×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
after5

 
「なまえ、もう9時過ぎてるよ」
「んー……寝すぎちゃった……」

仕事が無い日はどうしても早く起きられない。倫太郎くんに起こされてようやくもぞもぞと動き出した。
今日は祝日の月曜日。昨日の練習を終えてうちに泊まった倫太郎くんは、上下黒のスウェットでコーヒーを淹れていた。青とピンクのお揃いのマグカップは、交際十年目を記念して侑くんから貰った物だ。食器、衣類、歯ブラシに充電器……もう手ぶらで来ても不自由なく過ごせるくらい、私の家には倫太郎くんの物が揃っていた。

「……あ! 今日ゴミ捨ての日やった!」

倫太郎くんが淹れてくれたコーヒーを一口飲んだところで思い出した。この地域のごみの日は毎週月曜日と木曜日。いつもは出勤ついでに捨ててるけど今日は祝日……油断していた。

「ゴミって8時までじゃないっけ?」
「うん。でもゴミ収集車まだ来てへんから……ちょっと行ってくる!」

一応8時までとは言われてるけど、ゴミ収集車が来るのはいつもお昼くらいだからまだ間に合う。すぐ近くだし、部屋着でええかな。上からパーカー羽織るくらいはした方がええかな。

「いいよ、俺が行く。なまえは適当なご飯よろしく」
「ほんま?ありがとう」

私が一人勝手にバタバタしていると倫太郎くんがゴミ袋を持ってくれた。ありがたい。お言葉に甘えてゴミ捨ては倫太郎くんに任せて、私は朝ごはんの準備をすることにした。本当に一緒に暮らすようになったら、こんな日常が待ってるんやろか。想像してニヤけてしまった。
とりあえずパンを消費したいから、ささっとハムエッグでも作ってしまおう。トースターにパンを2枚入れて、フライパンを左手で握った時にカチッと何か硬い物が当たった音が聞こえた。

「……!?」

それは私の左手薬指にはめられた指輪と、フライパンの取っ手がぶつかった音だった。
私は普段指輪はしていない。持っていたとしても左手の薬指には絶対に着けない。何故ならそこにはめる指輪は特別な意味を持つから。高く掲げていろんな角度から見てみると、キッチンの照明を反射してキラキラと輝いた。素人目にも、雑貨屋さんで売ってるようなファッション小物のレベルではないことがわかった。

「お、パンの匂いだ」
「り、倫太郎くん……」

自分ではめた記憶がないから、これはきっと倫太郎くんの仕業だ。いろんな期待と高揚感が入り混じって、ゴミ捨てから帰ってきた倫太郎くんを呼ぶ声が震えた。

「……気付いた?」
「っ、うん……!」

私の様子を見て倫太郎くんがふわっと笑った。
いったいいつの間にとか、どうやってサイズ調べたのとか、いろいろ聞きたいことはあったのに、大好きな笑顔を見たら全部吹っ飛んで代わりに涙が出てきた。

「結婚しよっか」
「うん……うんっ!」

倫太郎くんの優しい声に何度も頷く。
倫太郎くんに出会えて良かった。今となってはあの時、羊のパンツを履いて転んで良かったとさえ思える。好きな人に好きでいてもらえる。この奇跡をこの先もずっと忘れずに、倫太郎くんの隣で笑っていたい。



( 2018.10 )
( 2022.5 修正 )

[ 13/127 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]