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after2

 
角名くんと付き合うてもうすぐ1ヵ月になる。最初こそ実感がわかなかったものの、今では私が角名くんの彼女であることはしっかり自覚している。
平日はバレー部の練習が遅くまであるし角名くんは寮だから、一緒に過ごすのは毎週土曜日の部活終わり。近くをちょっとブラブラして、角名くんが家まで送ってくれてバイバイするのがいつものパターンだった。彼女の実感はあるけれど、こうやって角名くんの隣を歩くのはまだほんの少し緊張してしまう。

「来週練習試合あるけど来る?」
「あ、うん!行きたい!」

何気ない会話の時、ふと隣の角名くんを見上げるとどうしてもある一点に視線が集中してしまって慌てて逸らす。
こうやって意識してしまうのは、夏休みが明けてから毎日のように侑くんが「ちゅーしたん?」て聞いてからかってくるせいだ。
もちろん私だって角名くんとキスしたいと思っている。でもお付き合いが初めてな私には、いつどのタイミングでどうやって切り出せばいいのか全くもってわからなかった。
角名くんの方からも特に何もないし……私とキスしたいとか、思わないんやろか。不安に思ってチラっと見上げると、また唇が目に入ってすぐに地面に視線を戻した。一緒に帰ってる時にこんなこと考えてたらあかん。


***(角名視点)


今日の帰り道、みょうじさんはなんだか心ここにあらずって感じだ。何を考えてるかはなんとなくわかる。ふと視線が合うと口元を見られ、そしてすぐに逸らされる。本当わかりやすくて可愛いんだから。
侑が部活で会う度に「ちゅーしたん?」って聞いてくるから、きっとみょうじさんにも同じようなことをしてるんだろう。本当にガキだと思う。
もちろん俺だってみょうじさんとキスしたいと思ってる。本心を言えば手っ取り早く済ませたい。みょうじさんのペースを考えて遠慮してたのに、そんなに期待されたら応えてあげなきゃじゃん。

「みょうじさん」
「ん、な…!?」

みょうじさんの家まであと50メートル。周囲に人がいないことをしっかり確認してみょうじさんにキスをした。さすがにそんなじっくりもできないから触れてすぐに離したけどめちゃくちゃ柔らかかったし温かかった。もう一回したいという欲を抑えて、みょうじさんの真っ赤になった顔を堪能することに集中した。

「え、え……」
「キスのこと考えてたんじゃなかった?」
「か……考えてた……」
「そ。俺も」
「!」

素直に「考えてた」って言っちゃうみょうじさんはとても可愛い。
侑に言われるまでもなく、付き合えたらキスしたいって思うのは普通だ。俺だって人並にそういう想像はするし緊張もする。あまりがっついてると思われたくないからタイミングが来たらと思ってたけど……こうやって真っ赤ではにかむみょうじさんの表情が見られたから、さっきキスして良かったと思った。

「侑には俺が言っとくから」
「え!?」
「みょうじさんとキスしたって」
「!」
「毎日聞いてくるでしょ?うざいよね」

この様子だとやっぱりみょうじさんにも同じこと言っていたようだ。
侑がみょうじさんに会うよりも先に、明日の部活でこっちから言ってやろう。みょうじさんの恥ずかしがる顔をむやみに見せたくないし。

「これで侑くんからいじられることも減るかなあ」
「……それはどうだろう」
「えっ」
「侑のことだから内容を変えてまたからかってくるよ」
「?」

確かに、これで「ちゅーしたん?」って聞かれることはなくなるだろう。けれど恋人としてこなしていく行為はキスだけではない。みょうじさんはまだ何のことかピンときてないみたいだ。

「だから先回りして最後までしちゃう?」
「さ、最後!?」
「……うそうそ。ごめん、からかった」
「え、あ、うん」

なんて、さすがにまだそんなことはできない。慌てるみょうじさんが見たかっただけだ。まあ侑も「セックスしたん?」なんてみょうじさんには聞かないだろう。俺には言ってくるだろうけど。

「多分、次は呼び方をからかってくるんじゃないかな」
「呼び方……」

あといじってきそうなところといえば呼び方だろうか。「付き合ってるのに名字呼びなん?」とか言ってきそう。俺もそろそろ名前で呼びたいって思ってたところだし、ちょっと利用させてもらおう。

「……なまえ」
「!!」
「いじられる前に名前で呼んどこうよ。俺の名前わかる?」
「う、うん!」

初めて呼んだみょうじさんの名前はとても新鮮で神聖なものに思えた。そもそも「みょうじさん」だってまだまだ新鮮さは抜けきっていない。付き合う前は「ひつじさん」呼びだったからな。
そういえばフルネームを名乗ったこと無かったけど、ちゃんと俺の名前は知ってくれてるみたいだ。よかった。しかしなまえは照れているのか、なかなか口を開いてはくれなかった。

「えっと……」
「……長いから略してもいいよ」
「ううんっ、角名くんの名前、全部がええ」
「!」

長いから呼びにくいのかと思えば、なまえはブンブンと勢いよく首を横に振った。何この可愛い生き物。今の録音しとけば良かった。

「倫太郎くん」
「……うん」

この5文字で俺を呼ぶ人物はそう多くない。か細い声で、精一杯丁寧に紡いでくれた自分の名前は今までになく特別に聞こえた。
顔を赤くしたなまえと目が合い、口元が緩むのを抑えられなかった。やっぱり最初はむず痒い。慣れてくために、これからたくさん呼んでもらわなければ。



( 2018.10 )
( 2022.5 修正 )

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