか?」
「! な、何?」

それに、天童くんはあの牛島くんに対しても同じようなテンションで接することのできる強者だ。この前牛島くんとジャンプの話をしてるのを聞いてよくわからないけど悶えたのを覚えている。牛島くんとジャンプの話なんてできるのはきっとこの学校で天童くんだけだ。
そんな牛島くんと一番近しい間柄であろう天童くんが教えてくれる「いいこと」とはいったい何なんだろう。私はごくりと息を呑んだ。

「この前若利くんと初恋について話してたんだけどさ、若利くんの初恋は幼稚園の先生なんだって!」
「へー!」

初恋が幼稚園の先生だなんて超可愛い。そして牛島くんとそんな話ができる天童くんはやはり只者ではなかった。

「……ショックじゃないの?」
「え、何で?」
「年上が好みなのかーとか思わないの?」

天童くんは今の話を聞いて私がショックを受けると思ったらしい。ご期待に沿えなくて申し訳ない。ショックだとは全然思わなくて、むしろ牛島くんの小さい頃の話が聞けて嬉しいと思った。

「そもそも私が牛島くんと付き合えるとか思ってないしなぁ」
「……」

確かに高身長で大人っぽい牛島くんには年上の女性がお似合いな気がする。そう伝えたら天童くんはなんとも言えない表情をした。初めて見る顔だ。いったい何を思われてるんだろう。

「あ、若利くん!」
「!」
「ちょっとこっち来てヨ!」
「!?」

天童くんの奥に見えたジャージ姿の牛島くんをしっかり目に焼き付けていると、何を思ったのか天童くんが牛島くんを手招きした。

「何でみょうじがここにいるんだ?」
「なまえちゃんが若利くんに話があるんだって〜」
「は!?」
「それじゃーごゆっくり〜」

牛島くんを私に向き合わせて天童くんは行ってしまった。ものすごくニヤニヤしていた。こんなに近くで牛島くんのジャージ姿が見られてそりゃ嬉しいけど、ここから私にどうしろと言うんだ。

「話とは何だ?」
「え……と……」

どうしよう、話なんて無い。まあ告白したいと思ってるのは事実なんだけど、こんないきなりは無理だから。心の準備が全然足りない。
牛島くんは天童くんに言われた通り、律儀に私の言葉を待ってくれている。もうすぐ部活が始まってしまう。監督はあの厳しい鷲匠先生だ。私のせいで遅刻なんてさせられない。

「好き……な、人は、いますか……?」
「? 特にいない」
「そ、そっかー!」

いっそ言ってしまおうかと思ったけど無理だった。でも褒めてほしい。牛島くんに好きな人の有無を聞けた私を褒めてほしい。後で瀬見に報告しなければ。

「部活の邪魔しちゃってごめんね」
「まだ始まる前だから別に構わない」
「じゃあ、また明日……」
「みょうじはいるのか」
「え?」

足早に帰ろうとした私を牛島くんが引きとめた。牛島くんからの質問に全身全霊をもって答えたいけど何のことを言ってるのか、すぐにはピンとこなかった。

「好きな人はいるのか」
「!」

好きな人は牛島くんです。その一言がスラっと言えたのなら私は2年も片想いをこじらせていない。

「……すまん、嫌なら答えなくていい」
「う、ううん!好きな人ねっ、好きな人は……うん、いるよ」
「……そうか」

私はそう答えるのが精一杯だった。恋愛上級者なら今の質問に乗じて思わせぶりな言動で駆け引きを楽しむんだろうか。恋愛偏差値底辺の私がいくら考えたところでわかるわけがなかった。



( 2018.7-9 )
( 2022.6 修正 )

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