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after2

 
「手紙を書いてきました」
「……は?」
「なまえへ」
「え、何これ。何が始まってるの?」

久しぶりに私の家で食べる晩ご飯。珍しくリクエストしてきたハンバーグを完食し、食器を置くなり唐突に何かが始まった。鉄朗の手には無地の便箋。意味がわからなかった。

「なまえと出会ったのは高校1年の時。第一印象よく寝てる奴でした」
「ねえ、これ長くなる?トイレ行っていい?」

戸惑う私を無視して手紙を読み続ける鉄朗。なんだか長くなりそうな出だしだ。おふざけに付き合うのはトイレに行って洗い物を片付けてからじゃダメなんだろうか。

「そんななまえにムラっとしたのは高1の文化祭で猫耳つけられて赤面してるのを見た時です」
「言い方。てかそれ初耳」
「高3で付き合い始めて今日で十年になります」
「えっ、あ、今日だっけ?」

ふざけ倒してるんだと思っていたら聞き流せないフレーズが聞こえた。やばい、今日記念日だったのか。だから珍しくハンバーグが食べたいなんて言ったのか。
お互いに記念日とかイベント事にはあまり頓着が無くて気付いたら祝うってスタンスでやってきたけど、流石に十年目という節目を忘れてたのは人としてヤバい気がした。

「なまえが記念日忘れてることはまあ想定の範囲内です」
「うん、ごめん」

けれどこの程度で鉄朗は私に幻滅なんかしない。じゃなきゃこんな可愛げのない女と十年も付き合ってないだろう。

「周りにはまだかまだかって何回言われたかわかんねーけど、俺は一人前の男だって胸張って言えるまではって決めてたんで」
「……ほう?」

ここでようやく話の本筋が見えてきた。周りに何を「まだか」と言われてきたのかは察しがつく。十年付き合っているとなると、私だって友達や上司、そして親からも「まだか」と急かされることがたくさんあった。

「この前給料上がったし、貯金もまあまあ貯まった。色んな経験して、人として成長できたと思ってる」
「……」
「そこそこ優良物件だと思いますが、どうですか」
「……そうだね」

鉄朗の視線が手紙から私に向いた。ポーカーフェイス気取ろうとしてるんだろうけど、長年一緒にいた私には緊張してるのバレバレなんだから。程々の愚痴をこぼしながら頑張って仕事をしてきたのも知ってる。あまり散財しないことも知ってる。人間として素晴らしい人だってことは、昔から知ってる。

「俺と結婚してください」
「よろしくお願いします」

私は差し出された右手を迷うことなくすぐ手に取った。するとさっきまで強張っていた鉄朗の顔が安心したように綻んだ。
こんな回りくどいやり方なんてしなくてよかったのに。照れ隠しでふざけた感じを装うのは鉄朗の悪い癖だ。でもまあ、ちゃんと言ってくれたからよしとしよう。大事なことはちゃんと口で伝えてくれる人だとわかっていたから、私も焦らずに待ち続けられたんだと思う。

「てかそれ白紙じゃん」
「手紙なんて書くわけねーだろ」
「えー……それちょうだい」
「何で」
「額に入れて飾る」
「やめて。マジで」

折り目のついた真っ白な紙を額に入れて飾るなんておしゃれじゃん。玄関にでも飾ろうか。どんなに疲れて帰ってきても、喧嘩して気まずい時でも、これを見れば今日の言葉を一言一句思い出せる気がする。未知の新婚生活に想いを馳せて、白い便箋を大事に折り畳んだ。





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